橋のたもとで。

嵯峨嶋 掌

橋のたもとで

 男には名はない。

 ニックネームもない。桟橋のふもとで、人が通るたびに顔を伏せる。ときには、両手で顔をおおう。

 なぜなら。

 ヒトに見られてはいけない。

 ヒトを驚かせてはいけない。

 ヒトに自分の存在を知られてはいけないこらだ。


 たとえ、誰からも相手にされなくても、あの彼女だけは、優しく接してくれる。

 それでいい。それだけでいい。

 彼は、今夜も、彼女を待っていた┅┅

 

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