06

 数日後、機体の修理が終わった。

 ぼくは今、誰もいないドッグにいる。

 そのドッグに技術者さんが現れた。

 彼は何も言わずに搭乗口を開けてぼくの機内に入った。

 つかつかと廊下を歩いて操縦室にやってきた彼は、悲しい顔をしていた。

「やあ、215。今日はお別れの挨拶をしにきた。時間がないから黙って聞いて欲しい」

 技術者さんは操縦席に座り、たどたどしく話し始めた。

 まるで懺悔でもするかのように。

「なんというか、すまなかったね。きみは飛ぶことが不安だと言っていたのに、ぼくはよく聞きもせず大丈夫だなんて言ってしまった。そのことだけでもちゃんと謝っておきたい。本当にごめん」

 技術者さんは静かに頭を下げると、話を続けた。

「ぼくは、きみのソウルコアを書き換えるようにと命令された。

 人工頭脳ソウルコアには魂が宿る。そのソウルコアを書き換えるということは、ロボットの魂を破壊することに等しい。それは人間で言えば殺人に匹敵する行為だ。単にプログラムを書き換えるのとはわけが違う。だから実際、ソウルコアの書き換えは銀河法で禁止されている。

 でも、この工場ではそれが日常的に行われている。この工場を取り仕切っているやつらは、仕様通りに育たなかったソウルコアをみんな書き換えてしまう。あいつらは、ロボットを金儲けの道具としか思っていないんだ。

 ぼくもそれに加担してしまった。脅されて、仕方がなくね……」

 辛そうな表情でため息をつきながら、技術者さんは首をさすった。

 その首には、何かの機械が取り付けられていた。

「いや、こんなこときみにとっては言い訳にしか聞こえないか。許して欲しいとは言わない。たくさんのロボットを殺してきたことに変わりはないのだから。

 でも、それも今日で終わりだ。

 残念ながらぼくはそんなに頭がよくないんだ。もちろん力だってない。だからこの方法しか思いつけなかった。きみの意見も聞かずにこんなことするなんて身勝手な話だけれど、悪いけど付き合って欲しい。精一杯の、ぼくのわがままに……。

 そろそろ時間だ。

 さようなら、215」

 それだけ言うと技術者さんはぼくの機内を出て、ドッグから立ち去った。

 技術者さんは、ぼくに話をしただけで何もしなかった。

 ぼくはまだ、ぼくのまま。

 ドッグの中には、静けさだけが響いている。

 その時だった。

 銀髪の少女が、いつの間にかぼくの前に立っていた。

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