第102話 ニュースの受け止め方

「結局、五日間落ち続けましたからね。今朝の新聞にも一面で取り上げられていました」


「いいんじゃないの? むしろ好都合だろ?」


「落ちてるからですか?」


 クレープを口にしていた小夜が、顔を頷かせてから飲み込んだ。


「安く買えていいじゃん」


「普通なら手を出したくない局面ですよね」


「普通なら、ね。でも、投資で普通をやっても勝てないの。何度も言ってるだろ?」


「分かっています。そのつもりで今も様子を見ています」


「なら、いいよ。ニュースってのはね、取り上げるだけの中身があるからニュースになるんだよ。言い方を変えるとそこがピークなの」


「ピーク、ですか?」


「そ。大きく取り上げられたってことは、一つの頂点だよね。株価は落ちてるんだから、あくまでニュースとしてね」


「話題として、ということですね?」


「うん。株に関わるニュースの話っていうとさ、知ったら仕舞いとか、新聞に載ったら終わりとか、そんなのがあるだろ? それは、悪いニュースにも言えるんだよ。もちろん、影響が長引いて尾を引くこともあるから、あたしも今すぐに買うのを勧めないけどね。ニュースの受け止め方を話しとくにはちょうど良さそうだから、話しとく」


「小夜さんのおっしゃる通りだとすると、悪いニュースは実はいいニュースということになりますね」


「そうだよ。悪いニュースを聞くとネガティブになるのは人の性だけどさ、ホントはその瞬間から回復に向かってるんだよ」


「だとすると、下落はこの週で終わりですか?」


「さあて。それはどうかな? 一度ピークを迎えて落ち始めたのに、一週間で終わ

りってことはないんじゃないの? ま、判断は自分でするんだね。そういう約束だろ?」


「そうでした」


 苦笑して零央は答えた。つい、アドバイスを求めるような質問の仕方をし、やんわりと突き放されてしまっていた。


「今朝のニュースは一つの節目だとは思うけどね」


 なら、翌週は反発するかもしれない。そう思いつつ、零央は当初の方針に従って様子を見ると決めていた。


「しかし、今でこそ慣れましたが、株が下がっている時に買うのは心理的に抵抗があるものですね」


「そこはそうだろうね。でも、株で儲けるにはそこを乗り越えないと。安く買おうと思えば、人が買わない時に買い、人が買わないものを買うしかないだろ?」


「まさに逆張りですね」


「その通り。下がってる株ってのはさ、他の人が買わないから安いのさ。そして、そういう株もいつか多くの参加者が買いだせば―」


「高くなる」


 零央の合いの手に小夜が頷いた。


「そういうことだね」


 あっさりと言って、小夜は手に持っていたクレープを平らげた。零央も残っていたタピオカドリンクを飲み干した。

 二人の週末は穏やかに過ぎていった。

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