第25話 都獅の話

「なんで表にだしちゃいけないと思ったのよ?」

「それは本人に聞いてみなければわからないでござるよ」


 ニコニコと笑顔を見せて、言った。

 会って間もないはずなのに、すべて見透かされているような気がする。冷や汗が流れた。

 都獅はカレンの頭に手を置いて、髪をくしゃっとした。


「また会いに行けばよい。あしらわれるかも知れないが、それは裏腹の言葉でござるよ。気にせず行くといいでござる」


 再度笑みを浮かべる都獅。カレンもさっきとは違う、満面の笑みを浮かべた。


「都獅さん、彼のこと知っているような言い方するね」

「そうでござるか?」


 二人はクスクスとお互いに笑った。


「俺、帰った方が良かったかな」


 未だこの木から出ていけない俺は、二人の声を聞きながら、空をずっと見ていた。

 二人が笑っていると「オン!」とクーが大きく鳴いた。それを聞いて、カレンは「あ!」と声を出し、立ち上がった。


「今日買い物頼まれていたんだ! 都獅さん、話聞いてくれてありがとうね! 私、また忍び込むわ!」

「怪我をしないようにするでござるよ」

「多分ねー!」


 そう言ってカレンは都獅に手を振りながら、クーと共に町へ向かって走って行ってしまった。都獅はそれを見送った後、また目線を釣竿へと向けた。

 俺もやらなければならない事はあるが、どうでもよくなってしまったから帰るかな。立ち上がって、カレンが行った方に俺は歩こうとした。


「して、リョウバ殿。何用でござるか?」


 いきなり呼ばれた自分の名前に、ビクリと体が揺れた。いつから気付いていたのだろう。俺は身を隠していたし、声も出してはいない。都獅はこちらを見てもいない。本当にどうやって。

 あれこれ考えていると都獅が「秘密でござるか?」と言ってきた。視線の先は釣竿のまま。


「ーーいつから気付いていた?」

「最初からでござるよ。気配が全く消えていなかったでござる。すぐに気付いたでござるよ」


 そう言うと、さっきカレンに渡された紙袋を開けて「カレン殿からもらったでござる」と言い、歪な形のオニギリを取り出し、口に入れた。

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