第3章 女子会

「フランス料理屋?」


今日の夜ご飯であるオムライスとシーフードサラダ、コンソメスープを食べながら、圭吾さんに谷口先輩のご実家の話をした。


「そう。圭吾さん、知ってた?」

「まぁチラッと聞いたことはあったが。あの店が、谷口さんの実家だったんだな。」

「そうなの!すっごい美味しかったの!今度圭吾さんと一緒に行きたいって思っちゃった。」

「ふっ。そっか。」


柔らかい笑みを零す圭吾さん。これは3キュンです。


「あ、それと。」

「ん?」

「今週の金曜日に柚ちゃん家に泊まりに行くことになったの。」

「分かった。会社帰りに泊まってくるの?1泊?」

「もちろん1泊だよ。」

「そっか。それなら日曜は空けといてよ。俺の実家に行くから。」

「圭吾さんのご実家?」

「ああ。お盆に俺ら、お互いにそれぞれの実家に帰っただろ?だから、ともみを連れて来いって母さんが五月蝿いんだよ。」


なんて嬉しいご招待だろう。


「分かった。日曜、空けておくよ。というか、日曜は圭吾さんと過ごす気マンマンだったからね。」

「ふっ。じゃあ、決まりだな。金曜の夜は、遊びすぎて寝不足になったりするんじゃないぞ。」

「美香が分からない。」

「ははっ。」


金曜の夜は柚ちゃん家で、日曜日は圭吾さんのご実家かあ。今週末はハードスケジュールだけど楽しみだな。






そんなこんなで、1日の進むスピードは恐ろしく速く、あっという間に金曜日になった。社会人になってから、時間のスピード変わっちゃったんじゃないかって思う。


「「「お疲れ様でしたぁ。」」」


仕事を終えると、私達は3人で会社を出た。


「柚ちゃん家、楽しみ~。」


1人暮らしを始めてから、友達の家に泊まりに行くってことが中々無かったから、結構ワクワクしている。


「ちゃんとお泊りセット持ってきた?」

「もちろん!」

「ふふっ。じゃあ、行きましょうか。」



駅に着くと、切符を買って電車に乗り込む。


「満員電車、久しぶり。」


1人暮らしの頃は電車通勤だったけれど、今は必要無いから電車に乗ること事態が久しぶりだ。


「あ~。今、ノロケましたねぇ。私、毎日満員電車で大変なんですからねぇ。」

「ほんと。これだからリア充の奴は。」

「え!ちょっと待ってよ!ノロケじゃないじゃん!」


2人にからかわれながら、電車に揺られること約10分。降りる駅に到着した。


「とりあえずスーパー寄りますよね?」


駅前にあるスーパーに寄って、買い物をする。私は食材中心、美香はお酒中心、柚ちゃんはお菓子中心だ。


「ちょっと美香、それ高いヤツじゃん!」

「いいじゃんいいじゃん。3人で割り勘だよ。」

「ちょっと三枝先輩~。」


美香が鹿児島の銘酒に手を出してきたときは、吃驚した。それでも、和気あいあいと言いながら楽しく買い物を済ませた。そして、いざ柚ちゃん家に初御宅訪問!


「な、なにこれ……。」


ある程度予想をつけて来ていた。というか、自分の中では結構ハードルを上げて来たつもりだった。


「ご遠慮なく~。」


柚ちゃんの邸宅は、私のハードルを大きく上回ってきた。


「これが柚ちゃん家?!」

「私も初めて来たときは、かなり吃驚したよ。」

「敷地が広いだけなんです。」


敷地が広いってそういうレベルじゃないんですけど!そして、何坪あるのか考えたくない!


柚ちゃん家は、高級住宅街に立地していた。高級住宅街だけあって、他のご近所さんの家もそれなりに大きいけど、柚ちゃん家はその中でも桁外れである。


「ご、ご家族の方にご挨拶しなくても、大丈夫?」


こんな生きているうちに足も踏み入れないようなお宅に居ることに焦る。どうしよう!銘菓でも買って来た方が、良かったんじゃなかろうか!私が買えるくらいの銘菓じゃお眼鏡にかなわないかもしれないけれど!


