第18話 在りし日のこと②
旅館の中をぶらぶらし、壁に飾ってある絵やお土産コーナーを眺めて受付に戻ってみると、ちょうど向こうも仕事を終えたようでこちらへ向かって歩いてきていた。
「お疲れ、宮城……。いや、早苗。」
「いえいえ、こちらこそお待たせしてごめんなさい。」
「なんか距離感感じるんだよー。もっとラフに行こうぜって。」
「久しぶりだからさ、まだ慣れてないんだよー。」
宮城さんがそう言うと、きららも
「そだな。久しぶりだもんな。」
と呟いた。
「で、早苗。突然私の元からいなくなってしまってその後ってどうだったの?」
「きららはどこまで知ってるの?そのあとのこと。」
「あたしが聞いたのは家賃を払えなかったってことが原因でいなくなったってことくらいだな。」
「そうよ。そのあと、私は家族でこの温泉に来たの。」
「家賃も払えないんじゃなかったのか?」
「そうね、私にはそこはよくわからないわ。家族の中も悪かったしね。」
「マジか。それで。」
「いえ、正確にはこの温泉の近くまで来たわ。」
「近くまで?」
「そう、そして捨てられた。」
「え……?酷い……。」
「ま、そうね。」
「辛くないのか!?どうしてそんなに淡々と話すんだよ!」
「だってそれは過去のことだもの。今はそれなりに幸せに暮らせてるからそれでいいと思うわ。」
「そうなの……か?」
「うん。その話には続きがあって、旅館の女将さんが私を拾ってくれたの。旅館で働くことを条件に生活をさせてもらっているわ。」
「女将さんって、あのおばあちゃんみたいな人?」
「きらら!失礼なこと言わない!あの人は私の恩人なのよ!」
「わーったよ……。早苗も大変だったんだな。」
「うん、そうね。今早苗もって言ってたけど、今の言い方だときららも大変だったのかな。きららは今どんなお仕事してるの?」
「え。」
自分に話が向くとは思っておらず、慌てるきらら。
「あたしは、まあそれなりに頑張って生きてるぞ。大変だし精神的に疲れるよ。仕事内容は……サービス系かな。」
次第に声が小さくなり、最後の方はほぼ独り言のようだった。
宮城さんも察してくれたようで、
「そか。いつか気が向いたら教えてね。」
と言った。
「きらら、今日はありがとうね。これ、私の連絡先だから。」
「おう、ありがと。」
そこへ。
「私たちも連絡先ほしいです!」
と彩香。
「うん。ところで二人のお名前は?」
「私は
「
「「二人ともきららをよろしく頼むわね。」」
「任せてください!」
と彩香。
それに対し、
「面倒見てるのはあたしだっての!」
きららはご機嫌斜めな様子。
そんなきららをしり目に、
「おにいさんも一応連絡先交換しときましょうか。」
「ああ、ありがとう。何かあったら連絡するよ。」
「何もなくてもいいんですよ?早苗ちゃんとデートしたいとか。なんてね。」
そう言うと、宮城さんは
「それではみなさんごきげんよう。きらら、今度遊びに行くわ。」
「おう、待ってるからな!早く来いよ!」
急かすな。
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