序章



だいじようだ。お前はここにいる。わたしのうでの中に」

 きしめたアイシャの首に顔をうずめ、エドワードは言った。

 そっと。静かに。

 おだやかに。そして、落ち着いたこわで。

「わたしの腕の中で、ちゃんと生きている」

 そうだ、とアイシャは彼のしんにしがみつき、ふるえながらうなずいた。

 じよじよに呼吸は落ち着き、ひりつくようなのどの痛みは消えていく。

 生きている。

 あの日、あのりよう用テントの中で。

 アイシャ・レッドとしての自分は、テロリストのじゆうだんたおれた。

 気づけば、今は、マルゴット共和国の前身であるダブリー王国で、パドマ・キャベンディッシュとして生きている。

「わたしが王となるこの国で、お前は共に生きるのだろう?」

 問われて、ぐいぐい、と彼の胸に顔をこすりつけるようにしてうなずいた。ぱくぱく、と。彼のどうを耳にとらえる。自分の身体からだを抱きしめ、放さないこの腕に、あんした。

 戦乱とないふんれるマルゴット共和国。

 国民は難民となってりんごくのがれ、それがまた新たな争いの種をくあの国。悪意とぞうき、たみへいし、田畑はれ果て、河の水はにごり、絶える。

 何百年と続くマルゴット共和国の混乱のほつたんは、このダブリー王国最後の王太子エドワードの死から始まる。

(……エドワードを国王にする。死なせるもんか。もちろん、パドマも)

 この国で。

 自分は彼と、生きていくのだ。

 そして。

 あの、あいとため息に満ちた未来を、変えるのだ、と。

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