第6話


飛び跳ねるイルカ達に、嬉しそうに手を叩く沙莉。

それを横目に見えるのは。

幸せそうに好孝の肩に寄り添う美加と、その頭を優しく抱く好孝の姿。

なんで、あの二人が、なんでよりによってここなの?


”なんで私じゃなくて美加なの?”


「ママ?」

私を呼ぶ声に我に返り、横を向くと心配そうに私を見つめる沙莉と目が合った。

「ママ、どこか痛いの?」

「いいえ、大丈夫よ。ありがとう。」

私は優しく言うと、沙莉の頭を撫でた。

「杏子、大丈夫か?顔色悪いぞ?」

「・・・大丈夫。ちょっとトイレ行ってくるわ。」

「何かあったら連絡しろよ?」

「うん。」


私、今何を考えた?

私が今愛しているのは、そう、あんな奴じゃない。

なのに、なんでこんなに胸の奥がズキズキと痛むの?

「大丈夫。私はもう、昔の私じゃない。」

そう呟きトイレを出ると、誰かとぶつかってしまった。

「あっ、すみません・・・・!」

微かに香る、懐かしい香水の香り。

嫌と言うほど鼻の奥に染み付いてしまった香り。

「杏子・・・?」

目の前には、驚いた様に目を丸くした好孝が立っていた。


咄嗟に顔を伏せ、その場を後にしようとすると好孝が私の腕を掴んだ。

「杏子、なんやろ?」

「・・・・・離して。」

「なんでそんな冷たいんや?久しぶりに会えたのに。」

「もう、貴方と私は関係ないから。」

「杏子・・・・俺、ずっとお前を探してたのに」

「もうやめて!」

強く言葉を発し目線を移すと、そこには悲しそうな顔で見つめる好孝がいた。

「杏子。」

「・・・美加と、幸せに暮らしてるみたいじゃない。」

「!」

「また前みたいに弄んで、都合の良い女にさせるつもり?」

「杏子、話を聞いてくれ」

好孝に引き寄せられそうになった腕を、力強く誰かに引き戻された。


「その手を離してくれないか。」

「豪君。」

「・・・・なんや、お前か。」

「家の家内に何か用件があるなら、俺の許可を得てから言ってくれ。」

「家内て・・・杏子、お前」

「今は豪君と結婚してるの。だから、もう好孝の知ってる私じゃない。」

「杏子・・・・・」

「行くぞ、杏子。」

豪君はこの空間に居たくないような雰囲気を出して、私の手を取り歩き出した。

「豪君、私」

「・・・・沙莉が寂しがってたぞ。早く戻ってやろう。」

気まずそうに話しかける私に豪君は変わらない笑みを浮かべた。

「・・・・うん。」


何を後ろめたさを感じているのだろう。

なんで心を揺れさせているのだろう。

私にはこんなに一途に私を大事にしている人が居てくれているのに。

私はそう自分を思い込ませるように豪君の手を握り返した。






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