十五話――ドジ三昧満喫(?)


「到着、と♪」


「なかなか年季のある建造物だな」


「うん。バスナはあまり増改築していないからね。中はちょこちょこ修繕が入っているらしいけど外観は建った当時のままなんだって。他の区役所と違って珍しいの」


「ふむ。で、己の脳はいつになったら修繕が入るのだ、ミンツァ? 故障著しい残念脳」


「シオン、ひどい」


 本当に。拾って面倒を見てくれる上に看病してくれていた女に対して脳味噌の故障が著しいから早く修繕を入れろ、とか。どういう暴言祭だ。誰も楽しくない祭だ。


 ひどいお祭開催中のシオンからそそそ、と離れてクィースはバスナ区役所の自動扉に向かい、なぜかそのまま顔面から激突。ガンっ、といい音がした。顔面ぶつけたクィースは自動扉前で蹲る。なにが起こったのかわからない、ってのと痛いのとで。噴く音。


 友人の珍事に他ふたりが思わず噴きだしてしまった模様。まあ、たしかにいい音とリアクションだ。いっそのこと後世に語り継いでもいいくらい。違った意味で偉大だ。


 しかし、いつまでも笑っているわけにもいかないのでザラとヒュリアが近づく、とザラの百七十八センチの身長を感知して扉が開く。……どうも自動扉の感知能力がクィースのそんなに低くもない百五十四センチの身長を察知できなかった臭い。ことごとく残念。


 いや、それにしてもいい音とリアクションだったことで。ということでヒュリアに助け起こされているクィースにシオンは一言お義理で訊ねてみた。何気にひどいことを。


「楽しいか?」


「全っ然楽しくないよ! 穴があったら……え、っと埋まりたい? だったっけ?」


「自己埋葬するのか? 入るだけに留めよ」


「うわーん! 朝からずっと恥ずかし三昧だよーっ! ううぅ、どうしてこうなるの?」


「ドジ神様の思し召し」


「ふぇええ、要らないぃいい!」


 要らない、と残してクィースはまた扉が閉まって正面衝突の前にさっさと区役所に入っていった。友人ふたりはまだ笑っている。シオンの質問と諺訂正でさらにツボったようなのだが、シオンが動いたのでふたりも区役所に入る。その背後で扉が閉まった。


 区役所内に入ったシオンは行政に詳しくなく、こういった施設とも無縁だったが、公共設備はたいがいにおいて冷暖房がきついイメージを持っていたので中の快適さについほっとする。長居するかはわからなくとも体がおかしくなりそうな室温は勘弁だったからだ。


「おはようございます。ご用件をどうぞ」


 区役所の玄関口にてシオンが結構どうでもいいことを考えていると鈴を転がすような、可憐そのものの声が聞こえてきた。シオンの耳がたしかなら声は正面受付から聞こえたのだが、そこにいたのは人間ではないナニカだった。なので、つい驚いて固まる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る