「協会」事件簿 その2 「雑居ビルの鍵貸します」
二式大型七面鳥
第1話
「柾木様!一体、何をなさってらっしゃいますの!」
玄関ドアを入った土間に仁王立ちになり、小柄な体を激昂に振るわせた
「いや違う玲子さん!これはその、決して玲子さんが想像しているような事ではなくて……」
ソファーベッドの上で、ややはだけた寝巻きを着た体に、妙になまめかしく白い、男の二の腕ほどの太さの管状の何かを妖しく絡みつかせた状態の
「……柾木様、
「いや決してそういうことではなくて!」
「あらあら、お嬢ちゃんは一人前に焼き餅焼いているのかい?可愛らしいったらありゃしないねぇ」
柾木に巻きついた白い管の先、玲子から見て柾木の体の陰になった方から、これまた色気のある年増女と思しき声がする。するり、と、まるで絡めとられた柾木の顔に頬ずりするような動きで、柾木の影から四十がらみの年増女の、妖艶な笑みをたたえた白い顔が覗いた。
「……もう勘弁なりません!お覚悟!」
言うが早いか、電光石火の早業で玲子は後ろに控えた時田の持つ尺丈「日輪」を奪い取ると、柾木の顔のすぐ横のその白い顔めがけ、渾身の力で尺丈を投げつける。
「うあ!」
狙いは違わず、「日輪」は柾木のこめかみの髪数本を道連れに、ソファーベッドを貫通する。
「おお、おっかない」
だがしかし、そのからかうような声は遥か上、天井の隅から聞こえてくる。長い首をなびかせ、天井の隅でその女は笑う。面白そうに笑うその顔は、わずかにほつれたアップにまとめた長い髪とあいまって、ぞくりとするほど妖しく蠱惑的だ。
抜け首。天井の隅のその顔と、ほぼ対角線の位置にちょこなんと正座する渋めの和装の胴体を交互に見た玲子の頭の中に、そんな名前が思い出される。
「……時田、袴田」
ベールの下から、感情のこもらない目でその胴体を見たまま、玲子は付きそう侍従に言う。
「は」
「あの体を簀巻きにして、東京湾に沈めて来て下さい」
「はい、お
スリーピースをぴしりと着こなした侍従二人が動き出そうとする。
「ちょいと!やめとくれよ!そんな事されたらあたしゃ死んじまうじゃないのさ!」
「お黙りなさい!いっそこの場で引導渡して差し上げます!」
目の前で始まったドタバタの乱痴気騒ぎを呆然と見ながら、柾木は思った。
……どうしてこうなった……
話は、二週間ほど遡る。
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