勇者が魔王を討伐に行きます!

関口 ジュリエッタ

第1話 魔王vs勇者

 邪悪な暗闇が広がる闇の世界に大勢の魔族たちが暮らしている魔界。

 そんな魔界にある軍勢が攻めてきたのだ。一つの軍勢は人間界、もう一つの軍勢は天界だ。

 二大勢力が力を合わせて今、魔王城に攻めようとしていた。

 この二大勢力の中で特に厄介な人物がいる。――それは清められた純白の鎧に包まれた勇者だ。

 歴代の勇者はことごとく倒してきたが新しく転生してきた勇者は今までの勇者とは違い、かなり強大な力を持っており、下界のほぼ九割を支配していた魔王軍が尽く破られ、わずか一年足らずで下界の魔物たちを壊滅してしまったのだ。

 勢いついた勇者率いる人間界の軍隊や天界の天使の軍隊たちが、ここ魔界に大勢の軍を率いて攻めてきたのだ。

 人間如きならまだしも天界の者まで協力するとは予想はしてなかった魔王軍は、じりじりと敗れ、ついに魔王城の目の前まで攻めてきた。


「魔王さま。敵の軍隊がもうこの城まで来ています。どうなさいますか?」


 危機感を感じている漆黒のマントに禍々しい羽を生やした眼鏡をかけているインテリ風の高身長の魔人は、魔王の右腕で秘書でもある堕天使ルシフェル。


「いや、ここにいる魔王配下三人衆と最高幹部たちはこの城で待機していろ。それ以外の城にいるやつを出来る限り城外で交戦している天界と人間界の軍にぶつけろ」

「かしこまいりました。そのように他の幹部たちや三人衆にも伝えておきます」


 そう告げてルシフェルが魔王の前から去っていった。


「まあ、最高幹部や三人衆がいるから問題ないだろう。攻めてきた軍勢なんてあっという間にやられるにちがいない。ほんと愚かな人間と天使だ」


 甲高い声を出して笑っているとルシフェルが魔王の前に現れた。


「魔王様報告です! たった今、人間界と天界の軍勢が城に突入してきました!」

「……そうか、――全幹部と三人衆に伝えろ、全員城内に侵入してきた軍勢を全て排除しろと!」

「かしこまいりました。私も戦闘に行ってまいります」

「期待しているぞ。いい情報を頼む」

「はっ」気合のこもった返事をしてその場からルシフェルは去っていった。

「…………どうしよう! もうここまで攻めてきたの!? ――でもルシフェルたちがいるから大丈夫だよね……」


 いきなり小動物のようにデカい図体を震えさせながら背筋を縮こまる魔王。

 実はこの魔王は

 先代の魔王や二代目の魔王はかなり凶悪で最強で人間界や天界などを支配し、何度も勇者を返り討ちにしていたのだ。

 やがて魔王を退治するのが無謀むぼうだと思った人間界と天界は魔族たちを倒すのを諦めた。

 二代目の魔王で現魔王の父親であるサタン二世は三代目である魔王サタンを戦闘訓練や教育もさせず甘やかしていたせいで、かなり貧弱な魔王になってしまったのだ。いわゆるバカ魔王。

 レベル的に最下級のゴブリン並みの強さ。

 父親である二代目魔王サタンが亡くなってから全ての指揮系統は全て魔王配下三人衆の一人でもあり、全魔王軍隊の軍師でもあり、魔王サタンの秘書もであるルシフェルに任せていたのだ。

 まさか魔界にまで二大勢力が攻めてくるとは予想をしていなかったバカ魔王サタンは、今危機的状況に陥っている。

 王座に座ってハラハラしている三代目魔王サタンはルシフェルが来るのを怯えて待っていた。が、一向にくる気配がなかった。

 内心不安が募る中、王室の頑丈そうな大きな両扉が高鳴り上げて開いていく。

 ルシフェルがきたと天にも昇るような気持ちになった途端、衝撃的な光景に口をがっぽり開けてしまう。


「覚悟しろ魔王! 今日が貴様の命日だ!」


 勇者が純白と黄金が輝く聖剣を自分に突きつけて現れた。王座に座ってなかったら後ろに尻餅をついていたとサタンは思った。

 状況を見てルシフェルたち魔王配下三人衆と最高幹部は敗れたのだとわかった。

 だが、絶望に浸っているわけにはいかないサタンは魔王らしく勇者に立ち振る舞いをする。


「よく来たな勇者よ。お前こそがここで死ぬのだ、この偉大なる魔王によってな! (言っちゃったよ……。ほんとは勝ち目がないのはわかっているのに――こうなったらヤケクソだ!)」


