第30話:二人の初めての共同作業ってヤツかな?
倒れたオークをしばらく見つめていた姫騎士さまは、オークが動かないのを確認して、俺の方を振り返った。
「勇士くん、やったよ!」
金髪ウイッグの姫騎士さまが、目をキラキラと輝かせている。
それにも増して黒いミニスカートからすらりと伸びる白い脚が
──うん。こんな時にもそんなところに目が行くなんて、やっぱ俺ってスケベだな。
だけど俺は、もちろんそんなことはおくびにも出さずに、姫騎士さまに声をかける。
「やったな!」
「勇士くんのおかげだよ、ありがとーっ!」
「いやいや、姫がすんごく強いおかげだ。さすが女子剣道部主将」
「ううん、勇士くんこそ、さすがの太刀さばきだ!」
ん? 俺がさすがの太刀裁きって……?
俺が中学時代に剣道をしてたことは、岸野は知らないはずだよな……
ふとそんなことが頭に浮かんだけれども、姫騎士さまが右手を出して握手を求めてきたから、それ以上考えるのをやめた。
「二人で力を合わせてモンスターを倒せたなっ!」
「そうだな」
俺も右手を出して、姫騎士さまとがっちり握手をする。
こうやって一緒に一つのことを成し遂げるってのはいいもんだ。
お互いの絆が深くなったような気がする。
姫騎士さまも同じように感じたのだろうけど、ちょっとわけのわからないことを言った。
「これって、二人の初めての共同作業ってヤツだね」
いや、それはちょっと違うと思うぞ。
でも姫騎士さまが嬉しそうだから、まあいっか。
「ところで姫、身体は大丈夫か? ケガはないか?」
「うん、全然大丈夫。痛くもなんともない。夢だからかな?」
「そうかもな。なんともなくて良かった」
「勇士くんこそ、大丈夫か? さっき、肩の痛みで腕が上がらないなんて言ってたけど……」
「ああ。中学の時に大会でしたケガのせいで、今でも痛くて肩より上には腕があがらないんだよ」
「そうなのか……そんなこと、全然知らなかったよ」
「ああ。だけどここは夢の中だからか、痛みはなくてなんの問題もなかったよ」
「そっか……それは良かった。勇士くんにケガが無くてほっとしたよ」
「いや、姫の方にこそ、ケガが無くてよかった」
──なんて言いながら、姫騎士さまの身体に目を向けた。ついつい胸アーマーに目が行ってしまう。さっきオークに握られてたよな……なんて頭をよぎった。
俺の視線に気がついたのか、姫騎士さまは「あ……」と小さく声を漏らした。そして両腕で胸を隠して、恥ずかしそうにうつむいた。
そして何かに気づいたように、ハッとした表情を浮かべた。今まで凛々しい顔つきだったのが、急にいつもの夢の中と同じ、緩んだ感じに変化した。
「あの……えっと……金属性のアーマーのおかげで、直接触られてないから大丈夫だよ」
話し方まで、いつもの乙女バージョンに戻った感じ。
きっと岸野はモンスターと闘うことで、無意識のうちに凛とした姫騎士バージョンになっていたんだろう。それに今更ながらに気づいたって感じだ。
「そ、それは良かったな……あはは」
直接触られていないと聞いて、なんだかわからないけど、ホッとした俺。
他の男に触られるなんて嫌だ、なんて思ってしまった。
──って、これはジェラシーってやつか? それとも独占欲?
しかしオークが男なのかどうかわからないし、そもそも人間じゃないんだから、そんなの気にする必要はないよな。それに岸野のおっぱいは、俺の物でもなんでもないし。
「うん、良かった。勇士くん以外に触られるなんて、やだもん」
「ふぇっ?」
姫騎士さまが漏らした言葉に、思わず変な声が出てしまった。
それって……俺は触ってもいいってことですかぁーっ?
──なんて馬鹿なことが頭をよぎる。
姫騎士さまはハッと気づいて、急にあせあせし始めた。
「あっ……ごめん、勇士くん。今の言葉は忘れてっ! ねっ、お願い! 忘れて!」
「お、おう。忘れた。すっかり忘れた。俺は絶対に忘れた!」
どうやら姫騎士さまは、意図せず口を滑らせてあんなことを言ってしまったようだ。
真っ赤な顔でうつむく姫騎士さまに、俺は必死で『忘れたアピール』をした。
もちろんさっきのセリフは、決して忘れることなんてできないくらいインパクトがあったんだけど。
なんかすっごく嬉しいセリフじゃないか。
なかなかいい雰囲気になってきたし、姫騎士さまと異世界の探検するのが俄然楽しくなってきたぞ。岸野もすごく強いし、異世界探検は楽しめそうだ。
「でも姫って、やっぱりすごいな。めっちゃ強ぇじゃないか」
「いや……えっと……」
俺の言葉を聞いて、なぜか姫騎士さまは急に顔をこわばらせた。どうしたんだろ?
「勇士くんってホントは、可愛らしいタイプの女の子が好きなんだよね?」
「えっ? なんでそれを知ってんの?」
ちょっとびっくりした。俺がぽかんとしていたら、岸野は言おうかどうしようか迷ったあとに、意を決したように口を開いた。
「前に教室で、勇士くんがそう言ってるのを聞いたから……」
「あ、そうなんだ。聞かれてたのか」
「うん。やっぱりそうなんだよね……」
「ま、まあね。だけど今日の凛々しい姫もなかなか……」
なかなか良かったよって言おうとした俺を制するように、岸野はにっこりと笑って明るい声を出した。
「あ、そうだ勇士くん! 私、これからもっと可愛くなるからねっ!」
俺の前で凛々しい姿を見せたことを、岸野は後悔しているように見える。
夢の中ではいつも、可愛い姿を俺に見せようとがんばっていたのかもしれない。
岸野ってなんていじらしいんだよ……って思ったら、ますます可愛く思えてきた。
「いや姫。大丈夫だよ。今日の姫はカッコ可愛かったよ」
「あ、えっと……うん、ありがと」
確かに今まで学校で見たような堅ぶつな岸野は付き合いづらいけど、今日の強くて美しい姫騎士さまは悪くない。本気でそう思う。
だけど岸野の落ち込んだ表情を見ると、俺の言葉を完全には信じちゃいないようだ。やっぱり、もっと可愛い女の子でいたいって気持ちが強いんだろう。
確かに今まで夢の中での姫騎士さまはすっごく可愛いキャラだったし、俺もそれを気に入ってるもんなぁ。
「まあとにかく姫。せっかくの異世界だ。他にもどこかに行って、モンスター討伐しようか」
「そ、そうだね……」
うーん……やっぱり岸野はちょっと気が乗らない雰囲気だな。
強い姫騎士さまもホントにカッコ良くていいと思うんだけど……可愛い自分を見せたいっていう乙女心も、それはそれで可愛いよな。実際にこんなに可愛い見た目なんだし。
──そんなことを考えていたところで、パチンと目が覚めた。
あ、もう朝か。
それにしてもなかなか楽しい夢だった。
だけど本物の姫騎士さまもこの体験をしているんだよな。
今日、学校でどんな顔をして岸野に会ったらいいのか、少し恥ずかしいな。
そんなことを思いながら、俺は学校に行く準備をした。
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