圭吾さんのつぶやき3

君のあだ名は天然タラシ女子で決定だ。






「圭吾さん、不動産屋さんに行ってパンフレットもらってきたよ。」


木枯らしがふきすさぶ12月。ともみお手製のロールキャベツを頬張っているところで、ともみがそんな話を始めた。こんなに寒い日は、ロールキャベツのぬくもりがからだに染み渡る。


「もう行ったの?」


ともみと結婚して8ヶ月。今までは俺が一人暮らししていた家で生活をしていたけれど、新しい家に引っ越しをしないかという話をつい昨日したばかりだった。


「昨日、引っ越しの話が出てから、もう新しいお家のことしか考えられなくなっちゃって、会社帰りに不動産屋さんによって、内見の申し込みまでしてきちゃった。」


ロールキャベツをつつきながら、楽しそうに話すともみ。なんでこんなに無邪気で可愛いんだろう。


「もう内見まで申し込んできたの?」

「うん。今週の日曜日に予約してきたよ。一緒にいける?」

「ああ。日曜日なら大丈夫。」


先月は休日出勤が続いていたために、ともみに寂しい想いをさせてしまったから、今月は休日出勤にならないようにしていた。


「よかった。それでね。これが内見を申し込んできた家のパンフレット。どれがいいのか決められなかったから、ざっと5件申し込んできたよ。」

「5件も?」

「うん。だって、見てみないと分からないじゃない?」

「まあ、それはそうだけど。」


ともみに渡されたパンフレットをパラパラと捲る。2LDKから4LDKまでバリエーションが豊富だ。


「ふうん。部屋数でいうとやっぱ、3LDKか4LDKかな。子供が生まれたら部屋数が必要になるし。」

「やっぱりそう?お家賃の相談もしなきゃだから、とりあえずで持ってきたけど。」


これから引っ越しをするなら、将来のことを見越さなければならない。


「まあ、内見したからって家を決めなきゃいけないわけじゃないし。」

「そうそう。とりあえず、これから引っ越しをするのにイメージがあった方が良いと思って。すぐに引っ越すわけじゃないから。」


終始、ニコニコとした表情のともみ。おそらく、色々な家の間取りをみてきたのが楽しかったのだろう。


「このお家も愛着あるんだけどね。圭吾さんと同棲を始めた家だから。だけど、子どもが増えたら狭くなっちゃうもんね。」

「そうだなあ。」


今住んでいる家は、俺が一人暮らしをしていた家だから、部屋数が2部屋しかない。


「タイミング的には、引っ越すなら春だよねえ。」

「そうだな。その方が、キリもいいし。」

「うん。結婚して1年にもなるし、その方がいいよね。」


そっか。春には、結婚して1年になるのか。


「子どもができる前には引っ越ししようか。ともみのからだがつらくないように。」

「そうだねえ。でもそんな都合よくいくかな?」

「コウノトリさん次第だな。」






日曜日、通常の休日よりも早起きして、ともみと一緒に不動産屋へと向かった。


「宮本様ですね。お待ちしておりました。」

「この間は色々とお話を聞いてくださってありがとうございました。」

「とんでもないです。本日ご案内を担当させていただきます。羽柴と申します。」


羽柴と名乗ったその男性は、俺に名刺を渡した。俺より年下に見えるから、年齢は20代後半のようだ。さきほどからチラチラと俺の方を見ていたから、俺がともみにとってどういう存在なのか気になるらしい。


「ともみ、行こうか。」

「わ。」


だから俺は、わざとともみの腰を抱いて歩き出す。きっと、内見の予約時にともみが一人で来店したから、目をつけられてしまったのだろう。そしてやっぱり、ともみはそのことに気づいていない。