 一応魔王でもあるサタンの挑発は場内が地響きするほどの威圧感を放っていた。

 そのプレッシャーに怯むものもいれば吹き飛ばすほどの強者もいた。無論勇者パーティーは強者の方だ。


「言葉で怯む者は去れ! ここは強者の戦いだ!」


 ほんとは勇者の後列にいる下級戦士相手にも余裕で敗北するほどの魔王とは誰も知らない。


「ふん。わずかな人数でこの私に勝てるとでも思っているのかゴキブリどもがっ! (ヤバイよ! ヤバいよ! この人たちやる気満々だよ……)」

「覚悟しろ魔王!」

(来るな! 来るな! このままどうすればいいんだ!!)


 心の中で情けない叫びを出しながらとっさに今の状況を打破できることを模索する。

 一瞬あることを閃いた。

 わざと切られたフリをし、続けて死んだフリもすればこの危機的状況乗り越える、と魔王なのになんとも情けない作戦を思いつく。


 鋭く円弧のように振り下ろし、絶妙なところでサタンは切られたフリをして勢いよく倒れ込む。


「おのれぇ〜! よくもわたしを……(よし、作戦成功だ)」

「――エイド!」


 傷を負っていない体が心地いい気分になっていっく。


(誰だよ! わたしの作戦を邪魔した奴は!! ――えっ、ルシフェル。お前生きていたのか!?)

「魔王様! なんとか間に合いました」

「よくもどった。さあ我に力を貸すんだ(お前責任とれよ、このインテリナルシスト! 俺は戦わないからな!)」


 せっかくの作戦をルシフェルに邪魔されてサタンはかなりのご立腹になっていた。


「ルシフェル貴様生きていたのか!?」

「ああ。貴様にやられるわたしではない」


 弱々しくセリフを吐くルシフェルに勝機は見えない。


「まあ、いい。二人まとめて退治してやる!」


 勇者一行はさらに士気が上がる。


「いけ! 戦うんだルシフェル! (早く戦えよインテリ!)」


 ルシフェルは素早いスピードで勇者一向に飛びかかるが、万全の状態ではなかったため、あっけなく勇者の聖剣の餌食になった。


(何やっての。カッコよく登場しておいて速攻退場とかダサダサじゃないか! どうすんだよ、やられたフリをしていればこんな窮地きゅうちに合わなかったのに、あのインテリ死んで当然だ!」

「次はおまえだ、魔王! 覚悟!!」


 またかよ、という心境でサタンは覚悟を決めた。

 ほんの少しだけ切られて再度死んだフリをしよう、というまた死んだフリ作戦だが、今回は少し切られることにした。

 痛いのが嫌いな幼稚なサタンは、わざと手を差し出して勇者の聖剣の刃先にちょこんと指を切らせた。


「ウゥゥゥゥゥ。力が抜けてくるゥゥゥゥゥゥ……(イテェェェェェェッ! ちきしょう、死んじゃうよ!)」


 そのまま倒れようとした瞬間、

「ふん。甘い。魔王様はそんなひ弱な聖剣では死なないし、致命傷を負わない怪我は細胞が修復して怪我が再生するんだ」


 なんと聖剣に切られたルシフェルが、いつの間にか復活していたのだ。

 死んだフリをしようとしたが、すぐに起き上がり気迫を込めた表情で勇者を見上げる。


「そうだ。わたしはこんな傷じゃ死にはせん! ワッハッハッハ。(余計なこと言いやがってこいつ死んだんじゃなかったのかよ!)」

「さあ、魔王様。私たちの力を見せて差し上げましょう。最後に勝つのは我々魔王軍なのです!」


 またルシフェルは勇者に突っ込むが言わなくても聖剣に切られて地面に倒れる。


「ま……おう……様……」


 最後の力を振り絞ってサタンに呼びかけて息を引き取った。


(こいつ……このわたしの作戦を邪魔しに来たのか……」

「しぶといやろうだ。だが、これでもう生き返らないだろう。なんせ胴体を真っ二つしたからな。今度こそ魔王――貴様を切る!」

(もうこうなったらヤケクソだ!)


