100.勝利のメイドパルテ
深夜。
俺は日中の出来事を夢に見て、目を覚ました。
『ウチはイっちに会えただけで満足だよ』
『レベルアップしたマスターから凄い力が流れ込んできて、こんな姿になることができました。なので凄いのはマスターです』
ノディーテ。そしてレーデリア。
一日だけで、驚きの出来事が二回も起きた。
ノディーテは大丈夫だろうか。どこに向かったのだろうか。
レーデリアの中で、いったいどんな変化が起きているのだろうか。このままで大丈夫なのだろうか。
「……また考え込んでる。性分だなあ」
カーテンの隙間から差し込んだひと筋の光に向かって、
自分のことより、他人のことが気になって仕方がない。ましてや、それが家族のこと、友好的だがひどく変わった子のこととなれば、なおさらである。
つくづく思う。
俺は英雄などではない。語り継がれるべき
むしろ
「皆、明日も元気で」
祈るように口にして、俺は再び目を閉じた。
――そのまま寝入ったらしい。
次に
天井を見上げながら目をこする。
「おかしいな。意識はちゃんとしてるのに」
「誰が幻覚よ」
待って。本来ツッコミを入れるのは俺。
とりあえず。
「おはようパルテ」
「……おは
「説明求む」
俺はクラクラしながら尋ねた。
朝、目が覚めたらパルテが上から覗き込んでいた。これはまだいい。きっと昨日の今日で様子を見に来てくれたのだろう。「おかしいな部屋に鍵はかけていたはずだが」という疑問は心の底に沈めておく。
問題は――パルテの格好だ。
フリルの付いた白いカチューシャ。濃紺のワンピースと白のエプロンを組み合わせたエプロンドレス。
「館の皆さんから借りたの。……まったく、なんで皆あんなにノリがいいのよ」
「……」
まあ、それもまだ、いい。
メイド服自体は、グリフォー邸に勤めているメイドさんたちのお下がりだろう。我が身内ながらよく似合っていて可愛らしい。
――が。その可愛さを台無しにしているモノがひとつ。
「背負ってるその
パルテはきょとんとした。
衣類タンスかと思うほど馬鹿でかい四角い箱を彼女は軽々と背負っている。
やたら頑丈そうなそれを背中から床に下ろすパルテ。ドスン……と腹に響く音がした。
「
おい、床が揺れたぞ今。
絶句する俺の前で、箱の中からいくつかの粉末状の薬剤を取り出す。どっかの店の在庫をまとめて引っ提げてきたんじゃないかと思うほどのラインナップだった。マジかよ。
「仕方ないから、あたしの研究の成果をみせてあげるわ」
「研究?」
「……あんた、自分が覚醒させたギフテッド・スキルのことを忘れてるんじゃないでしょうね」
ジト目で見られた。
俺が【覚醒鑑定】によって目覚めさせたパルテのスキル。【重力反抗】、【神位白魔法】、そして【完全調合】。
そうか。この大きな箱は、彼女が【完全調合】で薬を作るためのものか。
「言っとくけど、これ全部、あたしが自分で精製したり配合したりして
心を読まれた。ごめん。
トゲのある口調とは裏腹に、表情は実に楽しそうである。
俺はベッドの
「やりたいこと、見つかったか。パルテ」
「……まあ、お
ぷいと顔をそむける。照れ隠しのためか彼女は話題を変えた。
「イストがいつまで経っても休もうとしないから、姉様たちと相談して、あたしたちで世話することにしたのよ。し、仕方
「……負けたのか?」
「勝った
仕方なく勝ったとは。
それからも「仕方なく」を連呼しながら、手際よく薬を調合するパルテ。湯に溶かしてできあがった薬を飲むと、頭の芯がスキッと冴えるような心地良さを覚えた。
「さすがギフテッド・スキルの力。これはすごいな」
「ふふん。けど、過ぎた薬効は毒も同じ。今日のは効き目抑え気味だから、あんたがしっかり休まなきゃ意味ないんだからね。諦めてあたしたちにお世話されなさい」
「ははは。じゃあお言葉に甘えようかな」
「よし。では脱げ」
「……はい?」
「着替えさせてあげ
俺、
問答無用で服を脱がしにかかるパルテ。俺は抵抗しようとしたが、無駄だった。【重力反抗】でふわりと浮かされてしまえば、身動きが取れない。
その後もなんやかやで世話を焼きまくる双子の妹。【神位白魔法】のギフテッド・スキル持ちは伊達じゃない……と俺は半ば達観してしまった。
ようやく一通りの身支度を終えて廊下に出ると、今度はフィロエ、アルモア、ルマが待ち受けていた。
「交代です」
「マジですか」
「ちなみにあと二回ローテーションします」
「マジですか……!」
メイド服姿の天才少女たちに手を引かれ、俺は気が遠くなるかと思った。
こんなことなら、パルテにもっと強い薬を作ってもらえばよかった。
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