「……どうぞ。」

「ありがとうございます。」


羽柴さんが社用車の扉を開けてくれ、それにともみと二人で後部座席に乗り込む。


「ではまず、2LDKの方から行きますね。」


ゆっくりと車が動き出した。


「ご結婚されるんですか?」


羽柴さんはチラチラとバッグミラーで、後部座席のこちらを見ている。


「実はもう結婚してるんですよ。それでそろそろ二人で住んでいる家を引っ越ししたいねっていう話になって。ね、圭吾さん。」

「ああ。」

「そうなんですか。奥様がいらっしゃったときに、大人の家族4人が住めるような家を探していてと仰っていたので、てっきり独身かと思っていました。」


羽柴さんのその言葉を聞いて、俺は目を細めてともみの顔を見た。俺のその表情に、分かりやすく焦り始めるともみ。


「それは、その。将来、2人の子どもができて、中学生くらいになったら自分の部屋を持ちたくなるかなって。」


ともみは頬を赤らめて、肩をすぼめながら答えた。なんて可愛い仕草だ。……じゃなくて。


「そんな先のことまで考えていたのか?」

「だって。引っ越しってあんまり好きじゃない。圭吾さんはどうか知らないけど、荷物まとめたり愛着わいた家を手離したり大変じゃない。」


ともみのその言葉で将来のことを考えてみた。俺としては、今回の引っ越しはもっと結婚した感じを出したかったし、子どもが一人増えたら狭くなってしまうからっていう上での提案だったのだけれど。


5年後10年後にまた引っ越しをしようって考えたら、子どもが何人いるかは分からないけれど、夫婦の荷物だけじゃなくて、それなりにたくさんの荷物が増えている。


そうすると、今引っ越しをするときに、ある程度の年数を考えた引っ越しをしておくのも一つの手なのかもしれない。


「まずはここですね。」


俺が考え込んでいる間に、2LDKの家へと着いた。


「わあ、素敵。」


外観から非常にスタイリッシュなマンションだった。3階建てのマンションで、全面に白を基調とした家だ。


「おや。内見ですか。」


マンションの周りに造ってある花壇に、水まきをしている初老の男性から声をかけられた。


「オーナーさんです。お隣のお家に住んであるので、いつも花壇の手入れをしてくださっているんですよ。」


羽柴さんがその初老の男性を紹介してくれた。


「今日はお部屋を見せてもらいにきました。」


ともみは、オーナーさんに向かって、礼儀正しく挨拶をする。


「あらら。可愛い奥様ですね。」


目尻に皺を寄せて、彼は俺たちに笑顔を向けてくれる。


「ああ、そうだ。ちょっと待っていて。」


初老の男性は、マンションの隣に立っていた門構えの大きな家へと入っていった。


「……柚ちゃんのお家に似てる。」

「……地主さんだな。」


数分後、初老の男性は、ともみにスーパーのビニール袋を渡した。


「これ、うちの畑でとれたやつなんだけど、うちでは余っちゃってね。よかったら、食べてくれないか?」


初老の男性から受け取った袋の中身をみてみると、大きな白菜が入っていた。


「いいんですか?こんな丸々1個を2つも。」

「いいんだよ。余っているんだから。」

「すみません、ありがとうございます。嬉しいです。今日はお鍋にしようかなって思っていたので。」

「そうか。美味しい料理をご主人につくってげてな。」

「はい。では、内見させていただきますね。」

「ゆっくりどうぞ。」


初老の男性に二人でお礼を言い、羽柴さんの案内で部屋へと入る。外見と同じように、室内も真っ白の部屋だった。


「わあ。床まで真っ白。」


壁も床も一面真っ白。


「マリン調が似合いそうな部屋だなあ。」


ブルーのカーテンにすると、よく映えそうだ。


「そうだね。素敵。」

「こちらの洋室にはウォークインクローゼットもついているので、収納もばっちりですよ。」


部屋は10畳と6畳の洋室が2つ。そのうちの10畳の方にウォークインクローゼットがついていた。


「こちらが主寝室という感じですか?」

「そうですね。キングサイズのベッドを置いても遜色ないのではないでしょうか。」

「そうですね。どうかな、圭吾さん?」

「ああ。まあ、他の家もみてみないとなんとも言えないけど。」

「そうだね。でも2LDKでも十分広いんだねえ。」


この家はリビングが15畳あるから2人で住むには十分だし、子どもが増えても数年は住めるだろうっていう感じの家だ。


「では、次の家も見に行きますか。」

「はい。」


羽柴さんとニコニコと会話を続けるともみを見て、そんなに笑顔を向けるなよ、なんて思ってしまう。先ほどの初老といい、それがともみの良いところであるとは分かっているけれど、あまりに俺以外の男性に優しくされているのを見るとイライラしてしまう。


