第13話 魔力を貯める鉱石
「期待をさせてしまって申し訳ありません。」
「呪いの発動間隔を伸ばすことかい?それならむしろ楽しみが増えたから大丈夫だよ。」
申し訳なさそうに紅茶を出すグリーゼルに、レオポルド様は優しい笑顔で気を遣ってくれる。
レオポルド様は紅茶を一口飲んでからデスクの上を指さす。
「ところでグリーゼル嬢、ピトサイト鉱石って知ってるかい?」
白く半透明な石……鉱石というより水晶のようなそれを手に取り、差し出す。
隣には薄緑の半透明の石もある。
こちらからは風の魔力を感じる。
受け取った鉱石と、まだ机の上にある鉱石をじっと見て記憶を辿ってみるが、見たことも聞いたこともない。
「いいえ、初めて見ました。」
「最近領内の鉱山で発掘されてね。ピトサイトっていう甕が名前の由来らしいんだけど、その名の通り魔力を貯めておけるんだよ。」
レオポルド様が私の持つピトサイト鉱石に手を触れる。
ピトサイト鉱石が淡く光ったと思ったら、先ほどまで白の半透明だった鉱石が、薄緑の半透明に変わっていく。
「キレイ……」
魔力が満たされて変化していく光に、思わず見惚れる。
「これを使って呪いの風攻撃を弱められないかと思っていたんだ。」
思わぬ提案に曲げた人差し指を口に当てて、思案する。
ピトサイト鉱石に魔力を移していけば、レオポルド様の中にある魔力が減る。魔力が少なくなれば魔法の威力も弱まる。
防御魔法も重ねがけしなくて済むかもしれない。
ーーしかし同時に危険も孕んでいる。
「確かに魔力が減れば攻撃は弱まるかもしれません。ただあまり減らしすぎにはご注意ください。
30分に一度発動する呪いが無理にでも魔力を使おうとすると、魔力が枯渇して……最悪のことも考えられます。」
せっかくの提案に水を差すのは心苦しいが、死んでしまうかもなんてもっと言いたくない。
しかしただでさえ30分に自動的に魔法が発動するなんて、魔力の消費が相当激しい筈だ。魔力が溢れるほどあるレオポルド様だから死なずに済んでいるに過ぎない。そこに下手に魔力を減らしすぎてしまっては、命に関わる。
「なるほど。僕も死にたくないから、ほどほどにしておくよ。でもこの石はね、他にも使い道があるんだよ。」
気を取り直してニコッ笑って手元の薄緑の鉱石を指さされるが、意図が分からず首を傾げる。
「その中の魔力を操作してみて。」
え……と思わず小さな声が漏れた。
他人の魔力は普通操作できない。
その人から溢れる魔力はその人のものでないと操れない。
しかしピトサイト鉱石に移した魔力であれば、可能ということかしら?
ピトサイト鉱石の中に意識を向け、単純に放出してみると、風がブワッと吹いた。
レオポルド様の銀の髪と、私の栗色混じりの黒い髪がフワッと宙に浮かぶ。
デスクの書類が舞い上がり、お仕着せのスカートも揺れたところを手で押さえる。
「魔力を貯めるだけじゃなくて、使うこともできるんだよ。」
「これは……素晴らしいですわ!」
オモチャを見つけた子供のようにはしゃいでしまう。
それも仕方ない。
今までは自分が持っている魔力しか使えなかった。
それがこれを使えば、どんな魔法だって使えるかもしれない。
魔力を持たない人ですら、魔法が使えるようになる可能性だってある。
完全に自分の世界に入っている私の姿を、レオポルド様はジーッと楽しそうに見つめていた。
ハッと気づいた私は慌てて口元を押さえる。
「すみません。はしたないお姿を。」
かぁと熱くなっていく顔を開いている片手で押さえると、そこに書類を抱えたトールキンが、ノックをして入ってきた。
礼をして抱えた書類を主人に渡す。
「最近食料不足が続いていて、食料が高騰しはじめているようです。頻繁に農民がやってきては、食料を求めてくるのですが頻度が多く……」
「そうか、何度も往復してもらってすまないな。」
「いえ、それが仕事ですから。ところでそれはピトサイト鉱石ですかな。」
グリーゼルが持つ鉱石を指差す。
舞っている書類から今魔法を使ったことに予想が付いているようで、興味あり気な顔を覗かせる。
「あぁ、今グリーゼル嬢にこれで風魔法を使ってもらったところだよ。」
「では他人の魔力も操れるということが証明されたわけですね。」
主人と期待していた効果が実現できたことを一緒に喜び、皺のある顔をくしゃと歪めて笑う。
「そう言うことだ。トールキン、何か使いたい魔法はあるかい?」
「それならよくレオポルド様が使ってらっしゃる、声を届ける魔法。あれが宜しいですね。こちらからも離れたところからレオポルド様にお話ができれば、交渉がスムーズに進みます。」
「それはいいな。グリーゼル嬢、この鉱石に呪術をかけることはできるだろうか?できれば不慣れな魔力でも扱えるように、特定の魔法のみ発動するようにしてほしい。」
それを聞いた私はピンッと来た。
物に呪術をかけることはできる。例えば紙に特定の魔法を出す呪術をかければ、護符になる。ただ物自体は魔力を持たないので、簡単な魔法しかできない上に一度きりだ。
しかしこのピトサイト鉱石であれば、それ自体に魔力を貯められるので、それ以上の魔法を何度も使うことができる。
つまり立派な魔道具を作り出せるということだ。
「もちろんですわ。是非ご協力させてくださいませ。」
手の中にある鉱石は無限の可能性を秘めている。
初めて解呪を成功させた時とは違う、かつてない高揚感を感じていた。
*****
「声を届けるには、近くの声の振動を風で受けて、それを保ったまま相手のところまで届けるんだよ。障害物があっても風の通り道さえあれば、届けられるね。でも声を出す側が風魔法を使わないといけないから、一方通行なんだよね。それに相手がある程度近くにいないと届けられないね。」
レオポルド様はそう説明して、その魔法を目の前で何度かやって見せてくれる。
「なるほど。魔道具で声を届けられれば、レオポルド様から声が届けられた方も返事を返すことができそうですね。」
「そういうことだ。」
「同じように振動を届ける風魔法を呪文にして、相手を探す呪文を闇魔法で付与して、それを風魔法で導く。それからまた音を拾って帰ってくる。これならどこにいても通話できますわね。それに電話みたいにお互い持っていなくても、届けられるので便利ですわね。それにノイズキャンセリング機能も付けたいですわ。音の振動の幅を狭めて……(ブツブツ)」
なんか聞いたことない単語がいっぱい出てきたな…。つうわ?でんわ?ノイズキャン……??
闇魔法の専門用語かな?
それに何やらトランス状態になってるね。
よっぽど呪文を考えるのが好きなんだなぁ。
思考を妨げないように、ニコニコ見守ることにする。
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