「大丈夫ですよ。会社の先輩が来るって言ってありますし、離れで騒いでも母屋には聞こえませんし。」


母屋に聞こえないって、防音設備がいいの?それとも、離れっていうだけあって離れているの?


「……じゃあ、お、お邪魔します。」


私はそろりそろりと、柚ちゃん家の敷地に入る門を潜った。


「どうぞ~。」


柚ちゃんは、いたって普通である。こんなに広いお家、絶対にただの地主じゃないよ!


「うわぁ。」


門を潜って風情漂うお庭を歩くと、可愛い離れのような建物が見えた。


「あれが私の住んでいる離れです。」


柚ちゃんの離れはとっても可愛らしくて、まるでドイツの可愛いお家のようだった。


「可愛いね。」


女の子なら、誰もが一度は憧れるような建物だ。私の離れの想像を超えて、普通の一軒屋なんですけど。


「ふふ。私の好みに建て直してもらったんです。」

「いいね。私もこんなお家に住んでみたい。」

「だけど、宮本課長がこんなメルヘンチックな家に住むの、想像できないよね。」

「うん。まぁ、確かに。」


 私が苦笑いをすると、美香も柚ちゃんも苦笑いをした。みんな、圭吾さんがメルヘンチックな空間に居るのを想像したのだろう。


「さあ、どうぞ。」

「お邪魔しまぁす。」


柚ちゃんが玄関を開けてくれて中に入ると、メルヘンチックはさらに極まっていた。


「か、可愛い。」


私、こういうの大好き!


「おとぎ話みたいでしょ?」


えへへっと柚ちゃんが笑う。きっと柚ちゃんにとっても、自慢のお部屋なんだな、と思った。柚ちゃんのお部屋を見て、谷口先輩のご実家のレストランを思い出した。ひょっとしたら、柚ちゃんも谷口先輩のご実家のレストランを気に入るかもしれないな。


「じゃあ私、早速料理にとりかかるね。」


持ってきた荷物を置かせてもらった後、すぐに料理の準備へととりかかる。みんな、仕事終わりでお腹ペコペコだもんね。ジャケットの上着を脱いで、持参したエプロンを着ける。


「じゃあ私は一杯開けちゃおうかなぁ。」


美香は早速お酒に手をつけようとする。


「美香。先にシャワー借りちゃいなよ。お酒飲む前に。いい?柚ちゃん。」


美香が酔っ払ったら、絶対にお風呂に入らない。だから私は真っ先に、シャワーに入るように提案した。


「あ、はい。大丈夫です。あ!じゃあ、湯船にお湯張って来ますね。最近仕入れた入浴剤があるんです。」

「ごめんね、柚ちゃん。なにからなにまでありがとう。」


シャワーだけでいいって思っていたけど、湯船まで張ってくれるなんて。


私が料理を作っている間に美香はお風呂に入って、柚ちゃんはお菓子の準備をしてくれた。柚ちゃんは、お菓子作りが得意らしく、デザートまで作ってくれた。


「柚ちゃん、普段からやってる手付きだね。」

「離れって言っても1人暮らしのようなものだから、自炊も多いんですよ。」

「だからこんなにキッチンも整ってるんだぁ。」


私は柚ちゃんのキッチンを見渡した。いいなぁ。私もこんな広くて使いやすいキッチンが、欲しいなぁ。


着々と料理やデザートが完成し、美香がお風呂から上がってきたら、ディナーの開始だ。


「ん!これ、上手い!なにこれ!」

「大島先輩、お料理教室通ったんですか?すごく美味しいです!このローストビーフなんか、絶妙です!」

「よかったぁ。お料理教室に通ったことは無いんだけどね。完全に独学。ローストビーフも短時間でできる方法をネットで検索して覚えたんだよ。」


今日のメニューは、チキンとハムのテリーヌ、とうもろこしの冷たいスープ、サーモンのムニエル、ローストビーフ、カナッペ、そしてお米も食べたくなるから、ピラフを作っておいた。


