コイントス

クトキノ

プロローグ

 辺りは独特の緊張感に包まれていた。


 一つの机を挟んで対峙する二人。


 その横に三人が並んでおり、私達の行動を見張っている。


 ここにいる者、一人一人が様々な感情に満たされていることだろう。


 私もその一人だ。


 不安と期待。一歩間違えば絶望、一歩踏み出せれば希望。


 手のひらに伝う汗をスカートで拭い、目を瞑り、精神を落ち着かせる。


 大丈夫だ。私ならきっと大丈夫。


 自分にそう言い聞かせ、ゆっくりと目を開けると、対峙している相手も私と同じように目を開いた。


 目線が交錯する。大きく開かれた黒い目が私を捉えている。


「じゃあ、始めるよ」


 三人いるゲームマスターの中の一人の女性がそう呟いて、一枚のコインを取り出した。


 アメリカ合衆国で流通している一セントコイン。


 それを親指の爪の上へ置くと、手慣れた様子で上空へ弾き、手の甲を台にして受け取り、その上に手の平を被せてキャッチした。


 俗に言うコイントスというやつだ。


 コインを手の甲に収めたのを確認すると、アイマスクをされ視界を奪われた。


 何も見えない暗闇。一筋の光すら視界には映らない。


「今から置くね」


 声と共にカチッという音が聞こえると、それがコインを置いた音だと分かる。


 事前に聞いたルール通りの段取りだ。


「さぁ、ゲーム開始だよ」


 ゲームマスターの声を合図にゲームの火蓋は切って落とされた。

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