二十一枚=二十枚+一枚

 僕は優しいので、ちゃんと凛生の上履きについた木のかけらを払い、ラブレターも綺麗にまとめて、僕の下駄箱と凛生の下駄箱がつながった空間に入れた。


 まあ……ちょっとうらやましいとは思うよ。


 まあでも凛生は明らかにイケメンだし、しかも控えめで頭がいいのでしょうがない。


 ちなみに当たり前のようにサッカー部で活躍している。


 さらにちなみに、僕は当たり前のように写真部で校内の隅っこで写真を撮っている。


 ちなみに写真部はとてもいい。


 まあ部員も少ない部活だけど、結局高三まで、写真部のまんま楽しく過ごせた。


 けど、そういうなんか女子からの人気とかはない。


 それはそう。そもそも注目されることとかないし。


 


 教室について、鞄を置いて暇なので勉強を始める。


 告白ラッシュだのどうの言ってるけど、大学進学を目指す人たちはそもそも受験生なのだ。


 もう高三。

 

 最後の文化祭がなくなったのは悲しいし、告白ラッシュって何? みたいな立ち位置なのも悲しいけど、とにかく勉強しなくてはいけないのだ。


「おいおい、そんな悲しそうに勉強しなくてもいいじゃんかよ」


 ちゃんと勉強してたら、また正也が声をかけてきた。


「うるさいなー」


「まあまあ、ただちょっと絡んだけだろ」


「うい」


 正也を見ると、単語帳を持っていた。


 人に絡みまくる性質の割には、真面目なんだよな。


 こういう人って割とモテるんじゃないのかな、よく知らない。



 まあ正也がもっとモテてもいいかどうかは置いといて、生産性のない朝のだべりの始まりだ。


 ほんと、このノリで受験直前まで行きそうで怖いし、もっと言うなら共通テスト本番の日の朝でも普通にしゃべってそうでほんと怖い。


 まあ以前は肩組んできてわらわらしながらしゃべってたから、少し離れたところにお互いに座ってる今は落ちついてる方ではある。


 ただし受験生の自覚が出たわけではなく、コロナなだけだ。




 チャイムがなる二分くらい前までしゃべった後、正也は自分の席に戻った。


 さてと、一時間目はなんだろうな……あ、数学だったわ。


 と、数学の教科書を出したところで、肩を叩かれた。


 なぜ戻ってきた正也……と振り向くとイケメンラブレターもらいまくり男がいた。


「凛生か、どうした?」


「これ、お前の」


「え?」


 凛生はさっと目立たないように僕の机に一枚の封筒を置いた。


 えーと……これは、どういうことかと言えば、まさか! 僕は凛生に告白されちゃった?


 とかなんか違う方面へと進み出しかけたけど、冷静に見つめれば。


 見覚えがある薄いグラデーションのピンクの封筒なのだ。朝見た大量のラブレターの中の一枚な気がする。


 ということは。


 うん。


 二十一枚のラブレター。


 そのうち一枚だけ、僕宛だったのだ。

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