「こりゃデザートが楽しみだわ。」

「あぁ!三枝先輩、ハードル上げないでくださいよ!」


料理を食べた後は、3人で柚ちゃんの作ってくれたクレープを堪能した。クレープは材料とかもお好みに合わせてシンプルだから、初心者でも取り掛かりやすいんだけど生地が難しい。


「柚ちゃん、生地焼くの上手だよね。」

「そうですか?誰でもできると思うんですけど。」

「ううん。生地の厚さとか絶妙だよ。」

「ありがとうございます。」


「えへへ」と少し照れた柚ちゃんが、とても可愛い。


「後片付けは私がやるから。」


皿洗いは、美香が率先してしてくれた。美香が後片付けをしてくれている間に、私はお風呂に入らせてもらって、柚ちゃんは布団の用意をしてくれていた。そして、お風呂からあがった私がおつまみを作る間に、柚ちゃんがお風呂へと入った。


「思ったんだけどさ。家での宮本課長って、どんな感じなの?」

「あ!それ!私も気になってました!」


リビングでおつまみのアヒージョとお酒を飲みながら寛いでいると、2人にそんな質問をされた。


「どんなって……。」


そんなこと、考えたこともなかった。家での圭吾さんって、どんな感じだろう?改めて考えると、“普通”という二文字しか頭に浮かばない。


「実は赤ちゃん言葉使ったりして。」

「えー!でも聞いてみたいかもー!」


私の返答を待たずに、美香と柚ちゃんの妄想が飛び出した。


「そ、そんなんじゃないし!あんまり変わらないかも。」


強いて言えば、家では“リラックスした圭吾さん”って感じかな?でもそれは、私だけの圭吾さんだから2人には教えてあげない。


「家でも会社みたいな感じの宮本課長とか、かっこよすぎません?そういえば、宮本課長の性癖って、どんなですか?コスプレとか?意外とメイド服とか好きそうですよね。」

「ぶっ。」


危ない。口に含んでいたお酒を、全部飛ばすところだった。


「じょ、冗談止めてよ!」

「あー。まだノーマルしかしたことないんだ。でも男の人って、結構コスプレとか好きだよね。」

「ですよねぇ。」

「2人ともどんな経験をしてきたの!」


ノーマルでも、私はかなり圭吾さんに翻弄されている。それなのに、それ以上のことをされてしまったら、私の身がもたない。


「ともみ、知らないよ。飽きられても。」

「あ、飽きられる?!」

「そうですよ。いつでも新鮮さを求めないと!」

「し、新鮮さ?!」

「今はいいかもしれないけどね。段々マンネリになってくるからね。男だけに頼っちゃダメなのよ。2人の問題なんだから。」


“2人の問題”


その言葉は、私の心に突き刺さった。思い返してみれば、私と圭吾さんのセックスは、圭吾さんに任せっぱなしかもしれない。いつも私だけが圭吾さんに翻弄される。


でも、圭吾さんは?今のままでずっと、満足してくれるの?私の不安を読み取ったのか、美香が素敵な提案をしてくれた。


「よし、じゃあ明日は3人で買い物に行こう!」

「そうですね!宮本課長悩殺アイテムをゲットしちゃいましょう!」

「悩殺アイテム?!」

「そうと決まれば、さっさと寝よう!」


 こうと決めたら行動の早い美香は、大好きなお酒もそこそこにさっさと寝る準備を始めた。私と柚ちゃんもそれにつられて布団に入った。






次の日、3人で大型デパートに向かった。


「エロい水着にしな。」


デパートに着くなり、美香がそんなことを言い出した。


「あ。水着なら今はもう安くなってますし、狙い目かもしれませんね。」


なぜか柚ちゃんも美香の意見にノリノリだ。


「な、なんで水着?!」


海やプールに行く予定もないのに!


「バカねぇ。水着で悩殺できる季節は、今しかないのよ。その口実を使わなくて、どうするの。」

「でも、海とかプールに行く予定なんて無いよ。」

「予定無くても“あなたに見せるために買ったの”とか“来年のために買ったんだけど、どうかなぁ”って着て見せればいいのよ!」


なにそれ!美香ったら、そんなことしたことあるの?!


