【短粗筋】獣人の錬金術師はもう戻る気は無い。今更、提示した考案の偉大さに気がついたって国外追放したのはそっちだろ~【タイトル】天才と秀才は乱世をゆく。人類最古の英雄達~

みなみなと

プロローグ

第1話非国民


「ファングよ。何故お前がここに呼ばれたか分かるな?」


 白く染った顎髭を撫で付け見下すのは、この国を治め皆から覇王と呼ばれし獣の王──カシウス。


 上座に席を置くカシウスは、一切の寵愛も慈悲もない酷く冷たい視線を下座で膝をつく男性に向けていた。


 その眼光は多少なりとも殺意がこもっているように感じる。


「お言葉ですが、王──カシウス様。今のままでは我らの国が滅ぶのは時間の問題」

「……で、あるからこそ錬金術師きさまらを大金で雇っておるのではないか。にも関わらず、ファング。貴様は武器を一切つくってないらしいな?」


 感謝も敬意も感じられない威圧感。これが暴君と呼ばれる由来でもあるのだろう。熟すことを当たり前と思われてちゃ、苛立ちだって覚えるってもんだ。しかし、態度に出せばただでさえ分が悪いのに、余計悪化しかねない。


 此処はグッと堪え、何度も何度も意見してきた事をもう一度試みる。


「今や獣人われわれが住まう三つの大陸は既に魔王の軍勢に包囲されています。一歩街や村を出れば、強弱はあると言えど魔獣が蔓延っているんです」

「で、あるな」

「いくら鋭い槍を造ろうとも、いくら細く鋭利な剣を打とうとも──」

「要するに貴様が言いたいのは、我々の精鋭騎士団が武器を使いこなせないと? 技術がないと言いたいのか?」


 ──違う、そうじゃない。ファングが伝えたいのは技術がないだとか、騎士達が自堕落で怠惰であるだとか言いたい訳じゃない。少なからずファングは、命を賭して戦ってくれている彼等には感謝をしている。


 だからこそ──


「俺が言いたいのは、秘めた力の話をしているんです」

「またその話か。下らん」


 ポケットから出した物を容赦なくファングに投げつけた。


 自分が作った物を無下に扱われる悲しさはこの上ない。悔しさと義憤が複雑に入り混じる中、琥珀色の長い耳をピクリと動かしながらも、神妙に努めたファングは明確な意志の元で口を開く。


 赤い瞳でしっかりとカシウスを見つめ──


「母は言っていました。脳は半分も機能をしていないと。もし、全部とは言わずも、幅を広げることが出来たなら、必ず新たな活路になるはずなんです」


 ファングに出来る精一杯の訴えだった。真剣な眼差しを送る先にいるカシウスは鼻息一つで、思い全てを吹き飛ばす。


「フンッ。もういわ。国に貢献しない者に用などない。ファング=ルクス、貴様を国外追放とする」と、立ち上がり腕を振るうカシウスの姿にファングは息が止まる。


「──ッ!?」


 意味がわからない。こちらとしては、生存率を上げるためにも、人の秘めたる力を開花させる機能を作っているだけだ。誰よりも国の事を考えているからこそなのに。


 悔しくて仕方なかった。


「公開処刑にしないだけ有難いと思え。今晩中には出ていけよ。明日から指名手配として、我が総べる大陸全土に広める」


 ここまで言われては反論のしようがない。彼はそれだけの力を持っている。暴君──覇王・カシウス。独裁的でありながらも、長きに渡り魔王に屈服する事なく戦いを選んで来た男。誰もが彼に焦がれ夢を希望を見ている。だからこそ、彼が悪と認めれば悪になってしまう。


「しかし──俺には船」

「仕方あるまい。一艘だけ渡そう。準備が出来たら港へ行くがいい」


 これ以上話しても口答えとされ、癇に障るだけだろう。彼にとってのファングはその他大勢の錬金術師・・・・に過ぎないのだから。


 全てを否定された気持ちは容赦なく心を突き刺し抉る。ファングは作業服を強く握りながら立ち上がり、最後に一つ深深と頭を下げた。


 命を救ってくれた礼ではない。少しの時間だったとしても、国のために働かせてくれたお礼。そして、一つのケジメとして頭を下げた。


 無反応の王は目で語る。


「はやく失せろ」と。


 ファングが目を伏せ踵を返し歩けば、虚しく響く足の音。


「母の戯言など信じるからそうなる」

「黙って、カシウス様の命令を聞いておけばいいものを」


 誰しもが憂いる事無く、温かみも無い言葉でファングを送る。

 感謝をしていた騎士ですら、嘆くものも感謝をするものも一人としていない。別に感謝はいいとしても、命を賭しているならば、だからこそ賛同を一人でもいいからして欲しかった。


 それはつまり同時に自分だけではなく、今は亡き母を冒涜された事になる。悲しさを凌駕する悔しさに拳を強く握り、ファングは力強く誓うのだった。


 ──絶対に造り上げ、見返してやる、と。

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