【書籍発売中】元ギルド職員、孤児院を開く スキル【覚醒鑑定】で生徒たちの才能開花、ついでに自分もレベルアップ!?

和成ソウイチ@書籍発売中

1.理不尽な追放劇


「イスト・リロス。これが何の書類かわかるか?」


 まだ陽が昇って間もない時間。

 俺――イスト・リロスは、上司であるギルドマスターから詰問きつもんを受けていた。ご丁寧に執務室まで呼びつけられて、だ。


 さっきから背中に嫌な汗が流れている。絶望的な予感を抱えながら、俺はカラカラの喉から声を絞り出す。


「俺の――いえ、私のステータスの記録用紙です」


「そうだ。ここにはお前のレベルがしっかりと記載されている。イスト・リロス。レベルは『8』。さて、ここで質問だ。『力の魔王』によって無数のモンスターがはびこる世の中になった今、我らギルド職員に求められるレベルは、いくつだったかな?」


「……15、です」


「そうだ15だ! 冒険者で言えば初心者を脱してようやく中級になろうかという程度。しかしお前はそれすら到達していないのだ。これはギルド連合会が制定した規則に違反しているだけでなく、我がギルド【バルバ】の看板に泥を塗る行為である」


「申し訳、ありません……」


「いや許さん。イスト・リロス、お前は除籍だ。荷物をまとめて、ここから出て行け!」


 そんな。嘘だろ……?


 最悪の予想が的中し、俺は激しく動揺した。

 何とか気持ちを切り換えられたのは、ギルド職員としての自負と、理不尽な状況に対する怒りを思い出したからだ。


「待ってください! それはあんまりだ。確かに俺はレベルアップできなかった。けどその代わりに、大事な仕事は精一杯こなしてきたつもりです!」


「地下の薄暗い書庫で書類とにらめっこすることがか?」


「大事なことです! モンスターとともに冒険者も爆発的に増えた現在、どのくらい膨大な書類が日々発生していると思っているのですか。誰かが整理し、処理していかないと、ギルド運営に大きな支障が出ます!」


「貴様……私にギルド運営を語るか! 連合会の決定から1ヶ月も猶予を与えられて結果を残せなかったなまけ者だろう、貴様は!」


「それは誤解です! 俺が連合会の決定を同僚から伝えられたのはほんの数日前だった! それに、皆がレベルアップに勤しんでいる間、未処理の書類がすべて俺のところに回ってきたんだ。明らかに不公平です。どうかご再考を」


「ええい、うるさい! うるさい! 貴様は追放、これは決定事項だ! 私が決めたことに口を出すな。出て行け!」


◆◇◆


 そこから先は、反論もできないまま流れるようにことが進んでいった。


 失意の俺が執務室から戻ると、数人の同僚たちが俺を囲み、有無を言わさず裏口へと引きずり出した。


 皆、俺に書類を押しつけてきた男たちだ。


 裏口から蹴り飛ばされ、俺は石畳の裏路地に顔から倒れ込んだ。激しく鼻をぶつける。追い打ちをかけるように、乱雑にまとめられた荷物が背中の上に降ってくる。


 みじめさで息がうまくできない。


 顔を上げると、同僚たちが揃って侮蔑ぶべつを込めた勝ち誇りの笑みを浮かべていた。


「はっはっは。相当ショックだったんだなあ。規則違反で追放……与えられた仕事をキッチリこなす真面目君にはキツかっただろ?」


 唇を噛む。

 ……ワザとこんなやり方を。俺が一番ダメージを受けるようにってことかよ。


「安心しろよ。俺たちでもあの短期間じゃレベルアップなんて無理無理。ま、どちらにしろお前みたいな地下のかび臭い男はとっとと出て行くべきだったのさ」

「あばよ、役立たず。もうこのギルドに来るんじゃねえぞ。特に窓口に顔を出した日には、ただじゃおかないからな。あの娘に色目を使ったこと、後悔して生きろよ」


 下卑げびた声が容赦なく叩き付けられる。


 そうか。そういうことか。


 つくづく自分の馬鹿さ加減が嫌になる。

 今、このときになって、同僚たちの嫌がらせの原因に思い至るとは。


 つまり彼らは――窓口のアイドルが俺に親身になってくれていたことに、嫉妬していたのだ。わざわざ朝一番に呼び出したのは、あの娘が職場に来る前にケリを付けたかったからだろう。


 俺はただ、ギルドのため、冒険者のため、そして日々依頼を持ってくる人々のために働こうと頑張っていただけなのに。


 ――ギルドの古びた裏口扉が、無情な音を立てて閉められた。


 もう、この扉が俺のために開くことはないだろう。


 反論する気力も失せた俺は、重い身体を引きずりながら裏路地を歩き出した。


 まだ陽は昇ったばかり。街も、人々も、これから一日が始まっていく。


 裏路地は薄暗い。


 俺には、この道が一日どころかこの世の終わりに繋がっているように思えてならなかった。





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