「宮本課長でも、グッとくると思いますよ。」


ノリノリの2人はぐいぐいと私を水着売り場へと引き連れて行く。そして、そんな2人を止められるはずもない私は、まるで着せ替え人形のように水着の試着をさせられた。






「ただいまぁ。」

「お帰り。遅かったね。」


私が家へと帰りついたのは、夕方だった。


「うん。買い物まで行ったから。」


 私は持っていたショップ袋を軽くあげて、圭吾さんに見せた。


どうしよう……。買っちゃった……。ショップ袋の中には、美香と柚ちゃんオススメの水着が入っている。一応、着るタイミングも教えてもらったけど、それを実行するのが恥ずかしい。


だけど、実行しなきゃこの水着が勿体無いような気もするし、ましてや圭吾さんに水着だけ見つかったら恥ずかしい。


「夜ご飯、作っておいたよ。ともみほど上手じゃないけど。」


色んな事をぐるぐる考えていたら、圭吾さんの優しい声が降り注いだ。


「えっ!作ってくれたの?!」

「まぁ、ね。簡単なものだけど。」


照れくさそうに笑う圭吾さん。きっと私のために作ってくれたんだよね。遊びに行っただけなのに、夜ご飯を作っておいてくれるなんてと、ジーンと心が温まる。


「圭吾さぁん。」


感動して、私は圭吾さんに思い切り抱きついた。


「ふふっ。何か1日会わなかっただけで、久しぶりな感じがするな。」


圭吾さんは優しく私の頭を撫でながら、愛おしそうな声でそう言った。柚ちゃんの家に泊まりに行って、私も感じたことがある。美香と柚ちゃんには申し訳ないけど、やっぱり料理は、圭吾さんのために作ってる時が一番楽しいって思った。


「さ。ご飯、食べてくれる?」

「もちろん!」


リビングに行くと、美味しそうな匂いが漂っていた。すごくワクワクすると同時に、感謝の気持ちが湧き上がる。圭吾さんも毎日、こんな気持ちなのかなって思った。


「どうぞ。」


配膳まで圭吾さんがしてくれた。テーブルに着いているだけでご飯が出てくるなんて、なんて幸せだろうと思う。


「わぁ。」


今日の夜ご飯のメニューは、豚の生姜焼きと、炊き込みご飯、それに味噌汁だった。スタミナメニューだから、食欲をそそられる。夏には持って来いだ。


「男の料理って感じで申し訳ないけど。」

「ううん!すっごく美味しそう!いただきます。」


匂いの誘惑に待ちきれなくて、箸を進める。


「どう?」


不安げな圭吾さん。4キュン!


「すっごく美味しい!」


それはまさに、圭吾さんの愛情たっぷりって感じだ。もちろん味も美味しいのだけれど、それ以上に温かさを感じるものがある。きっと私が帰ってくるのを考えながら、作ってくれたんだね。


「良かった。」


ホッとした圭吾さんも、やっと箸を進める。


「何回も味見して、最後なんか味が分からなくなっちゃった。」


ハハッと笑う圭吾さんが、可愛くて堪らなくなった。……そんな圭吾さんに、お返しをしたくなった。どんな反応をするのかは分からないし、美香の提案がお返しになるのかどうかは分からないけれど、いつもと違う状況もいいのかもしれない。


「圭吾さん。今日買い物したもの、着てみるから、見て欲しいんだけど。」


夜ご飯の後片付けやお風呂も入り終わった後、私は圭吾さんに例の作戦を実行することにした。圭吾さんが喜んでくれますように!


「ん?いいよ。着ておいで。」

「うん。待っててね。」


どうか引かれませんようにと祈りながら、お風呂上りにリビングで寛ぐ圭吾さんを横目に、私は心臓をバクバクさせながら、寝室に行って着替えを行った。そして、鏡に映った自分を見て羞恥心がわいてくる。これって、家で着るとこんなに恥ずかしいものなんだ!


