第111話 先を見据えて株は買う

「今回、ぼくはやりませんでしたが、成長株という考え方、というか概念がありますね?」


「あるね」


「小夜さんは、どう考えていらっしゃいますか?」


「有効かどうか尋ねてるってことでいいかな?」


「そうです。お買いになったことがありますか?」


「あたし個人に関して言うと、狙って買ったことはないな。結果として買ったことならある」


「と、言われますと…」


「うん。前に自分が使ってる会社の株を買ってるって話をしたことがあるよね?」


「はい」


「で、その考え方で新興のアパレルの株を買ったことがあるんだよ」


「ああ、なるほど。それがたまたま成長株と言えるような銘柄だったわけですね?」


「そ。で、売っぱらった後で気づいたわけ。ちょっと売るのが早かったな、って」


「結構上がったとか?」


「うん。かなり。気にしないけどね」


「それじゃあ、考え方としては有効なんですね?」


「それはね。企業の成長を見込んで投資するって意味じゃ、極めて投資らしい投資だよね。そういうのが好きな人にはいいと思うな」


「コツとかあるんでしょうか?」


「強いて言うなら、まだ企業の評価が低い時に買うことだね」


「なかなか難しそうですね」


「ま、そうだね。現状ではさほどでもないのに発展を見込むわけで、先を見る目が必要だもんね。ただ、株価に注目するなら、低い時に買えばいいんだから結構楽だよ」


「先程おっしゃっていたアパレルの株もそうされたんですか?」


「当然。まだ割合、株価が低い時に分割して買ったんだ。事業の内容については自分で商品買って悪くないと思ったし、他でも買ってる人多かったしね。会社に対しての見立ては、その程度だったな。結局さ、成長株は逆張りとは違うんだけど、これから上がる株に狙いを定めて買う、って意味じゃ同じなんだよ」


「どちらも株価は安くて、低い位置にありますからね」


「そういうこと。先を見据えて行動のできる人間って、あんまいないんだよね。あれ? これ、前にも似たような話、したことあるような気がするな? ま、いいや。株で成功するには大事な話だからさ。聞いとく?」


 零央は頷きで答えた。


「最初に断わっとくと嫌味じゃないよ?」


「了解しました」


 零央は笑い顔になった。


「高い株を買っちゃう人間って、現在の状況を見てるだけなんだよ。そうじゃなくて、将来の状況を見据えて株は買うんだ」


「昔のぼくですね」


「嫌味じゃないから」


「分かっています。気にせず、どうぞ」


 返事をすると、小夜は肩にかかっていた髪の毛を後ろに流した。


「で、さっきも言ったように、そういうのって普通の人間にはなかなかできないもんなんだよね。人間ってのは、今の状況に引きずられる生き物だからさ。調子がいいと楽観的になるし、悪けりゃ悲観的。でも、違うんだよ。今、調子がいいから気をつけなきゃいけないし、逆に不調なら次の光明に目を向けて行動するようにしないと行き詰まっちゃう。株だけじゃなく、他でも一緒」


「なかなか難しいことですね」


「それでもやらないといけないんだよ。って、なんだか説教みたいになっちゃった」


「いえ。とても参考になりました」


 戸惑う小夜に零央は真摯に応じた。


「そこで、次のご相談なんですが」


「ん? 何さ?」


「小夜さんのお話に従えば、比較的調子良く進んでいるぼくは気を引き締めないといけないわけですよね?」


「かな?」


「引き続き銘柄探索を推進しようと考えています」


「いいんじゃない? 既定路線だな、そりゃ」


「合意に到れて嬉しいです」


 和やかに意見を交わした二人は、次の予定を相談し始めた。

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