第128話 旅立ち
ようやく戻ったエデンの平和。
それを脅かさんばかりに闊歩する凶悪犯罪者たちの行列が大通りを真っ直ぐに行進している。
百鬼夜行が如く群れを成してやって来たのは泣く子も黙るジェイルタウンの住民共。彼らが目指す先は旧エスコバル邸。今日はデュランたちがジェイルタウンへ戻る日。仮住まいが終わり、新居へと引っ越す日であった。
「荷物はこれで全部ですかい? デュランの旦那」
巨漢の兄ライガンの肩に乗った弟のココがデュランへと話しかける。
「ああ、問題ねぇ。景気良くちゃっちゃと運んでくれや」
デュランの指示で家財を運びながら列の先頭を進むバング一味。邪教団の魔人エドに瀕死の重傷を負わされた彼らだったが、闇医者グレッグの手により誰一人欠けることなく無事に今日という日を迎えらている。ココに至っては心停止にまで至っていたという話だったが、スマホゲームをやりながらの片手間手術でこの世に繋ぎ止めたというのだからグレッグの医療の腕前にはつくづく驚かされる。
「ん? 俺の顔に何か付いてる?」
ここに引越して来る際はいなかったグレッグが何の気まぐれか今日は参列していた。自身に向けられた視線に気付いたグレッグはデュランへ話しかける。
「いーや、別に。それよりジェイクはあの後どうなった? バタバタしていてまだ何も聞いてなかったが」
「あぁ、メイファンさんとこの補佐の人ね。正直結構危なかったよ。流石の俺も死体を蘇らせることは出来ないからあと数分遅れてたら手遅れだっただろうね。急に拉致られた時は何事かと思ったけど」
グレッグの話では出血が酷くショック状態に陥っており、脈も止まりかけていたという。何より厄介だったのは爆炎からメイファンを庇ったことにより重度の火傷を全身に負っていたということ。皮膚移植を行ないある程度は目立たないように施術したが顔の右側には今だに大きな火傷痕が残っているという。
「怪我の度合いで言えばバングブラザーズより酷かったよ。まだ当分は絶対安静。傷口がまだ化膿しているから、定期的に抗生物質の投与と日に数回清潔なガーゼへの取り替えが必要だね。俺の腕でも全治二ヶ月ってとこかなぁ。俺がコッチに来たのも彼の容体を確認に来たついでだし」
「そうかい。んじゃあ連中によろしく言っといてくれや」
デュランの言葉に手を振り、グレッグは単独でエデンの中心部へと向かって行った。
「デュラン。もうそろそろ出発するけど、忘れ物はない?」
グレッグを見送ったタイミングでウィリアムが話しかけてきた。デュランは咥えた煙草に火を着け、今一度振り返り短い間だったが随分世話になった旧エスコバル邸を見上げた。
吐いた煙が上へ上へと昇っていくのをただ黙って見上げるデュラン。始めてトルメンタと出会ったのも、丁度この辺りだったと思い返していた。
「植物園が出来たらさ、また来ようよ。アイラを連れて三人で」
ウィリアムに肩を叩かれてデュランはフッと僅かに笑うと「そうだな」とただ一言だけ呟き、踵を返してジェイルタウンへ向かう列に加わった。
「ちょっ、待ってよデュラン! 置いていかないでよー」
目指すは本来の住処であるジェイルタウン。
竣工済みの新店舗兼新居へ向けて、百鬼夜行は引き返していくのであった。
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