俺たちが内見を予約した物件は5件あるため、1つ目の物件は足早に見て、次の物件へと移動した。


「次の物件はここですね。」


1つ目の物件から車を走らせること1分、あまり遠くないところにあった。


「わあ、素敵。」


2件目の物件は、3LDKの物件だった。この物件はデザイナーズとかそういうものではなく、ごく一般的な3LDKのマンションの一室という感じだ。


「圭吾さん、景色が綺麗だよ。」

「……ああ、そうだな。」


ひとつだけこの物件の特徴があるとしたら、リビングに大きな窓があることだ。床から天井までの大きな窓、そしてここは地上20階。


「高台だから、夜景とか綺麗なんでしょうねえ。」

「そうなんですよ。僕も内見したとき、この窓の魅力にとりつかれまして!」


ともみと羽柴さんは、きゃあきゃあとはしゃぎながら、窓の近くに行って景色を眺めている。俺は、リビングの入り口から一歩も動けない。


「圭吾さん、どうしたの?景色綺麗だよ?」

「……ああ、そうだな。」


実を言うと、高いところは苦手ではないが、足元が不安定な感じのする高いところは苦手だ。マンションだから、足元が不安定ということはないが、足元から下が見えてしまうような窓が苦手だ。


だから、高層のマンションであっても、ベランダがあったり全面窓でなかったりして、地上が足元から見えるようでなければ平気なのだ。


「……。」


ともみは、こちらを怪しむような眼で見ている。しかし、ともみはおろか、ともみのことを気になっている羽柴に俺の弱点を知られるわけにはいかない。


「……景色綺麗だけど、実際に住むとなると落ち着かなさそうだなあ。」


さきほどまではしゃいでいたはずなのに、ともみの声のトーンは急に落ちた。


「そうですか?僕はこういう開放感がある方が落ち着きそうだなって思うんですけどね。とてもおすすめですよ。」

「まあ、好きな方はそうかもしれませんね。」


30分くらいで室内をみてまわって、2件目の家を後にする。


「じゃあ、次の家に向かいましょうか。」


羽柴さんに誘導されながら、エレベーターに乗り込もうとしたとき、ともみが俺のコートの裾を引っ張った。


「どうした?」

「ごめんね。苦手だったんでしょ。」


羽柴さんに聞こえないように、耳打ちするともみ。


「ん?」

「全面の窓。知らなかった。」


ともみにはなんでもお見通しらしい。


「……まあ、得意ではない。」


だけど、男のプライドとして少しだけ意地を張った答え方をしてしまう。


「ふふっ。そっか。」


ともみがふいうちで幸せそうな笑顔をこぼすから、胸の奥がうずうずする。ともみと結婚してよかったなとこういうときに感じる。


「行くぞ。」

「うん。」


ともみの背中に軽く手を当て、エレベーターで待つ羽柴さんのところに向かった。


「こちらで最後となりますね。」


3件目と4件目をそれぞれみてまわり、ようやく5件目へとたどり着いた。5件目の家は、4LDKの一軒家だった。


「家族が住む一軒家って感じですね。」


家のまわりには、大家さんが手入れしているのか、草花が綺麗に植えられている。


「裏にはちょっとしたお庭もあるんですよ。後でみましょうか。」


そんな話をしていると、その家の玄関から60代くらいの女性が出てきた。気立てがよさそうで、いわゆるどこにでもいそうなおばちゃんという感じだ。


「あらまあ。もう来られたんですね。今日は少し寒いから、暖房を入れたばかりなので、まだ寒いかも。」

