第31話 全然、まったく、これっぽっちも!

 そりゃ、最初から見掛けが釣り合ってるとは微塵も思っていない。が、しかし。


 ――――叩き潰さなくても良いじゃないですか!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!


「あのね、その、違うのよ? 別に貴女アナタが中等部生の見えたんじゃなくてね、その、噂で」

「ミーウ。機嫌直せって。ミレイ困ってるだろ?」

 申し訳なさそうに謝る美女とクスクス笑うシェルディナードを、ミウはジロリと睨む。

 赤金せきこんの髪をした金の瞳のナイスバディな美女はミレイというらしい。

「もう! シェルディナードのせいよ!」

「えー。何で」

「アンタがさっさと紹介に来ないから!」

「んな事いっても、なぁ?」

「ルーちゃん、いそがしい、から」

 ねー? なんてサラがシェルディナードと一緒に首を傾げると、ミレイがヒクッと口の端を引きつらせた。

「ミラーリに連絡くらい入れられるわよね?」

「忘れてたわ」

「ちょっと! それが一番付き合いの長い彼女に言う台詞!?」

 ピシッ……。そんな幻聴が聴こえそうな様子で、シェルディナードとサラ、ミレイ以外の全員が動きを止める。

 ゴクリと喉を鳴らしたのはケルだった。その視線がゆっくり、ミウに向けられる。




     ◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆




 ――――別に、驚きませんよ。シェルディナード先輩に他に彼女がいたって。


「ミウ……?」

 アルデラが心配するようにミウの様子をうかがう。

「シェルディナード先輩、言ってましたよね」

「ん?」

 静かすぎるくらい静かに、ミウが淡々と口を開く。

「来るもの拒まず、去るもの追わず。自分からフる気はないから、彼女やめたいなら、フれって」

「そうだな」

 ミウの言葉を聞いているシェルディナードとサラ以外は、一言出る度に段々息苦しい雰囲気になるのだが。

 ミウが何の感情もこもらない瞳でケル達を見る。

「なので、別にあたしはなんっとも思ってません。そもそも、あたしは『彼女』じゃないですから」


 ――――好きで告白したわけでもないし、そもそも好きじゃないんだからシェルディナード先輩に他に彼女が居ようが全然、まったく、これっぽっちも! 関係ない。


 ひんやりとしたミウの笑みに、ミレイも流石に何かを感じたのかシェルディナードを見る。

「ちょっと、シェルディナード……アンタ、何やってんの」

「ん? お付き合い」

「どういうつきあい方してんのよ!?」

 イラッとした様子のミレイを他所に、シェルディナードは面白そうな笑みを崩さない。


 ――――あ。なんだろ。今、すっごく、シェルディナード先輩の顔にお弁当の空き箱とかぶん投げたい。


 やっちゃダメ? 良くない? そんな思考がじわじわとミウを蝕む。うっかり何かの波動を修得してしまいそうな様子である。

「ミウ」

「何ですか。サラ先輩」

 空き箱ぶん投げたいとかまで察知するのかこの先輩。そんな思いでミウはサラに半分据わった目を向けた。

「ルーちゃん、今は、ミウしか見てない、よ」

「…………はい?」


 ――――うん。何言ってんのかなこの先輩。


「それじゃ、ダメ?」

 藍色の瞳で真っ直ぐにミウを見て、コテンとサラが首を傾げる。

 普通に考えてダメに決まってるだろう。


 ――――無いです。最低です。…………けど。


「別に、あたしには関係ありません。あたしは『本当の』彼女じゃないですもん」


 ――――本当の彼女じゃないし、好きじゃないし。だから、関係無い。無いったらないんです。


 だから、この胸の酷く苦くて嫌なモヤモヤも、気のせいに決まってる。

 ぷいっと顔を背けてミウは顔をしかめた。これじゃ、嫉妬しっとしてるみたいだと思って。

「ねえ、シェルディナード。フるとか何とか聴こえてるんだけど、本当にアンタ何してんの?」

「ミウが罰ゲームで俺に告白して、それ無効にしたいって言ったから解約条件提示してお付き合い中」

「アンタどんだけ人でなしなのよ!?」

「ルーちゃんは、優しい、のに」

「どこが!!」

 キッとまなじりを吊り上げ、シェルディナードを睨んだ後、ミレイは一転して労るような視線をミウに向ける。

 躊躇ためらいがちに座るミウに歩み寄り、ぎゅっとミウの頭を抱き締めた。ミウの顔がその豊満ほうまんな胸の谷間に埋まる。

「うぷっ!?」

「こんな可愛い純粋そうな子を弄ぶなんて。アンタ、鬼!? 悪魔!?」

「人聞き悪りぃな。……つか、ミウ死にそうなんだけど?」

「え? っ! ごめんなさい!」

 窒息しそうになるミウに、ミレイが慌てて身を離す。

 それを見て、サラが静かに席を立ち、ミウの側に寄るとイスごとミレイから引き離す。

「ひぎゃ!?」

「ちょっと、黒陽ノッティエルード?」

「壊れやすい、から、ダメ」

貴方アナタに言われたくないわよ!?」

「ルーちゃん、から、任されてる、から。壊されるの、困る、よ」

 イスの背ごと抱き締めるようにミウの後ろから腕を回し、サラがミレイを半眼で見る。全然信用していないし、ミレイの言葉が心外だと言わんばかりだ。

「貴方、少しはシェルディナードから離れたら!?」

「イヤ」

 ツンとそっぽを向くサラにミレイが呆れた目を向ける。

「オレ、どっちか、なら、ルーちゃんの、彼女、ミウの方が、良い」

「は!? サラ先輩!?」


 ――――ホントに何言ってんのこの先輩ぃぃぃぃぃ!!!!

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