第11話 守るためには
あれから1時間が経過したので、私は朝食を用意して図書室へ行ってみた。
……が、部屋にはレオポルド様のお姿は見当たらない。
テーブルには土魔法の本が山積みになっていて、何冊かは開いたまま風がページを捲っていた。
本棚の間にいないかとキョロキョロ見てまわっていると、窓の外からヒュルルッという聞き覚えのある音が聞こえてきた。
窓から外を覗いてみると、レオポルド様が自ら出した風魔法と対峙していた。
袖が何箇所か破けて、邪魔になったのか捲り上げ、露わになった腕には傷跡ができていた。その額にはキラキラと汗が輝いていて、この1時間の努力が窺える。
風魔法がレオポルド様へ襲いかかり、バシッと風が当たる音がして、腕を確かめるが傷は増えていないようだ。
その腕には小さな盾のように防御魔法がかけてある。
「レオポルド様、防御魔法まで使えたのですか?」
思わず声をかけると、こちらに気づいて、「グリーゼル嬢!もうそんな時間かい?」手を振って近づいてくる。
「今覚えたんだ。」
2メートルと少しの距離で止まり、サラッと言ってのける。
「な、なんですって……!」
その言葉に、私は打ちのめされていた。
私が防御魔法を覚えた時はなかなか上手くできなくて、ちゃんとした魔法をかけるのにも3日はかかったというのに……。
そこからレオポルド様はさらに衝撃的なことをしだす。
2メートルと少しの距離から、私の防御魔法に重ねがけをしてきたのだ。
レオポルド様に会いに来るのに、私は予め防御魔法をかけ直していた。そこに同じ魔法を上掛けすることは、普通にかけるより高等技術だ。更に遠くから狙いを定めて、特定の場所に魔法をかけるのも難しいと聞く。
「重ねがけ!?しかもその距離からですか!?」
驚いて口をパクパクしていると、さも当然のように答えるから困る。
「遠くから魔法をかけるのは慣れてるし、重ねがけもそんなに難しくなかったよ。」
まずレオポルド様が一番多くお持ちなのは風魔法だ。
そうおっしゃっていたし、溢れ出る風属性の魔力からして間違いない。
それに加えて私の傷を治す時、木魔法と水魔法まで使っていた。
そこにさらに土属性の魔法の防御魔法までやってのけた。
魔力を四属性も持っているなんて聞いたことがない。
私も闇と土の二属性だし、三属性でも珍しい。
それに加えて今覚えたての防御魔法を重ねがけなんて、天才としか言いようがない。
あんぐり開きそうな口を手で押さえていると、してやったりという笑みを浮かべる。
「君のそんな顔が見られるなんて、短時間で習得した甲斐があったな。まぁ、君の猿真似だけどね。」
猿真似程度では重ねがけも遠距離から魔法をかけることも、できるわけがない。
しかしはしたない顔を指摘されてしまい、少し恥ずかしくなる。
気を取り直して、コホンと咳払いをしてから朝食を促す。
「レオポルド様が天才なのはとてもよく分かりましたわ。でもそろそろ朝食になさいませ。お昼になってしまいます。」
クスクスと笑いながら、じゃあすまないけど執務室まで運んでくれるかな、と歩き出す。
仕事の時間を防御魔法習得の時間に充ててしまったので、食べたら仕事に取り掛かるのだろう。
レオポルド様が傷を治している間に、本を片付け、朝食を持って一緒に執務室まで行くことにした。
*****
そのあとも何度か呪いが発動したが、二人で防御魔法をかけたのでほとんど被害は出なくなった。
これにはトールキンもとても驚いていた。
ただその度に防御魔法が削れるため、また二人でかけ直す必要がある。
魔力消費が激しいが、トールキンにも二人で防御魔法を重ねがけした。
それでももう人を傷つけてしまうことに怯える必要がなくなったレオポルド様は、晴れ晴れとした顔をしている。
私はというと最初の宣言通り、呪いの調査を始めている。
最初は10分置きに近づき、30分程度呪いが発動しない時間があることは確認できた。
正確な時間を調べるため、20分くらいからそばに立ってみると、ピッタリ30分でまた呪いが発動した。
ただ立っているところに突然風魔法が出現するのは、あんまり心臓に良くない。
距離は大体2メートルほどなのは分かっているので、次は目を閉じて近づいてみたり、レオポルド様が近づいてくる時に発動させてみたり、いろいろ試してみたが、あまり変化はなかった。
大体まとまったことが分かってきたら、レオポルド様のお仕事がひと段落したあたりにお時間をいただき、まとめて報告する。
「レオポルド様の呪いは一度発動すると、きっかり30分は発動しないようです。呪いが発動した直後に風が出なかったのは、これが原因ですわね。」
一緒に見ていたレオポルド様も、頷く。
「それとレオポルド様がおっしゃっていた、意識を失っている相手には近づいても発動しないということですが、以前意識を失っている相手に近づいた話が全て風が発動した直後だったので、断定できません。できれば真意を調べたいのですが、私が寝ている間に調べていただくことはできませんか?」
最初はうんうんと聞いていたレオポルド様の顔がみるみるうちに赤くなり、手の甲で口を押さえる。
「じ……女性が寝ている寝室に行くなんて、そんなことでっできないよ!」
最もな意見だ。
しかしそれができなければ、人の意識に反応しているのか、人の体に反応しているのか分からない。
それぞれ呪術の掛け方も違う。
「それならっ……君が僕が寝ているときに、入ってくればいいじゃないか。僕は男だからだいじょ……」
そこまで言われて、今度は私の顔が真っ赤になる番だった。
男性の寝室に女性が行くということは、それはもう愛人でしかない。
「す、すまない!失言だった。今のは忘れてくれ!」
真っ赤な顔を両手で抑えながら、コクっと頷いた。
意識を失っている相手に反応するかは、しばらく保留にすることにする。
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