「どうもすみません。こちら、大家さんの中野さんです。このお家は珍しく、大家さんがすべて管理されているんですよ。」


羽柴さんの紹介で、その方が大家さんだということを知る。


「こんにちは。」

「今日は内見させていただきます。」

「新婚さんかしら?今日はゆっくり見て行ってくださいね。では、私はこれで。」


玄関に入ると、3人分のスリッパがきっちりと並べられていて用意されていた。


「圭吾さん、ちょっと待っていて。」

「ん?」


ともみは何かを思い出したように、大家さんの中野さんのところに駆けていく。


「あの。これ、良かったら1つどうぞ。」

「え?」

「もらいものの白菜なんですけど、うちじゃ食べきれなくて。」

「あらまあ。いいの?」

「ええ。今日は寒いので、温かいお夕飯にでも使ってください。」

「悪いねえ。ありがとう。」

「いいえ。それにしても、綺麗なおうちですね。お手入れが行き届いていて。思い出のあるお家なんですか?」


ともみはさりげなく、大家さんと話を始めた。


「……思い出というか。お姑さんと暮らしたくて建てた家だったんだけど、家が完成する前にお姑さんが亡くなっちゃって。いいお姑さんだったの。」

「そうだったんですか。中野さんたちは住まないんですか?」

「ありがたいことに、この近くの息子夫婦の家にお世話になっているのよ。だから、私は住まなくてよくて。でも、誰も住んでいないと家って傷んじゃうでしょう。だから、賃貸に出しているの。誰かの思い出の家にしてほしくて。」


大家さんの中野さんは、顔を綻ばせながらともみと会話をしてくれている。


「そうだったんですね。今日は大切なお家を見させていただいて、ありがとうございます。」

「いいえ。ゆっくりしていってくださいね。白菜もありがとうございます。では私はこれで。」


中野さんがそういうと、2人は会釈をしあい、ともみは俺のところに戻ってきた。


「素敵な話だな。」

「聞いてたの?」

「聞こえたんだよ。」


お姑さんのことが大好きだったというような気持が、中野さんから手に取るように伝わってきた。


「お家って、色々な想いがつまってるんだね。」

「そうだな。」


5件目の家を見て回り、不動産屋さんの店舗へと帰り着く。


「今日はどうもありがとうございました。」

「いえ。」

「とりあえず、また話し合ってどこにするかご連絡させていただきたいと思います。」

「分かりました。ただ、もしかしたら先に家が借りられてしまうかもしれないので、その時はご了承ください。」

「はい。では、今日はありがとうございました。」

「またお待ちしております。ありがとうございました。」


店舗で羽柴さんに挨拶し、俺とともみは帰路についた。


「どの家がよかった?」


家に帰ると、もう一度二人でパンフレットを並べて思い出してみる。


「……全面窓の家はなしだな。」

「クスッ。分かってるよ。私は、最後の家がよかったなあって思うんだけどなあ。」


ともみが気に入ったらしいのは、中野さんの家。俺も、この中だったら、ああいう家に住みたいなあって思った。


「……考えたんだけどさ。賃貸じゃなくて、家を建てるのはどう?」

「え?!」

「中野さんの家みたいに、俺たちも俺たち家族のエピソードのある家をつくりたいなって思った。」

「圭吾さん……。」


俺も中野さんの家を気に入ったから、中野さんの家がいいかなって思ってはいた。だけど、それは中野さん家のエピソードにすぎない。俺とともみは、俺とともみらしいエピソードを、俺たちの家でつくっていきたいなって思ったのだ。