 サタンは口を大きく開く瞬間、とてつもないような暗黒の光線を放った。が、間一髪勇者は紙一重で交わしたが顔にかすり傷だけ負わせた。

 父親である二代目魔王の最強の魔術デストロイ。今まで魔王としても特訓や教育は一切学んでこなかったのに、さすが最強の父親の息子でもあるため生まれつきの才能があったのだ。


「クッ……、今のは正直、危なかった」

(あれ? 力任せにやってみたらできちゃった)


 再度勇者に打ち込めば、みんな恐怖のあまり逃げ出すんじゃないかと思ったサタンは口を開けて咆哮を放つ準備をする。

 魔王は極悪非道のはずなのに、サタンは生き物を殺したことが一度もない。


「くるぞ! 術者はバリアを!」


 すると背後にいた中年の男性術者は切羽詰まった表情をする。


「すまん。もう術をだすだけの魔力はもう残っておらん……」

「ふっ。頼みの綱がなくて残念だったな(当たる瞬間に軌道をずらしてビビらせたら、怖じ気づいて逃げるだろう)」


 サタンは口から強力な光線をだし勇者めがけて放つ。

 勇者の目の前までデストロイが近づいた瞬間、サタンはわざと少しだけ首を曲げようとした時、悲劇が起きた。


「うぁぁぁぁ!!」


 なんと自ら勇者を庇うように中年男性の術者は光線の前に立ち命を絶った。これがサタンの初めての殺しになる。

 勇者は倒れそうになった術者を抱く。


「オスカル!!」

「ゆう……しゃ……さま。どうか我々の世界に平和を……」

「ふん。自ら前に出て行かなきゃ死なずにすんだのにな、愚かな奴だ(やばいよ、殺しちゃったよ! 何で前に出た! それにこの展開、何か嫌な予感がする……)」

「許さんぞ……魔王」

(ほらきたよ、フラグ立っちゃたよ……)


 術者が殺されて怒り狂った勇者は全身黄金色に輝きだす。

 もうダメだこのままじゃ殺される、と思った魔王は、勇者にある提案をする。


「おい勇者よ。この私と条約を結ばないか? 私は父上と違い争いごとは好きではないのだ」


 最初っからこうすれば良かった、と思う。無駄に争わず、人間と魔族と天使が平和に暮らせる協定を結んでおけばこんな血で血を争うことなんてしなくて良かったのだと。


「何が望みだ?」

「それは――」


 なんと胴体が真っ二つ切り離されたルシフェルが宙に浮いて勇者に向かって勝手に提案してしまった。


「――もうおまえは死んどけ! (こいつまた余計なことを! 胴体切り裂かれて死んだんじゃないのかよ、グロいわ! )」


 咆哮ほうこうをルシフェルに放ち灰とさせた。

 その光景を見た勇者は再度サタンに睨めつける。


「貴様! 仲間をなんだと思っている!」

「ややこしくなるから消し飛ばしたまでだ(えっ、えっ。さっきよりも怒っている……俺なんかした!?」


 この雰囲気じゃ条約を結ぶことはできない。


「オスカルも殺し、ましてや自分の配下まで……貴様みたいな薄情はくじょうな奴とは条約なぞ結ばん!」

「しょうがない。私の本気を見せてやる!(もういいどうにでもなっちゃえ!)」


 またお得いの咆哮を放とうとしたとき、

「そうはさせん!」


 勇者は勢いよく地面を蹴って人間離れしたスピードでサタンの懐に入り、胴体を切りつけた。


「ウラァァァァァァ!」


 あまりの強烈の痛みに床に尻餅をついたサタンは勇者に助けてと懇願こんがんする。


「これでトドメだ」


 勇者は最後のトドメを刺そうとしたとき、魔王は鋭い爪で勇者の腹を突き破った。


「甘いな。(もしかして勝てるんじゃね}」


 聖なる力で強化された勇者を致命傷に負わせたサタンは勝てる気持ちが上がり、お互い傷を負いながら最後の一騎打ちをする。


「食らえ!」サタンは鋭いかぎ爪で勇者を狙う。

「お前なんかに負けてたまるか!」勇者も負けじと聖剣を振り絞って斬りかかった。


 お互い交差するように切りつけた。


「うぅぅぅぅぅ…………」


 最初に倒れたのはなんと


「私が……負けた……」


 地面に大きく大の字倒れた。


「勝った……」


 勇者は聖剣を天にかかげ勝利の美酒を味わった。

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