第103話 ショッピングモールにて


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「どお、感想は?」


 零央の横を歩く小夜が訊いた。


「…そうですね。先週行ったショッピングモールのように大きくないので…。そこがいいと思います」


 答えを聞いた小夜はさもおかしそうな含み笑いをした。


「…どうせまた、体力無いなあ、なんて思ってるんでしょう?」


「ううん。思ってないよ。うん。ほんとぉ」


「…」


 渋い物でも食べたような表情に零央はなった。小夜の表情と抑揚は言葉とかみ合っていなかった。先週土曜日に訪れたモールは大規模なもので、零央は探訪の途中、苦手を吐露していた。目当ての場所へ行こうにも結構な歩数がいり、大きすぎて逆に使いづらいのだ。正直な感想を述べた零央に小夜は体力の不足を指摘した。


 …特別、体力が無いとは思わないんだけどな…。


 心の中で呟く零央の脇を向かいから歩いて来た親子連れが二組、通り過ぎた。

 二人が歩いている場所はショッピングモールのフロアだった。先週訪れたものとは別のモールで運営している企業も異なる。比較を提案したのは小夜だった。週の変わった土曜の昼時、よく晴れた日のためか来場者は多かった。

 次の調査対象を決める際、零央はさりげなくレジャーランドを提案していた。しかし、小夜には却下された。理由がふるっていた。


『みんなが行く場所には行きたくない』


 というのが小夜の言い分だった。


 実に小夜さんらしい。


 誘った時の情景を思い返し、零央は微笑った。


「何、笑ってんの?」


「あ、いえ」


 慌てて零央は表情を引き締めた。つい、気分が顔に出ていたようだった。

 さほど気にした風もなく、小夜は歩き続けた。足取りは妙に軽い。二階のテナントで少し早めの昼食をとり、一階にあるフードコートを目指す途中だった。デザートが待っていた。

 零央は白いニットに濃いグレーのストレッチパンツを合わせていた。靴は革のスニーカーだ。秋にしては比較的暖かな日だった。

 小夜は細い横縞のカットソーの上にMA―1スタイルの薄手のジャンパーを羽織っている。色はカーマインだ。下はデニムにスニーカーを履いていた。肩にかかっている小さなバッグは以前にも見た黒い皮製だった。


「よし! 着いた!」


 立ち止まった小夜が力強く言った。お目当てのフードコートの前だった。昼時でもあり、フードコートは結構な賑わいを見せていた。


「あれね!」


 小夜は最も左側にあるクレープ店を指差すと満面の笑顔を向けた。週末の銘柄探しも回を重ね、零央に対して妙な遠慮は見せなくなっていた。零央にとっては喜ばしい変化だった。


「クレープだけでよろしかったんでしたね?」


「そ! イチゴの入ったのね!」


「了解しました」


 微笑みを返して零央は店へと足を向け、小夜は人の少ない場所を求めて店からは離れた場所に移動した。零央がイチゴの入ったクレープとタピオカドリンクを手にして戻った時には小夜は上着を脱いで席に座っていた。間隔の狭い座席の間を通り抜け、クレープを手渡すと零央も対面に座った。簡素で機能を優先したテーブルと椅子だった。

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