27.色付き冒険者に絡まれる
ミニーゲルの街が見えてきた。
ウィガールースが各街道の交わる
壁や門はない。建物は中央に密集し、街の外側にいくほど次第にまばらになっていく。
目抜き通りに向かってレーデリアを進めていると、前方に人だかりが見えてきた。
旅装の男たちの前に、大勢の住人たちが集まっているようだ。
様子がおかしい。なにがあったのだろう。
「いいから! 俺たちに任せておけばいいんだよ!」
男のひとりが声を張り上げているのが聞こえてきた。
イラついているようだ。
対する住人たちの表情は微妙だ。隣の人と顔を見合わせたり、こそこそと耳打ちしたりしている。
これは回り道して街に入った方がいいかなと考えていると、タイミング悪く旅装の男たちがこちらを振り返った。
「あ? なんだお前は」
「どうも」
無視するわけにもいかず、レーデリアを進める。
住人たちから「おお……」と静かな声がもれた。視線はレーデリアに向けられている。
『至聖勇者の鉄馬車』が珍しいのかな。
旅装の男たちが進路をふさぐ。
よく見ると、彼らの胸元には
あれはギルド連合会が発行する冒険者タグだ。なるほど、彼らは冒険者か。
「おい。アンタも冒険者なんだろ。タグ、見せてくれよ」
冒険者たちは名乗りもせず、ぶしつけに要求してくる。
俺は眉をひそめながら答えた。
「タグなんて持ってませんよ。確かにギルド連合会から依頼は受けているが、俺たちは冒険者じゃありませんので」
「はあ? アンタ、冒険者でもないのにそんな馬車に乗ってるのか」
近づいてくる。
「やめとけやめとけ。アンタみたいな素人にこの馬車は不釣り合いだ。今すぐ降りて、俺たちによこしな」
「……なにごとですかイストさん」
騒ぎを聞きつけ、フィロエが御者台に出てきた。
エネステアの槍と暁の盾をしっかりと装備した彼女を見て、冒険者の男たちは腹を抱えて笑い出した。
「こりゃ
あ?――と額に青筋を浮かべるフィロエを制する。
冒険者たちの口は止まらない。
胸元に下がった水晶を高々と掲げた。
「ほれ見ろよ、この色! 俺たちは
勝ち誇った表情の男を、俺は冷めた目で見ていた。
冒険者には
あの水晶は冒険者のランクを表すタグなのだ。
ランクはいくつかあるが、一般的な認識では大きく2つに分かれる。
『色付き』と『色なし』だ。
冒険者ランクの一番下は
そこからさまざまな依頼や試練を乗り越えることでランクが上がり、タグに色がついていく。
一般人からすれば、『色付き』は上級とかベテラン冒険者、『色なし』が一般冒険者という認識である。
ちなみにこの男たちが誇らしげに掲げる
確かに、冒険者の経験という意味ではそれなりなのだろうが……ランクの内容を知ってる俺からすると、「だからどうした」という感じだ。
動じない俺に神経が
「とにかく、アンタはお呼びでないんだ。ここは俺たちのシマ、さっさと帰ってガキのお守りでも――」
「旅のお方! 私たちの願いを聞いてください!」
男が言い終わる前に、住人のひとりが俺の前に進み出て訴えた。
表情は真剣で、必死さが伝わってくる。
「どうか、私たちの子どもをお救いください! 先日から行方不明になって、皆、心配しているんです!」
「俺の子も」
「わたしのところも!」
「立派な馬車をお持ちのあなたなら、たとえ冒険者でなくても優れた力があるとお見受けしました。どうか私たちの子を……!」
あっという間に人だかりができた。
皆、冒険者の男を尻目に次々と俺に
ちょっと待って。
これ皆、行方不明の訴え!?
いや、多すぎない!? どうなってんだ!?
人の輪からはじき出された冒険者がわめく。
「おいお前ら! 俺らに任せておけと言っただろうが! 冒険者登録もしていない素人にすがるなんて、お前ら全員バカか!? こっちは『色付き』の冒険者なんだぞ!? 大事な任務のついでに助けてやろうと言ってるんだ。それがわからないのか!?」
誰かがぼそりと言った。
「いくら色付きでも、あんな横暴な人に大事な子どものことを任せられないよ」
まあ、お気持ちは察します。
住民に
直後、住民の輪がススッと分かれる。
奥から、落ち着いた物腰の壮年男性が歩いてきた。
「はじめまして。私はドミルド・テッラと申します。ミニーゲルの長を務めております」
「イスト・リロスです」
まさかの
「よろしければ、私から状況をご説明さしあげたい。ご足労いただけますか?」
俺がうなずくと、「では、こちらへ」とドミルドさんがきびすを返した。
静々と進むレーデリアに向かって、住人たちが手を合わせて頭を下げる。
なんだか変な気分だ。
「えへへ」
「……フィロエ。この状況でなんでそんな嬉しそうなんだ」
「だって、イストさんを大勢の人たちが頼ったんですよ。誇らしくて」
口元を緩めていたフィロエが、ふいに
「まあ……あの冒険者たちに会ったらゼッタイ文句言ってやりますけど。場合によっては実力行使で」
「お前の場合冗談じゃすまないからな?」
ため息とともに釘を刺す。
――ドミルドさんに案内されたのは、街の中心部にある彼の屋敷であった。
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