マリーの告白

小鈴なお 🎏

「ぐ、だー」

 げんな顔をしたに向かって元気よくもう一回。

「ぐ、だーっ!」

 朝はいつも二人で登校する。

「おはよ、さき。なんなのそれ」

あいさつだよ。こんにちは、って意味。知らないでしょ。昨日動画見てたらさ、ノルウェー語でこんにちはのこと「グ・ダー」って言うんだって。いいじゃん、これ! 佳代も使っていいよ」

「やだよ」

「ぐだ~。めっちゃかったるそうでしょ! これ絶対る。流行らせよう」

がんってね。かげながらおうえんする」

 おしりをかきながら、めんどうくさそうに佳代が返事をする。


 もう3月も終わる。

 開花がおくれていた桜もようやくき始めた。

 今日はしゆうりようしきだ。

 は小学生の時からつるんでいる相棒だ。中学に進んだこの1年でにょきにょきと背がびた佳代は、私より頭ひとつ分大きい。どうたいきで足だけ長くなって、すっかり美人さんになってしまった。

 それなのに私、とうさきはちんちくりんのまま。正直うらやましい。

 

「それで、なにそのでかいの」

 かたにかけた私のバッグを指さす。

 ふふん、気付いてしまったか。

「秘密兵器!」

 しゅぴーん。私はあごの下で親指と人差し指を直角にする。

「なんじゃそりゃ」

「聞きたい?」

「別に」

 この場合の「聞きたい?」は「聞いてしい」って意味だ。佳代がつれない。

「聞いてよー」

「じゃあ、ひゃくまんえんちょうだい」

「出たよ、佳代のおやギャグ」

 佳代はオトナっぽいボディを手に入れたのとえに、オヤジ化が進行してしまった。見た目がすっかり「じよーん」としてきた分ギャップがひどい。

「う。まあいいや、話してみ」

 それでよろしい。

 私は今日、一世一代のかくを持って学校に向かうのだ。 

「学年変わったら、クラスえあるじゃん?」

 そうだね、とうなずいてからなみだぐんで私の手を取る佳代。

「咲、今までありがとう。はなればなれになってもずっと友達だよ!」

「うん! 絶対手紙書くからっ!」

 とりあえず二人でしばをうち、ワンテンポ置いてから素にもどり、佳代が続ける。

「それで?」

「区切りつけようかなって。私、よしくんのこと好きでしょ?」

 もうこの話は何度したか覚えていない。

「大好きだね。ほんとに吉田くんが良いんだよね?」

「またそれ。いいじゃん吉田くん。背高いし、話しやすいし。か、かかかっこいいし」

 佳代がまゆをハの字にして首をかたむける。

「そのしようるいあわれむ顔やめて」

「いや、咲と好みがかぶらなくてよかったなって」

 まあね。

 私もそう思う。

「同じ人を好きになって、佳代を悲しませたりしたくないしね」

「ちょま、なんでわたしが負ける前提なの! で?」

「まあ吉田くんもほら、そこそこ私のこと気にはなってると思うんだよね」

 佳代は満面のみをかべたまま、無言。

 ……なんか言え。

「吉田くん、少しぐらいは私のこと好きだよね?」

 流されそうになったのでもう一度たずねる。

「――まあそうね、脈はないこともないような気もしないでもないんじゃない? あ、たんぽぽ」

 すな。

「でね、昨日吉田くんと竹下くんが話してるの聞いちゃってさ」

 理科室とか技術室とかの特別教室が並ぶろうで、そうの時に。

「ほう。なんて?」

 竹下くんの声で現場を再現する。

「『お~まえ、佐藤さんと付き合わないの?』って」

 竹下くんって話し始めがちょっと伸びるんだよね。

「ぶはっ! 似てるなっ!」

「ちょっと佳代! それなし!」

 がにまたでひざたたいてばくしようする佳代にダメ出し。

 これでも、自分がおっさんくさいのを佳代は気にしている。今のはアウトだったよ、って時はてきするのが私たちのルールだ。

「それで?」

「吉田くんは『どうかなぁ』、って」

 今度は吉田くんの声真似。吉田くんって話し終わり、鼻からけたかんじになる。あれぇ、ほんとぉ、好きぃ。

「吉田くんの真似はあんまり似てない」

 ちぇ。

「『さ~とうさんわいいと思うけどな。じゃあどういう子がいいんだよ』」

「おお、めてくれたんだ。でも竹下くんしゆ悪いな」

「なんでよ!」

 本当にそう言ってくれたのだよ。竹下くんまじイケメン。吉田くんの次に。

「続けるよ、『見ててきない人かなぁ』だってさ」

「ふーん」

「反応うすいよ。せつかく吉田くんの秘密があばかれたってのに」

「いやいや。たりさわりのない答えを返しただけでしょ」

 分かってないなぁ。

 人差し指を左右にって解説を加える。

「つまり竹下くんと吉田くんの話を合わせるとね」

「うん」

「『佐藤咲は可愛いけどおしとやか過ぎる』ってことになるんじゃないかな」

 佳代がぴたっと歩くのをやめて私の顔をながめる。

「ちょま、おかしいって。だれがおしとやかだって? だいたい可愛いって言ってくれたのは吉田くんじゃなくて竹下くんなんでしょ?」

「混ぜてみた」

「都合よく混ぜるな!」

 景気よく私にツッコミを入れた佳代があわてて口を手でふさぐ。

 だいじようだよ、今のはなんとかセーフ。なしよりだけど。

「だからさ、ちょっと個性をアピールしていきたいな、って。佳代にも協力して欲しいんだ」

「協力?」

「学校終わったらさ、吉田くん引き留めておいてよ。教室に他の人がいなくなるまで」

 しょっちゅう吉田くんの名前を出しているから佳代はあまくみているが、吉田くんのことが好きなのはネタじゃなくて本当。

「告るの?」

「うん」

 今日の荷物はそのためのものだ。

「分かった、時間かせいで吉田くんだけにすればいいのね」

「たっく!」

「たっく?」

「ノルウェー語でありがとう、って意味なんだって」

「それ、本当に合ってるの? わたしが分からないと思ってテキトーなこと言ってない?」

 いぶかしむ佳代といつしよに、校門をくぐる。


 修りよう式は少し長かった。ひようしようだとか、にんする先生の挨拶だとか。

 それでも、私の告白タイムは刻々と近づいていく。

 吉田くん、好きな人いないといいな。

 私以外にも吉田くんねらってる人っているのかな。いるんだろうな……。

 教室に戻り、帰りの会も終わって学校はおしまい。クラスメイトが教室を離れていく。

 たのんだおいたとおり、佳代は吉田くんの相手をしてくれている。

 私は荷物をかかえてトイレへ行き、準備を済ませる。

 教室の前に戻って中をのぞき、吉田くんと佳代の二人だけなのをかくにん

 よしいくぞ。

 ドアをずばーん、と開けていつぱい声を張る。


「あらしよみんたち! まだ残ってらしたのね、おーほっほっほっ」

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