第1章 救った孤児は未来の聖騎士 美少女フィロエに愛される
2.命がけの戦いで超絶レベルアップ
ギルドを追放されて、3日が経過した。
俺は空きっ腹を抱えながら、街道をとぼとぼと歩いている。
目指しているのは、ウィガールースの街から20キロほど離れたエルピーダ孤児院だ。
俺はこの孤児院の出身だった。
幼少期を過ごした場所であり、俺を真っ当な道に導いてくれた恩師がいるところでもある。
「もう10年か」
孤児院を出たのが11歳のころ。21になった今の今まで顔も見せなかったのは、思えばずいぶん薄情であった。
俺は恥の上塗りを承知で、院長先生を頼るつもりであった。ただ働きでもいいから住み込みで働かせてくれないかと頭を下げるのだ。
そうするしかないほど、俺は追い詰められていた。
――追放されたその日、俺は再就職のため様々なギルドを訪ね歩いた。ウィガールースは主要街道が交わる交通の要衝。国内でも有数の冒険者の街であるから、ギルドは大小合わせていくつも存在した。
だが、すべてダメだった。
ギルド連合会が定めたレベルの壁。
背が高い
モンスターが世界中に
突如として出現した『力の魔王』と呼ばれる謎の存在によって、世界各地でモンスターが湧き出るようになった。しかもこのモンスターたち、これまでの敵と比べて経験値がとても多いボーナスモンスターばかりだったのだ。
モンスターを倒せば倒すほど、どんどん強くなれる。地道な修行より何倍も早くだ。
その結果、モンスター討伐を行う冒険者の数は爆発的に増え、重宝されるスキルもモンスターを単独撃破できるようなものに
ギルド職員として書類をめくっていたから知っている。今ではパーティに補助役どころか回復役も置かない連中が珍しくなくなった。
レベルにこだわるギルドの決定も、そうした世の中の流れを受けてのことだ。
再就職にあたり、自分のレベルを偽って申告することも考えたが、すぐに無駄なあがきと諦めた。
ステータスなんて、【
再就職に手間取っているうちに、俺の現状が下宿先のオーナーに知られ、俺はそこからも追い出された。
――こうして、今に至るというわけだ。
「腹、減ったな」
お昼前だというのに行き交う人の姿はない。
街道にはモンスター避けが施されているとはいえ、こんな辺境では効果は怪しい。
一応、この辺りはスライムの出現地帯だと資料で見ていたので、いざという時のための対策アイテムは持ってきている。
早期発見ができれば、俺でも何とかなる。まあ、一回限りだが。
上位種のスライムにも効果が高いためそれなりに高価なアイテムだ。路銀がない今、売ってお金に換えることも考えたが、思いとどまった。身の安全には代えられない。
おかげでこの3日間はろくなものを食べてないが。
「お……見えてきた」
蛇行する道の先に、白い建物が現れる。エルピーダ孤児院だ。
心なしか、歩くスピードが上がる。
そのときだった。
どこからか悲鳴のような大きな声が聞こえた。しかも複数。
辺りを見渡した俺は、信じられない光景に目を
街道から少し外れた池のほとりで、4人の少年少女たちがモンスターに襲われていたのだ。
しかも――。
「おい……おいおいおい」
池から這いずり出てくる紫色の塊。大人数人をまとめて飲み込めるほどの巨体と圧倒的な存在感。
「あれはもしかして『パープルスライム』か!?」
超レアモンスター『パープルスライム』。柔らかで分厚い身体は武器による攻撃にとても強い。近接戦士にとっては特に難敵だ。
俺の記憶だと確か奴のレベルは――33。
33対8じゃあ、まともに戦ったら勝負にならない。
ましてや、まだ身体もできていない子どもならなおさらだ。
「早く逃げろ! 早くッ!」
俺は道具袋を探りながら大声で警告した。しかし、少年少女たちは悲鳴を上げるばかりで動かない。腰を抜かしているのか。
違和感があった。
4人のうち3人は、モンスターから少し距離を開けたところでへたりこんでいる。
だが残りのひとり、長い金髪が印象的な少女が、パープルスライムから目と鼻の先の位置にたたずんだままなのだ。右手に木の棒を握っているが、構えを取る気配がない。
パープルスライムはにじり寄っていく。それでも少女は無抵抗に立ったまま。
「おいまさか」
少女の靴がパープルスライムに飲まれる。
「死ぬ気かあの子!?」
もはや一刻の
俺は目当ての小瓶を引っつかむと、大きく息を吸い込んだ。
目標まで、およそ20メートル。
パープルスライムに狙いを定める。チャンスは一度きり。
