ときめく貴女は百合の花
平賀・仲田・香菜
プロローグ
私は学園の中庭で、花壇の縁に座って人を待っている途中でした。生花で作ったコサージュ、私はそれを両手で、愛おしく、胸に抱きしめております。私と先輩がたった二人で、立ち上げ直したこの園芸部の花壇で、私はあの人をお待ちしているのです。いえ、たった二人と言うのはきっとおこがましい。皆さんの力があったからこそ成し遂げられたことでしょう。
この学園に入学してから一年弱が経過しました。エルダーをはじめ、尊敬に値する先輩や心を預けられる友人たちなど、数々の出会いを得ることができたと感じます。
そんな彼女たちは私の人生に、目標に、多分の影響を与え続けてくださいました。この学園に入学したのもそう。園芸部に所属したのもそう。本日の卒業式に臨むああの人に、部活で咲かせた花々であしらったコサージュを贈るのもそうーー。
ふと、ひとひらの風が吹きました。私の頬を撫でるように、花々と草木の枝葉を揺らしながら吹き上げました。春先とはいえまだ冷たい空気をまとった風に、私は少しの肌寒さを覚えます。腕時計をチラリと見ると、約束の時間には少し早い。少しばかり気が逸り過ぎていたでしょうか。
「ここまでの花壇を作り上げるなんて、よくやったものよね」
頭の上から声がかけられます。逆光に照らされ、太陽を背負ったあの人でした。
「来てくださってありがとうございます」
「当然でしょう」
彼女は私の頬を優しく撫でて、言いました。
「待たせてしまったかしら、少し冷たいわ」
「いいえ、そんなことーー」
言い訳が溢れそうになった私の、コサージュを持つ手を包み込むように彼女は握りました。暖かい、彼女の温もりはその手を通して、私の全身を駆け巡ります。身体がほうっと熱を帯びるようでした。
「これを貴女に」
「繊細で、優しくて綺麗な花。まるで貴女みたい」
「ご迷惑でなければ、卒業式でこれを身につけてくださいませんか?」
彼女は、幼い少女のように力いっぱい微笑みました。そして私の隣に座り、頭を後ろに向けたのです。「付けて」と、アピールされているようようです。
私は彼女の髪に触れ、軽く手ですきました。いたずらに、頭を撫でてみます。
「……もうっ! 恥ずかしいじゃないの!」
「ふふ、ごめんなさい」
私は改めて咳払いを一つ。手製のコサージュで彼女を彩りました。
「どう?」
立ち上がり、くるりと一回り。
「素敵です」
彼女は私の手を取り、言いました。
「ありがとう。貴女がいてくれたから、私はここにいる」
「ありがとうございます。貴女がいてくれたから、私はここに居場所ができました」
ーー私たちは、卒業式を迎えました。私たちは、各々の居場所へと向かって行きますーー
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