赤い着物

藤咲 みつき

第1話 通ってはならない道

 赤い着物

                      作者 藤咲 みつき

 登場人物 咲

      性別 女

      16歳


      三木

      性別 女

      15歳 咲の友人


      おばあさん

      年齢不明

      

 これは、私がまだ高校に上がって間もないころの話、通学には電車と徒歩でその高校まで通っていた。

 通勤時間は1時間程度と、割と長く、高校は田舎と言っていい場所にあり、とても不便だった。

 そんな通学から、2カ月、私はふともっと早く通学できないものだろうかと、そう思ってしまった。

 そりゃぁ、家から駅まで5分、電車で10分、高校までが徒歩で45分もかかっていれば誰でもこの結論に至るだろう。

 自転車でも使えればよかったのだが、あいにく田舎の駅という事もあり、駅周辺には駐輪場はなく、自転車などを置ける場所もない、仮に駅に置いておいても特に文句は言われないとは思うし、盗む人間も田舎ならではの雰囲気と土地柄でおそらく大丈夫だろう。

 そうは思うものの、なんとなく、私はこの土地に違和感の様なものを感じており、この高校に通うのを正直躊躇していた。

 だが、この場所よりほかに私の住む地域に高校は存在しなかったため、現在通っている高校になったのだ。

 


 早朝、いつものように家を出て、電車に乗り、駅から高校へと向かうとき。

「あ、こっちからなら近いかも」

 住宅地と呼べるほど家はないが、点々と家と田んぼ、などが点在し、さらに木々が生い茂っておる林に似た道、などがあり、私の通学は基本的に、田んぼと、家を転々とする道をただひたすらに歩くものだった。

 林の先に道があるのは、入学当初から知っており、そこを通れば10分は短縮できるとも知っていたが、どういうわけだか、同じ高校に通う男女ともに、その林の一本道だけは避けて通っていた。

 私は、過去に一度、どうして皆そこを通らないのか、そう聞いたことがあるけど。

「あそこ、昼間でも怖くない?」

 そんな一言で、やばいよねぇ、なんか出そう、という様々な、ごくありふれた理由しか出てこなかった。

 なので、私はその林道(道はしっかりとコンクリート)を進もうと、足を向けた時だった。

「お前さん」

 不意に声を掛けられ、びっくりして慌てて振り返ると、そこには腰が80度ぐらいに曲がったおばあさんが、手押し車(シルバーカー)と言われるものを押したおばあちゃんがそこに居た。

「は、はい!」

 私は、不意に声をかけられたのもあり、声が上ずり、素っ頓狂な声をあげる。

 だが、おばあさんはそんな事は気にせずに、静かに、でもとても強い口調で。

「そこは通ってはいけんよ・・・いけん」

 そう言葉にすると同時に、私の眼を見てきたそのおばあさんの目には、強い意志と、恐怖の様なものがにじみ出ていた。

「え、でも・・・・」

「あっちから、行くとええ」

 そう指さした方向は、いつもの通学路だった。

 私は、静かだけど、怖いぐらいのその声にうなずき、すぐにいつもの通学路に戻る事にすると。

 おばあさんは満足したように満面の笑みを浮かべていた。

 不意に、おばあさんにあいさつしようと振り返ると、おばあさんはまだ満足そうに私を見ていたが、林の先の道に、何かすごく赤い、着物の様なものを着た何かがたっているのが見た。

 私は不意に、田舎だし、着物を着た人もいるだろう。

 相違納得して、そのまま高校へと向かった。



 それから4カ月後季節は夏から秋へと変わる9月下旬。

 私はその日、寝坊をしてしまい、高校の近くの駅に着いた時には、残り10分で予冷がなるところで、そこからホームルームを経て1限目が始まるまでどう頑張って30分あるかどうかという感じだった。

 走ってギリギリ、もちろん走りはするのだが、不意にあの林が走っている最中に目についた。

 銭腹は代えられない、などと言い訳をし、私は迷うことなく、そちらに全力で走った。

 林の入口に差し掛かり、ふとおばあさんの言葉が頭をよぎる。

(いけん‥‥)

 なぜか頭にその言葉が浮かんだが、私は迷うことなくそのまま突き進んだ。

 林の道は、しっかりと舗装され、道路になっており、走り抜けていくのにも何も問題なく、むしろいつも通っている田舎道よりもきれいなのではないだろうかというほどに、その道は綺麗だった。

