第2話例えばAさんの場合

~ゴールデン・パートナー~




あたしにはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるの。いっつもあたしをこども扱いするのよ。パパとママは、「二人ともあたしのことが可愛くて堪らないんだね」って言うけど、あたしだって立派なおねえさんなのよ?


あるとき、パパの使ってるパソコンが開いたままだったの。あたし、おねえさんだから、閉じてあげなきゃ!って思ったの。

そしたらね。画面に可愛いケーキの絵がろうそくの火を揺らして写っていたの。それと、お誕生日のお歌。あれが聞こえていたわ。

すてき!思わず笑顔になったわ。


まだ難しい字は読めないけど、なんだかお誕生日とお名前を書くみたい。

お誕生日っていったらお誕生日プレゼントよね!そうよ、きっとプレゼントが貰えるんだわ!

そう思ってね、あたし、自分のお誕生日とお名前を打ち込んだの。


そのあと、ママがおやつの時間だって呼びに来てくれたから、パソコンを閉じてそれっきり。




あれから何年も経って、私はお姉さんになったわ。

身長も髪も伸びて、大人の女性になるかならないかの微妙な年。

昔、そんな変なことがパパの部屋であったなんて忘れていたの。ううん。思い出す余裕なんてなかったわ。


数年前。家族旅行へ出掛けた先で私たちは事故に遭ったの。バスの衝突事故だったわ。体の小さかった私は、家族に守られて助かった。パパもママも、お兄ちゃんもお姉ちゃんも。みんな死んじゃった。みんな、私を助けようとして体をクッションにしてくれたの。


今じゃね。家に帰るのがすごくイヤ。あんなに賑やかだった家が、あんなに家族の声が響いていた家が、今じゃもう誰の声もきこえないの。

それでも、私はみんながいた家に帰るの。

たまに親戚や祖父母が様子を見に来てくれるから、生活には困っていない。


大丈夫よ。うん。大丈夫だから。


今日も私は家に帰らなきゃ。

そうだ、今日は私の誕生日だ。誰もいない、ひとりっきりの誕生日だ。

早く帰ってベッドに入ろう。


そう思いながら家に着いて、玄関の鍵を開けようとしていた時だわ。

ポストの近くに、ダンボールの箱が置いてあるの。可愛く包装されていて、リボンまでついた箱。

なにかしら?屈んで、もっとよく見ようとした時にね。


がたっ

がたたっ

くーんくーん


いきなりその箱が動いたの。中からは動物の声が。

思わず顔がひきつったわ。でも、中に動物が入っているなら出してあげないと可哀想でしょ?

私はリボンと包装を解いて箱を開けたの。


そしたら、中にいたのは可愛い可愛い子犬ちゃん。開けたとたんに飛び付いてきて、可愛いったらないわ。

可愛い金色のゴールデンレトリバーの子犬ちゃん。その子と一緒に箱の中にはメッセージカードが入っていたの。


私の名前と、誕生日、この子が来た日ね。それと、ハッピーバースデーの文字。


ふわりと思い出したの。

まだ家族が生きてたあの日に見た、パソコンに写るケーキのイラストと誕生日ソング。


「お誕生日、おめでとう。」

家族の声が聞こえた気がしたわ。

パパとママの笑顔が。お兄ちゃんが頭を撫でてくれる手が。お姉ちゃんが抱き締めてくれる柔らかさが。

すぐ隣にある気がした。


この日、私には新しい家族がプレゼントされたの。

もう、家に帰っても独りじゃないわ。待っててくれる家族がいるもの。


人生でたった一回だけ。そのサイトからプレゼントされたであろう私の家族は、不思議なことにとても長命だった。

私の命が消えるその時まで、ずっと一緒にいてくれたのよ。


私は二度と家族を失うことなく、一生を終えることができた。


ハッピーバースデー、私と大切な家族。





☆対価は貴女の笑顔です☆







一生に一回だけ利用できたそのサイト。

本当に必要な時に贈られたプレゼントは、私をいつまでも笑顔にしてくれた。


ありがとう。

それと、誕生日おめでとう。

最高の誕生日を、誕生日プレゼントを、ありがとう。

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