「……そうだね。そうしよう。家を建てよう。」

「ありがとう。引っ越しは頭金が溜まってからになるけれど、それでもいい?」

「いいよ。今すぐ引っ越さなきゃいけないわけじゃないし。」

「ともみ。」

「圭吾さん。」


俺たちはどちらともなく、唇を寄せ合った。そして、ともみの洋服の裾に手を伸ばす。


「ん。今日はダメ。」

「なんで?もう女の子の日終わりじゃないの?」

「今日までは念のためダメ。明日にしよ?」


ともみの言い方があまりにも可愛いすぎるので、明日にしてもいいかなって思った。


「分かった。その変わり、明日は覚悟しろよ?」

「えー?どうせいつも優しいじゃない。」


だって大切な君に優しくできない自分は嫌いだから。






その次の日、俺は急いで仕事を終わらせた。いつもなら仕事を早く終わらせても帰宅は20時になってしまうところを、19時30分に家の玄関につくようにかえってきた。


なぜなら、昨日はお預けをくらってしまったからだ。今日はゆっくりたっぷりともみを愛したいのだ。


「わー!美味しそうー!」

「そうでしょう。」

「……。」


嬉々として玄関を開けると、キッチンの方から楽しそうな声が聞こえる。どうやら、女性の来客らしい。ともみは俺の帰宅に気付いていないようだ。


「ただいまー。」


そう声をかけながらリビングに入ると、キッチンには驚くべき人物が立っていた。


「あ。おかえりなさい、圭吾さん。」

「お邪魔してます。」

「え?中野さん?」


ともみと一緒に我が家のキッチンに立っていたのは、中野さんだった。


「スーパーで中野さんに会ったの。そしたら、今日の夕ご飯は一人で食べるんだって話聞いちゃったから誘ったの。」

「すみません、突然お邪魔して。」

「いいえ。楽しくなるから僕も嬉しいですよ。」

「昨日いただいた白菜の色々なアレンジをしてたの。中野さん、料理上手でびっくり。」

「そんな、料理上手じゃないのよ。年齢を重ねてるだけよ。」

「そんなことないですよ。上手です。私のレパートリーも増えて嬉しいです。」

「よかったな。それじゃ、ちょっと着替えてきます。」


2人に声をかけて、寝室へと入り、ベッドにこしかける。


「はあ。」


すると、盛大な溜息がもれた。いや、嬉しい。中野さんにまた会えて俺だって嬉しい。だけど、今日じゃなくても……。


一人頭を抱えてうなだれていると、寝室のドアをノックする音が聞こえた。


「圭吾さん。」

「……ん?」


ともみの方を見ずに返答をする。


「ごめんね、今日はラブラブしようって言ってたのに。」

「……別にいいよ。」


ともみは俺のからだを大きく抱きしめる。


「中野さんを送り届けたら、いっぱいラブラブしよう?」


ともみはそういうと、俺の右耳にキスを落とした。


……この意地悪妻は。


「きゃっ。」


俺はともみの腕をひいて、俺と対面になる形で、ともみを俺の膝の上に乗せた。


「呼吸ができないくらい愛してやるからな。」

「うんっ。」


軽くともみの唇にキスをする。これくらいで機嫌を直してしまう俺は、そうとうともみにたらしこまれている。


「早くいこ。中野さん待ってる。」

「ああ。先に行ってて。」

「うん。」


ぎゅっときつく抱きしめてから、ともみを膝の上からおろす。部屋着に着替えてリビングに戻ると、ともみと中野さんが楽しそうに配膳してくれていた。


「すみません、支度までしてもらって。」


キッチンへと入り、俺も配膳をする。


「いいえ。私には娘がいないから、ともみちゃんが娘のように接してくれるから嬉しいんです。」


昨日、出会ったばかりの人に、こんなことを言わせるなんて、ともみのたらし技術にただただ驚く。これで計算してないんだもんな。ていうか、計算していたらこんなに好かれないか。


「私も中野さんのお人柄が大好きです。」

「あらあら、まあまあ。」

「……。」


恥ずかしげもなく、大好きとか言えちゃうともみをじっと見つめる。……よし、君のあだ名は天然タラシ女子で決定だ。天然タラシだから、危なげあるけれど、色々な人と仲良くなることができるのは、うちの奥さんの長所として認めることにしよう。


「いただきます。」

「いただきます。」

「いただきます。」


今夜は彼女を寝かさないということを、心から誓った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る