 そのまま何事もなく、林道を抜け、学園へと向かう。

 やはり予想した通りかなり早く学園へと付くことができただけでなく、奇跡的にホームルームにも間に合った。

「遅かったね、寝坊した?」

 友達の三木がそう話しかけてくる。

「いやぁ、マジやばかったよ!」

 そこでふと、三木が不思議そうな顔をする。

「あれ、でも電車から降りて、どんなに頑張ってもここまで走ってきたら、この時間じゃ無理じゃない?」

「それなんだけど、あそこ抜けた、林の道」

 私がそういうと、クラス全体の声が一瞬で無くなり、気持ち悪いぐらいの静寂がクラスを包んだ。

「え、なに、なんかヤバいの?」

「いや私もわかんないけど、ナニコレ?」

 私が戸惑い、三木もあまりの異様な空気間にたじろぐと。

「いけんと、言うたじゃろ・・・」

 不意に教室のドアが開き、しわだれた声が耳をつくと、クラスの全員が開け放たれたドアに集中する。

 そこからゆっくりと、4か月前にお会いしたおばあさんが入ってきた。

 あまりの出来事に、クラスの誰一人この状況についていけない中、おばあさんは何一つ気にすることなく突き進み、私の前までくると。

「手を」

 私に手を差し出しながら、手を出すよう促してくる。

 私は特に抵抗することなく、手を差し出すと、ご老人の力とは思えない力で手を握られ、私の手に何かを押し付けてきた。

「絶対に、手放すでない。良いな?」

 私はあまりの剣幕に、ただうなずく事しかできず、首を赤べこのように、グワングワン揺らしなすと、それで満足したのか。

「二度と、通る出ないぞ・・・・」

 それだけを言い残し、去っていこうとするが、不意に教師と対面した。

「あ・・・・いらしてたんですか。何か問題でも?」

「ええ、もうやれることはやりました・・・・」

 教師と、おばあさんはそれだけを言い交すと、おばあさんは教室の外へと、教師は中へと入れ替わるようにでは入りをした。

 普通、部外者が教室内に居たら騒ぎだろうが、教師はいたって冷静・・・ではなく、青ざめた顔で私を見ながら。

「咲さん・・・・絶対に、今頂いたものをなくさないように」

それだけを言い、ホームルームが始まった。

 私は何が何だかわからぬまま、ホームルームを聞きながら受け取ったものを見てみると。

「大祓?」

 そんな赤いお守りの様なものに、白い刺繍で、総文字が刻まれていた。

 私は意味が分からず、教師に見つからない様に、調べると、汚れをはらう儀式を、などと言う言葉が出てきた。

 それを見て・・・・え?!

 そう思ったが、それと同紙に、なぜあの路を通っただけでこんなものをわざわざおばあさんが届けたのかわからなかった。



 それから3週間後。

 私は特に何もなく普通の生活を送っていたが、一つだけ変わったことがあった。

 毎朝、夕、学校の帰りから、教師からもあの後口酸っぱく、二度とあの林路を通らない様にくぎを刺され、全校集会でもまさかのその話が出るぐらいのじたいにまでなってからというもの。

 あの近くを通るとき、必ず、林の奥に赤い着物が見えるようになっていた。

 遠目という事もあり、性別や大きさもわからないはずだが、私は、小さな女の子と認識しており、見かけるたびに、背筋にいやな汗が吹き出し。

 毛が逆立つ感覚に襲われた。

 それを見かけるたびに私は走りながら駅へと向かうように、ここ3週間でなっていた。

 それと同時に、必ず、林の入り口にはおばあさんが、シルバー車に腰かけて座っていた、まるで、何かが起きないように見守るように。



 それから3日後の事だった。

 朝、三木が血相を変えてホームルーム直前に教室へと入ってきて、わたしに言った。

「ど、どうしよう!」

「なに、どうしたの?」

「あそこ通っちゃったら・・・・赤い!」

 そこで、三木は私の目の前に倒れこむようにして意識を失い、クラス中が大騒ぎとなってしまった。

 その後、その日は学校全体が臨時休校となり、全員自宅へ帰らされるという異例の事態となった。

 あまりの出来事に、良く分かっていない人たちと、何やら事情を知っている人たちで、温度差が生まれていた。



 それから週明け月曜日。

 私はその日、三木へのお見舞いをするため、都心へと学校を休み出かけていた。

 病室につくと、彼女は酷くうなされており、しきりに。

「赤い着物・・・子供が」

 譫言をしきりに口にしており、不意に私の頭には、あの林道を通ってからよく見かけている、あの赤い着物の女の子が頭をよぎった。



 翌日、早朝。

 いつもどうりに、通学路を歩き、学園へと向かう、通学路には同じ制服の子たちが高校へと足早に向かっていた。

 そんな道すがら、不意にあの林道が目につく、だが、最近恒例になりつつあった、林道の先に居る、赤い着物が今日はいない。

 不思議に思った次の瞬間だった。

「おねえさん・・・」

 その声色は子供のモノで、特に不思議なものではないはずだった。

 だが、その声を聴いた瞬間、背筋からもう10月へと入り、肌寒くなってきたにもかからず、全身が焼けるように暑く、それと同時に寒気があり、さらに大量をひ汗が、滝のように、噴き出してきた。

 マズイ。そう本能が訴えかける。

 振り向いてはいけない、歩かねば。

 そう思い、歩き続ける。

 周囲には私と同じ制服の生徒が大勢おり、誰もが何事もなく穏やかに朝の日常を楽しみながら、友人と朝のたわいもない会話を楽しんでいた。

「おねえさん」

 今度はよりはっきりと、私を呼ぶ声。

 私は今度こそ、振り返る。

 するとそこには、赤い花柄の着物を着た、おかっぱ頭の女の子がぽつんと立っていた。

 顔は前髪で隠れており確認することができないが、その顔と目がとても楽しそうに微笑んでいるが見て取れ、思わず後ずさり。

 周囲の学生がそんな私を怪訝そうな顔で見ながら、私のわきを通り過ぎていく。

 どうして、なんでみんなこんな目立つ子がいて誰も気にもとめないの?!

