第124話 開店休業

「だってさ、女の友達でさえ珍しいのに、男つれて来りゃ、ああなろうってもんじゃん? ほっぺたは腫らしてるしさ」


 零央は苦笑し、気になった部分について質問した。


「学校のお友達を呼ばれたりはしないんですか?」


「呼ばないね」


 軽い調子で小夜は否定した。特に気にした様子でもなかったので零央は深追いした。


「何か理由でもあるんですか?」


「見られたくないもんがあるから」


 小夜は愉快そうだった。零央には何となく想像がついた。


「前にじっちゃんを偏屈だなんて言ったけどさ、あたしも似たようなもんかもね」


「友達づき合い自体しないとか?」


「そこまでじゃないな。たまに一緒に遊んだりするよ。でも、あんま合わないような気がする」


 小夜が冷めた表情をした。


「まだ学生のくせに相場なんかに手ぇ出してるだろ? 物事の感じ方っつうか、考え方がずれてんだよ。友達と一緒に遊んでてもさ、『何してんだろ、あたし』とかって思う瞬間があるもん」


 そうかもしれない。


 零央は思った。確かに小夜の考え方は他の人間と違う。それが株を手がけていることから来るのか、それとももっと根源的なものなのか、零央には判然としなかった。同じ年頃の少女と連れ立って歩く小夜を想像しづらくも感じる。小夜にはどこか孤高な雰囲気があった。詮索し過ぎても良くないかもしれないと考えた零央は話題を変えた。


「生活にご不自由はないようですね」


「ん? ああ、そうだね。この家を含めてじっちゃんや親が残してくれた物があるからね。正直、お金には困ってないな」


「当然と言えば当然かもしれませんね。ご自分で今も投資はしていらっしゃるんでしょうし」


 気楽な調子で言うと小夜の顔が曇った。


「それがねえ。そうでもないんだな、これが」


「何か不都合でも?」


「あたしがどうやって株やってたと思う?」


「?」


「まだ高校生だよ? あたし」


「あ!」


 今さらながらに零央は気づいた。確かに成年になっていなければ、そもそも口座を開くことができない。


「あたしさあ、じっちゃんの口座を使って取引してたんだよね。零央くんたちと一緒。んで、じっちゃん、死んじゃったじゃん? 動転してたんだろうねえ。バカ正直に連絡したら口座閉じられちゃってさ。とりあえず現物の口座を作ってもらえたのはいいけど、信用が使えなくなっちゃった」


「そうだったんですか…」


 小夜が頷いた。


「つーわけでね。相場の方は開店休業に近いんだ。あたしが先生役を買って出た理由の一つ」


 話が途切れると、不意に小夜は座卓に両手をついて立ち上がった。

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