猫と蛇

晴れ時々雨

🐱 🐍

末藤さんとこのお祀りさんは猫神様なんだって。あすこは古くから革職人営んでてね、太くなったり細くなったりしながら今も続いているんだ。何代か前の息子が手の付けられない自由人で、親に断りもなく骨細工職人に弟子入りしちゃって大変だったことがあったって。息子にしてみりゃ反骨精神だったのかねぇ、骨だっつうくらいだし。皮を剥ぐために生き物を殺すのがどうにも気持ちに刺さるようで、職人は職人でも死体から骨を抜く方が罪の意識から逃れられるとでも思ったんだろう。こっちからしてみたらどっちもそう変わんないようだけど、カワだけに、なんつって。

したらばその噂が巡り巡って親に届いちまって、そのために雇われた厳つい野郎共にとっちめられた息子は実家に連れ戻されたってことだよ。だからまぁ末藤が未だに世襲を守り血を絶やさないで居られるわけだ。


皮を剥ぐのはいくら職人だからって気持ちのいいもんじゃない。流石に。

そこで猫だよ。

原材料を生きたまま仕入れ、飼い猫に与える。種類はなんでもだ。革は大きければ大きいほど加工後は継ぎ目なしの高級品になる。継ぎ目がない、これも末藤印の拘りのひとつさ。

なんでお祀りさんが蛇鰐じゃないのかって?

そうだよねぇ、気になるよねえ。

それは誰も知らない。門外不出なんだろう。しかも、若い頃あそこの職人だった爺さんが死に際にボケた口で寝ぼけた話で、皮を剥ぐ担当の猫、アイツも血筋はずっと同じらしいんだよ。

猫だからいっぺんに何匹か産まれるけどその内の1匹が、その血を濃く受け継ぐって言うんだ。一子相伝みたいで、ゾクゾクすんなぁ。あんなに可愛らしいのに。

因みに革の方のお祀りさんもちゃんと奉ってあるらしい。猫神様の社の中に、よくできた玩具みたいな小さい社が入ってる。くたばっても腹ん中ってわけさ。

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猫と蛇 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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