第2話 遭遇

話を少し前に戻そう。


「あの…」

ふいに声をかけられ立ち止まる。

女は物陰から現れ、ハンカチを差し出す。

「これ…落としましたよね…?」

にやりと口角を上げ女は言った。

「…」

何も言葉が出なかった。


これで三十回目なのだ。


ハンカチも黄ばみ始めた。


まるで同じなのだ。


「…」

「…」

受け取るまで終わらない。

わかってはいるが、何もしようがない。


「君ね…」

俺が言葉を発した時、女の目が輝いた。

「これで終わりにしてくれないか」

「終わりという事はついにゴールインですか??」

何を言ってるんだこの女は!

「あのね?ハッキリ言わせてもらおう…ストーキングをやめてくれないか?」

「という事は家の中で優しく常に私が見守るという事でいいでしょうか??」

駄目だ…暖簾に腕押しだ…


今日は無視しよう。


どうせ家はバレているが、構わず家路につくとしよう。

「あの…」

聞こえないフリをしてスタスタと歩く。

「あの!」

いつもとは違う力強い声に足を止めた。


「なんでも…していいです」

常に俯いていた女がコチラを凛と見つめていた。

「貴方がしたい事を…なんでも」

それが滑稽にも感じ、無理難題をふっかけてみた。

「人が殺したいと言っても?」

これでスタコラと帰るだろう…したくもない事を言ってみたがこれでいいだろうと思っていた。


「わかりました」

女は口角を上げて、だが凛とコチラを見ていた。

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