 そんな疑問が浮かんだが、あきらかにこの女の子が、異様な存在であることは、自分の足が、手が、体全体が、警告しながら教えてくれていた。

 関わってはいけない、逃げろ。

 そう思うのだが、手足が思うように動かない、動かないけど、ズルリズルリと、足を引きずりながら後方へと下がる。

 本能的に、この赤い着物の少女から距離を取ろうとしているのが、自分でも良く分かった。

「おねえちゃん・・・遊ぼ」

 いつ動いたのだろう、彼女はスーッと、私の目の前まで来ていた。

 わからなかった。

 動いた気配はなく、足を動かしたようにも見えなかったが、確かに後方へ下がり距離をとっていたはずのその距離が、縮まっていた。

 答えちゃいけない、そう思いながらも、なぜか手がゆっくりと上がってゆき、彼女に触れようとしているのが、自分でもわかる。

 だが、私の本心は。

 ダメ、触れちゃダメ。怖い、逃げなきゃ。

 同じ言葉が頭をぐるぐると回り、また、自分の行動と、本心が違うことに混乱しながら、目に涙を浮かべながら、手が徐々に彼女に伸びていくのを必死に阻止しようと、抵抗する。

 その時だ。

 バチン、というとてつもない音ともに、私の手に何か白いふさふさしたものと、棒のようなもので思いっきり叩かれ、私の手はかろうじて赤い着物の少女に触れることなく振り払われた。

 よく見ると、大幣と呼ばれる、白いものが幾重にもついた、良く神社などのお祓いで使われるものを持った、あのおばあさんが、険しい表情で私を見ながら。

「大丈夫かえ?」

 そう問いかけてきた。

 私は涙目になりながら、うなずく。

「お守りを握りしめながら、学校にいくとええ、後は私の仕事とじゃ・・・」

 あまりの出来事に、茫然としていた私を、周りで状況を見ていた生徒が動けない私の手を引き、その場から連れ出してくれた。

 そのまま、どういう理屈かは分からないが、多くの人が、あの手この手で私を学園まで連れてくると、私はとある教室まで連れてこられ、良いというまで出るなと言われ。

 教室に閉じ込められた。

 4時間ぐらいたってから、私の担任の先生が教室を訪れ、静かに話し始めた。



 担任の話だとこういう事らしい。

 かつてあそこの林道は、林道ではなく一つの神社が建っていたらしく、戦後、そこで事件があったらしい。

 小さな女の子が、社に入り遊んでいたところ、近所の悪ガキがどこで拾ってきたのか、タバコの火のついたもので遊んでいたら、それが彼はに燃え広がり、一瞬にして社全体が燃え上がり、手を付けられぬまま、その一帯を焼いたらしい。

 その後、少女の遺体は骨だけになっていたらしく、ともらいをしたが、以降あの周辺では、赤い着物を着た少女がうろつくようになってしまったらしい。

 赤い着物の少女は、そこに来た自分つを襲って生気を奪い取り、一時期は死人すら出たという事で、以降、あそこには近寄ってはならないとされてきたらしい。

 様々な事を試したらしいが、あそこにとどめてくこと以外の方法はなく、以降、あのおばあさんが彼女をなだめ、清め、落ち着かせていたらしい。

 だが、数日前、三木が襲われたことで活性化したらしく、一度通った私を襲うため出てきたらしい。

 


 私はそれ以降、絶対にあそこには近寄るまいと、硬く決意したと同時に、年に一度、その少女の命日にはお線香をあげることとしたのだった。

 おばあさんはいったい何だったのかというと、どうやら全国でも相当有名な巫女さんらしく、赤い着物の少女を、清め落ち着かせるのがお仕事らしく、地元ではかなりの有名な方のようだった。


 近寄るな、触るな、そこは駄目だ。

 そう言われている場所には理由がある、その事を私は身をもって体験したのでした。

 後日談だが、その後おばあさんに一度会うことがあり、聞いてみたのだ、あの時私が手を触れていたらどうなっていたのかと。

「死んどったよ・・・」

 一言そういうと、手を握り。

「二度と、いけん、と言った場所には、行くんでないよ」

 そう言い残し、おばあさんは去っていったのでした。

 その後三木も回復し、私と一緒に一様おばあさんのお祓いを受け、私たちは普段の生活へと戻っていったが。

 いまだ、あの林道は、そこに存在しつつけている、遊んでくれる、誰かを静かに待ちながら。

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赤い着物 藤咲 みつき @mituki735

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