第62話 変わり者
零央はお伺いを立ててみた。
「少し歩いてみませんか? 何かヒントが見つかるかもしれない」
「いいけど?」
「ありがとうございます」
快い返事に零央も素直な礼を述べた。
「この先に公園があるんです。そんなに遠くありませんし、途中の道筋にはお店もあるので参考になるかもしれません。どうですか?」
「いいね。行ってみようか」
小夜の同意に零央が返事をして二人は歩道を進み始めた。
ビルが立ち並び、飲食店や家電店が入居する様を横に見ながら二人は公園に向かって歩いた。途次、以前から気にかけていた事柄を零央は尋ねた。存命ならばまみえていたはずの人物に関してだった。
「りょうげんさ…、いえ、良弦さんってどんな方だったんですか?」
「いいよ、りょうげんで」
横を歩く小夜が顔を振り向けた。
「じっちゃん、本名、あんま好きじゃなかったから。その方が喜ぶと思うんだ」
「何か理由でもあったんですか?」
小夜が小首を傾げた。
「どうかな? あたしもはっきり聞いたわけじゃないんだよね。ただ、『よしふさ』なんて普通読めねえだろうがよ、って言ってたのを聞いたことがある」
「そうかもしれませんね」
確かに考え込みそうな読み方だった。本人に尋ねるのが早そうな名だ。
「でしょ? だからさ、りょうげんって呼ばれるのを放っといたらそれが定着したんだって。本人も気に入ってたし」
「『よしふさ』も悪くないと思いますよ?」
「まあね。でも、『りょうげん』の方が重みがあっていいんだってさ」
「そうかもしれませんね」
二人は笑みを交わし合った。
「りょうげんさんってどんな―性質というか、性格とかなんですけど―どんな感じの方でした?」
「んー? 一言で言うと、変わり者?」
少し考えるような表情をして小夜が言う。
「いきなり、そうきますか」
「だって、ホントにそうなんだもん」
「たとえば、どんなところがです?」
「偏屈だったね。とにかく自分の意見変えないの。他人とぶつかることが多かったから人嫌いでさ、近所づき合いほとんど無し。兄弟姉妹がいなかったし、友達づき合いもないもんだから年賀状なんか一通も来ないし、出さないような生活してたね」
感心したような声を零央は出した。世間一般の基準からすれば確かに少し変わっているかもしれない。
「だからさ、あんたの親父さんも手紙を出す時、届かないかもしれないって思ったってさ」
―なるほど。そういう間柄か。
零央は思った。普段は疎遠と言い表わしてもいいほどの関係でつき合いらしいつき合いはなく、一方で昔取り交わした約束を頼りにできる信頼関係のようなものがある。投資をしていることを互いに知っているぐらいなので、ある意味深い交わりを持った二人だった。にもかかわらず隔絶した間柄のようにも感じられる、良弦と父親のあり方に零央は静かな感慨を覚えていた。
素朴な疑問が口をついた。
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