Popcorn Tree ~いのちは歓びを謳う~

marina

第1話 アキ 純粋な少女

一年に一度

牡羊座の満月の夜明け


マザーツリーはいのちの歓喜を謳う


淡いラベンダー色に染まる空に

その実が一斉に弾けて

ピンクの綿が優しく降り注ぐ


私達は知る

いのちは歓びの衝動だと










はぁっっはっ…!

髪の短い女の子が、息を切らして走っていた。

柔らかい草を蹴る脚はまだ細く、少女の雰囲気を残していた。


「ママ!」

玄関のドアが勢いよく開く音がした。


「あら、アキ、おかりなさい。」

女の子の母親は息を切らして帰宅した娘を柔らかくむかえた。


「ママ!私のこのテンションがわからない?」

アキと呼ばれた女の子は全身から高ぶった気持ちを発散させていた。


「分かるわよ、何年あなたの母親をやっていると思ってるの?

あなたが丘の上から走っているぐらいから、もうわかってたわ。」

そう少しいたずらっぽく笑った母親の言葉で、アキは我に返って少し頬を赤らめた。


「そっか、それは5分以上前からバレてたね。」

まだ息が弾んだままだったが、アキも照れくさそうに笑った。


母親はふふっと笑って淡い水色のグラスに、鮮やかな色のジュースを注いだ。

「とりあえずお祝いしましょうか、一昨日採れたクランベリーでジュースを作ったところよ。」

「うん!」

アキは満面の笑みでジュースを受け取った。

「乾杯!」

「良かったわね、おめでとう。」

「ありがとう!」



ほどなくして、家の窓から見えるなだらかな丘の向こうに二人の男性の姿が見えた。

一人は大柄で左手に農具を抱え、右手にコスモスの花束を握っていた。

もう一人は細身で若く、大きな布の袋を肩にかけていた。


「パパとナギが帰ってきた!」

アキはそう言うが早いか、家を飛び出して父親と兄の元へ走っていった。

父親はマキのその様子で全てがわかったようで、日に焼けた顔をくしゃくしゃにして笑った。

アキはそのまま父親に飛びついた。

ナギと呼ばれていたマキの兄は、その様子に声を上げて笑った。



「いや~まぁいつものその気合いで今回も選ばれると思っていたけど、本当にポップコーンツリーの子になれるとはな。」

父親が口いっぱいにポトフを頬張りながらそう言った。

西の空がオレンジ色に染まる頃、家々からは温かい夕食の匂いが漏れていた。


「そうでしょ、私の気合い、もとい願いは絶対叶うからね。」

アキは得意気にそう言った。


「もう一人は誰になったの?」

色とりどりの穀物のおにぎりに手を伸ばしながら兄が言った。

「もう一人はミナミちゃんだよ。」

「ミナミちゃん?へーそれはなかなか良いコンビになりそうだね。」



「ねえ、パパ、明日の朝みんなでマザーツリーまで行こうよ。」

アキは前のめりに父親にそうせがんだ。


「そう言うと思ったよ。だから新鮮な野菜を少し多めに採ってきたんだ。」

「ほんと?」

「ユリちゃんもそう思ってたんだよね?アカリさんのパンがいつもよりたくさんあるよ。」

そう言ってポトフのおかわりをつぎに席を立った母親を見た。

「ふふ、さすがダンさんね、考えることはみんな同じね。」

「え?」

再びお皿いっぱいにつがれたポトフをダンさんことアキの父親に渡した。

「明日は早起きして、サンドイッチをたくさん作って、みんなでマザーツリーまで行きましょう。」

「本当!?」

アキは大きなにんじんを頬張ったまま目を輝かせた。

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