「圭吾さん、着てみたんだけど、どう?」


恥ずかしくて、寝室のドアからそろりそろりとしか、出ることができない。


「ん?……あ?」


私の方を振り向いた圭吾さんは、その瞬間に壊れた機械のようにフリーズしてしまった。


「へ、変かなぁ?」


圭吾さんの反応に、私は慌てる。美香と柚ちゃんが選んでくれたのは、ベースは白のビキニ。胸元の真ん中には、大きくリボンがついてて、ホルダーネック。そして全体的に、ピンクのフリルがあしらわれている。


ちょっと子供っぽいかなぁとは思ったんだけど、美香も柚ちゃんも、逆にエロいからOKとか言い出してこれに決まった。


「……なんで水着?」


やっと声を発した圭吾さんの言葉は、それだった。


「来年、圭吾さんとプールに行くために買ったんだけど、どうかなぁ?今の時期、安くなってるから買っちゃったんだけど。」

「ちょっとこっちに着て、よく見せて。」


そう言われて、圭吾さんが座っているソファに近付く。やっぱり子供っぽかったかなぁ?年齢を考えろ、的な感じ?


「これ、どうなってんの?」


圭吾さんが、腰のサイドのリボンを触る。


「可愛いでしょ?リボンになってるけど、紐パンと一緒だから外れちゃうの。でも大きいから外れる心配は無いかな、と思って。」

「ふーん。ここ座って、もっとよく見せて。」


圭吾さんが指し示したのは、圭吾さんの膝の上だった。


「こ、この格好で?!は、恥ずかしいよ。」


このままでも、よく見えると思うんですけど!


「だめ。もっとよく見たいから、早く。」


そんな風に言われたら拒めなくて、私はおずおすと圭吾さんの膝の上に乗る。


「こ、これでいい?」


圭吾さんに背中を向けて、ちょこんと膝の上に座った。重くないかな?大丈夫かな?


「ふうん。」


圭吾さんはそう言ったかと思うと、つうっと開いた背中をなぞった。


「ひゃぁっ。」


いきなりのことで背中がゾクゾクっと反応して、変な声が出てしまった。


「こんなに背中も開けちゃってさ。どうするの?俺以外の男も、釘付けにする気なの?」


そしてふうっと首筋に、息を吹きかけられた。


「っ。」


耐えた。耐えた、けど。なんかいつもより、すごく感じてしまう。


「ち、違う…っ。圭吾さんに喜んでもらいたかったの。」

「どうせ三枝さんかなんかの提案だろ?」


あれ。しっかりバレてた。


「でも、三枝さんには、後できちんとお礼をしないとな。」


圭吾さんの表情は見えないけれど、口調から口端を楽しそうにあげたのが分かった。


「こんなエロい水着、ともみに買わせてくれてさ。」


腰に手を回されて、水着の布以外のところを圭吾さんの優しい手つきで撫でられる。


「すっごい興奮する。」


耳元で囁かれたその言葉に、自分も興奮しているのが分かった。


「んっ。」


だから内ももを撫でられただけで、すごく反応してしまった。


「ともみ。この水着、家で着る専用な。」


圭吾さんにそう囁かれたのと同時に、ハラッと首の紐が解かれた。そして背中のホックだけが、唯一の支えになる。


「可愛いから、脱がせたくないけど、脱がせたいよね。」


矛盾を口にしながら、楽しそうに私の体を堪能し始める圭吾さん。いつの間にか腰のリボンも解かれていて、圭吾さんの手や指が私の体中を翻弄する。


「ともみ。もっといつもと違う事、してみよ。ここでシちゃおう。」


私の返事も待たずに、本格的に動き始める圭吾さん。


「で、でも。準備、が。」


セックスする時に必要なアレは、ベッドサイドの棚に置いてあるはずだ。


「大丈夫。今日買ってきたヤツ、まだココに置きっぱなしだったから。」


ソファの傍に置いてあった買い物袋を、圭吾さんがゴソゴソと引き上げた。


な!なんて偶然な!


それからは観念して、私も圭吾さんの愛撫に身を委ねた。いつもと違う感覚に、いつも以上に熱くなる体。


「ともみ……っ。」


圭吾さんもいつも以上に興奮しているのが、分かる。


ベッドとは違うソファの音が、ギシギシと音を立てる。そのまま訳が分からなくなるほど抱かれて、体全部で圭吾さんを感じた。





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