「スキル【遠投】――ッ!」
液体の入った瓶を、全身のバネを使って投げつける。
俺の数少ない得意技、【遠投】。アイテムを投げて、正確にヒットさせるスキル。
小瓶の中身が、パープルスライムの半透明の身体にぶちまけられた。
途端、パープルスライムが苦しみ出す。身体がグズグズに崩れていく。
もしものときのために取っておいたスライム特攻の魔法薬。効果は抜群だ。
だが、まだ倒したわけじゃない。少女が安全になったわけじゃない。
俺は全力で走った。
頭の中は彼女を助けることだけ。息苦しさも空腹も吹っ飛んでいる。
少女の元にたどりつくと、彼女を抱えて引っ張り上げた。
幸い、深刻な怪我は負っていないようだ。見た目よりもタフな娘だ。
驚いた表情で少女が俺を見るが、それに応える余裕はない。
目の前に、瀕死状態とはいえ格上のモンスターがうごめいているのだ。
視覚的にグロい。威圧感がヤバイ。吐き気がする。
俺は腰からダガーを抜く。
汗を滴らせながら目を皿にする。奴の弱点、核を探せ。
高位のスライムは核を見抜いて破壊しなければ倒せない。
ここで倒さなければ、皆が危ない。
――できるのか? 俺に。
これほどまでに高レベルのモンスターと戦ったことなんてない。
俺の戦闘技能は素人に毛が生えた程度。
俺は弱い。間違いなく。
だから。だからこそだ。
命を懸けるだけじゃ足りない。考えろ。思い出せ。
今、このときに有効なお前の長所は何だ。イスト・リロス!
それは――『目』だ。
お前は誰よりも素早く書類の不備を見抜くことができた。誰よりも鋭く他人の体調変化に気付くことができた。
信じろイスト。お前の目は、今このときも役に立つはずだ!
探せ! 集中しろ! そして
絶対に見つけられる!
「そこだッ!」
振り下ろしたダガーの切っ先が、甲高い金属音を立てた。
核にヒット――だが。
「ちっ、硬い!」
させるものかとパープルスライムの身体が俺の腕にまとわりつく。奴は体内で獲物を溶かして食う習性があるのだ。肉の焼ける音とともに激痛が走る。
俺は歯を食いしばった。
奴の核を破壊するのが先か。
俺の腕がもがれて死ぬのが先か。
「うおおおおおおおおっ!」
両手を柄に添え、全体重をかけてダガーを押し込む。
フッ――と抵抗が弱まった。
粘着質のスライムの身体が、砂のようにサラサラと崩れていく。俺は息を止めてその様子を見ていた。
核が
剥き出しになったそれは、真っ二つに割れていた。
その事実に気づいたとき、安心して一瞬だけ意識が遠くなった。
「倒せた……」
肺の中の空気を全部絞り出すくらい長く息を吐いた。
脱力しかけた俺の脳裏に『天からのメッセージ』が降りてくる。
《『パープルスライム』を撃破。レベルアップしました。8→9
レベルアップしました。9→10
レベルアップしました。10→11
レベルアップしました。11→12
レベルアップしました。12→13 ……》
延々と脳内でレベルアップを告げる声を、俺は呆然と聞いていた。
成長したとき、スキルを得たとき等に降りてくる天からのメッセージ。一説には、【運命の雫】に神様が声で情報を書き込む様子だといわれている。
「そういや、パープルスライムの経験値って
一足飛びどころか、空を駆け抜けるような勢いで上がっていくレベルに、爽快感すら覚える。
結局、レベルアップは20で止まった。レベルだけなら立派な中級冒険者クラスだ。ステータスは……それなりといったところ。実に俺らしい。
「しかしまあ、久しぶりの戦闘が命懸けになるなんてな」
《解放条件『命懸けの戦闘』をクリア。
これにより、ギフテッド・スキル【
対象が所持するギフテッド・スキルを発見し、強制的に解放することができます。また、解放したギフテッド・スキルを一定水準まで成長させると、さらに限界突破して新たなスキルに進化させることができます。
追加効果『サンプルLv1』。
【覚醒鑑定】により解放、あるいは限界突破したギフテッド・スキルを任意のタイミングで再現できます。使用限度は1スキルにつき1回です。
追加効果『モニタリングLv1』。
対象の習得済みスキルを表示します。ギフテッド・スキル所持者以外にも使用可能です。
注意事項。
【覚醒鑑定】によるスキル解放効果は、ギフテッド・スキルを所持した特別な対象者にしか発揮されません》
「………………はい?」
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