第30話 中等部生じゃありません
――――実益兼ねた趣味ってそういう事だったんだ。
食べれば食べるだけ魔力として蓄えられる体質なら、そりゃ自分で作ってどんどん食べるし、どうせ食べるなら美味しい方が良い。
いや、普通はそれでも自分で作ろうなんて思わないだろうから、やっぱりシェルディナードが変わっているのだ。
わけはわかったものの、サラの視線が怖い。
「ところでミウ? その紙袋は?」
「あ。コレは」
ちらりと注文したらしいサラ(目出し帽)を見る。
「開ければ?」
お許しが出たのでテーブルの上に出していくと、どうやらヘアケア用品とリップやハンドクリームなど。
「それ、使って。あれの作った物だから、品質は、保証できる、し」
「ラスティシセルさんが? ……サラ先輩のお化粧品てもしかして全部?」
「そう。お人形、の、メイクに使う、から」
「え? お人形?」
エイミーがおっとりと微笑む。
「リブラの若様は有名な人形師ですものね」
「人形師!?」
サラはそんなミウの反応にコテンと首を横に倒す。
「知らなかった?」
「年に一度は大きな個展も開いてますわよね」
「うん。……この間、中間で手伝ってくれた、子たち、も、作った、よ?」
「この間……」
え。あの恐怖のデッサン人形?
「デッサン人形の個展……」
「違う。あの子たち、は、気分転換に引き受けた、の」
「個展ではいつも等身大の球体関節人形を展示されてますわね」
「そう。でも、壊れやすい、から。動き回る、なら、あの子たちが、適任、なの」
ふと、サラは思いついたようにエイミーとアルデラを見る。
「二人に、頼みたいこと、あるんだけど」
「あら。何でしょう?」
エイミーが問うと、サラはスッとミウを指し示す。
「ふぇ? あの、あたしが何か」
「ミウ、採寸してくれる?」
「何でですか!?」
◆ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◆
「リブラの若様。採寸終わりましたわ」
はい。こちらがメモです。とエイミーがサラにミウの採寸結果を渡す。
「ありがと」
「うぅ~……」
それをミウは涙目で睨み付けていた。
そしてメモに目を落としたサラがぽつりと。
「あ。やっぱり。胸、余る、ね」
ケルが飲んでいたお茶を吹き、ゴホゴホとむせ、エイミーがその背をさすった。
ミウは凍りつき、次いでぷるぷると肩が震える。
「サラ先輩の」
「?」
なぁに? みたいにサラが首を傾げ、ミウが我慢出来ないというように叫んだ。
「サラ先輩の馬鹿ぁぁぁぁぁぁ! サラ先輩はデリカシーが無さすぎですっ!! 傷つくって言ったでしょ!!」
「え。事実、言っただけだよ?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! シェルディナード先輩も笑わないで下さいぃぃぃぃぃ!!!!」
「アハハ。
驚いたような顔でサラがシェルディナードの袖を軽く引っ張る。
「ルーちゃん、ダメ、なの?」
「ダメみたいだなー」
「みたいだなー、じゃないですよ! ダメなんです!」
期末夜会への強制出席は確定したものの、そもそもミウはパーティードレスなんて持っていない。そこでサラが自分の人形用をミウに合わせてお直しすると言って採寸になったのだが。
「に、人形と比べないで下さい! 人形は元々スタイル良く作られてるんですから!!」
「え。一番凹凸の無い子のサイズ、なのに?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!! サラ先輩きらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
ミウの心にクリティカルダメージを叩き込み、けれどその自覚のないサラは目を見開いて固まり、会心の一撃を受けたミウはアルデラに泣きついて頭を撫でられる。
アルデラがサラに呆れたような目を向けた。その目はどうにかフォローしろと言っている。
「…………」
サラは悩んだ末、口を開く。
「ルーちゃんの彼女、別に、全員が、はっきり
「ちょっと、シェルディナード!」
「!?」
気にしなくて良いんじゃない? とサラが言うより早く。
温室に踏み込んでカツコツとハイヒールを鳴らして近づいたのは、ミウと対照的に背が高くボンキュッボンなボディラインも美しいオトナなお姉さまで。
「アンタ、中等部の見るからに純粋そうな子に手ぇ出したって本当!? しかもその目出し帽なに! 一体何考えてんのよ!」
あ……。と。誰ともなく心の声が聞こえた。
「……です」
「え?」
ミウの声に、女性がそちらを見る。
「あたし、中等部生じゃありませんんんんんんんんんんんんんんんー!!」
あっちゃー、と片手で顔を覆うケルと、間の悪いと顔に書いて苦笑しているエイミーとアルデラ。
「え? え?」
突然叫ぶように抗議したミウに驚いて戸惑う女性と、混沌とした雰囲気がその場を支配した。
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