第3話『令の娘』
シャボン玉創立記念日・3『令の娘』
大橋むつお
時・ 現代ある年の秋
所・ 町野中学校
人物・
岸本夏子 中三
水本あき 中三
池島令 町野中の卒業生歌手
池島泉 令の娘、十七、八歳
泉: すみません。
二人: は、はい?
泉: (あきに)あなた、さっき校長室の横の部屋から出てきた人ね?
夏子: あ、令さんの娘さんだ!
あき: え?!
夏子: バカ、なにボサっとしてんの。
あき: あ、さっきは、すみません、頭がボーっとして、ぶつかったことも憶えてないんです。ほんとうにごめんなさい。
泉: いいのよ、そんなことは。(夏子に)あなた、司会をしてくれてた……夏子さんね。
夏子: は、はい、放送部の岸本夏子です。
泉: とても上手な司会だってお母さんが誉めてたわ。
夏子: ありがとうございます。校長室で令さんからもそう言われて、ボーっとしてたところです。たとえお世辞でも嬉しいです。
泉: あたしたちにも言うくらいだから、けしてお世辞じゃないわよ、あなた彼女の友だち?
夏子: はい、小学校からの友だちで、水本あきって言います。
泉: あきさん、ちょっと話していい?
あき: は、はい……
泉: よかったら夏子さんも、いいかな?
二人: は、はい……
泉: 実は、お母さんに頼まれたんだけど、彼女忙しくって。そいで代わりに話しといてくれって……いいかな?
あき: はい。
泉: 時間がおしてたんで、一曲はしょっちゃったし、話も中途ハンパでさ、お母さん気にしてんの、歌ってる時からすごい引力を感じる視線があって……
あき: そりゃ、プロ歌手なんて初めて見ちゃったから、おまけに先輩で、美人で……
夏子: そういうことじゃなくってでしょ、泉さん。
泉: うん、なんか思いつめたような……前列のほうだから、よくわかったって。歌っているときに感動してもらうのは歌手としてとっても嬉しいことだけど……話しているときに、こう……引力が強くなってきてさ、目線が合ったの憶えてる?
あき: はい。それで決心したんですから……
泉: やっぱし……校長室にいても聞こえてくるんだって……上原先生って声おっきいのね。
夏子: その分、耳が遠いんです。
泉: とぎれとぎれに話しの中味が聞こえて……お母さん、そういう耳と勘は鋭いの「あ、あたしのメッセージが間違って伝わってる」……決定的なのは部屋を出たとき、先生が大声で「考えなおせよ!」そして、あきちゃんが泣きそうな顔で、あたしにドシン!
あき: すみません。
泉: あきちゃん、コーラス部だよね? 歌うことそのものは好きでしょ?
あき: はい……
泉: で、誰だかわかんないけど、同じコーラス部の男の子好きになって同じ学校へ行こうって決めていたんだよね。
あき: ……(顔を赤くしてうつむいている)
泉: 「友だちがやってるからいっしょに……」は、だめなんだぞってとこらへんでドキッとしちゃったんでしょ?
夏子: すごい、そのとおりです。
泉: へへ、一応親子だからね。
あき: わたし杉村君ほど上手くもないし、杉村君ほど大きな夢はないんです、ただ杉村君のそばにいて、好きな歌が一緒に歌えたら……
泉: それでいいんだよ。あきちゃんが歌と杉村君の両方が好きで。
あき: でも……
泉: お母さんが言いたかったのは、ナンパや遊びや友達とつるみたいだけの集まりは駄目だって……ううん、それだってかまわない、補習うけたくないからジャズやってもいいし、男の子目的でクラブに入ってもいいの。
あき: そんな……
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