誰でも簡単にタイムスリップが出来る方法

長野友弘

40年経っても変わらない街並み「門司」

昨年の10月、連日続いていた仕事がキャンセルになり、

私は車で北九州市の門司に行くことを思いついた。

門司は私が生まれ、小学2年生まで過ごした街で、

大人になってからは一度も行ったことが無い。

当時の門司は日本4大工業地帯と呼ばれ栄えた街だった。

私の父も地元の工場で働いていた。


東京から12時間ほど車を走らせ、やっとたどり着き、

駅前の安ホテルにチェックインし、街をぶらついた。

人口が減って行く街だからか、街並みは40年前とさほど変わっていない。

子供の頃、仕事帰りの父を迎えに行った居酒屋「千力」を見つけ、

大きな柱のあるカウンターに座ると

父と並んでジュースを飲んだ事を思い出した。


長距離運転で疲れていたのか、私はすぐに酔いが回り、

酔い覚ましに街を歩いた。

酒は埋もれていた記憶を蘇らせる力があるのだろうか。。。


昔は水路にカニのがいた通学路を歩き、

通っていたエレクトーン教室や、友達のアパートがそのまま残っていたのも見つけた。


そして私は、仲の良かった徳川君の事を思い出した。



幼稚園の時、左の薬指を骨折した事がある。

友達の徳川君と園内の遊技場で遊んでいた時の事故だ。単なる事故だ。

しかし幼いながらに、私の大ケガに幼稚園のざわついた感じが理解できた。

母は先生立ち合いの元、徳川君の母親と話し合い、怒って帰ってきたのを覚えている。


母は帰るなり

「徳川君とは、もう遊んではいけません!」

と私にそう言った。


恐らく、徳川君の家でも同じ事があったのだろう。

その日以来、私と徳川君は幼稚園で会っても、

目を見合わせて笑うだけで、遊ぶことはなくなった。



小学校に入学し、偶然同じクラスになった。

それでも互いの親の影響力はあり、私達はしゃべったり遊ぶ事は無かった。


そんな状態が続いた小学2年生の時、ある出来事が起こった。


私が一人で学校から帰る途中、道路の脇に徳川君が一人でしゃがんでいるのを見つけた。

私に気づいた徳川君は右手で掴んだ物を私に見せ、


「中村君!こんな所にカニがいたよ!」と叫ぶ。


私は久しぶりに徳川君としゃべるのが嬉しくて、一緒にカニ捕りをして遊んだ。

二人で道路の脇のドブに入り、楽しく遊んだ。

回りに、私達をとがめる者は誰もいなかったのだ。


それでも翌日から私達は、学校では目を合わせて笑うだけに戻った。



そして数か月後、こんな事が起こった。


当時の学校の宿題はプリント(テストの様な物)を家に持ち帰り答えを記入し、

翌日、学校に持っていく事が多かった。

私は家で夕飯を食べ、宿題をしようとすると、学校にプリントを忘れた事に気づいた。

母親に近所の阿部君の家にプリントを写させてもらうと告げ、家を出た。

そして阿部君の家に着くと、なんと彼もプリントを忘れていたのだ。


そして私と阿部君は一緒に徳川君の家にい行く事にした。

私が一人で徳川君の家に行くことは出来なかったが、

このような理由があれば、仕方ないのだ。

嬉しい誤算で私は久しぶりの徳川君の家に行った。


夜の19時になっても徳川君の両親は家にいなかった。

きっと共働きだったのだろう。

徳川君にはお兄さんがいて、私達の訪問に気を使ってくれたのか、

私と阿部君のプリントの書き写しをお兄さんがやってくれた。

その間、私達3人はプロレスごっこをして遊んだ。

久しぶりに徳川君と一緒に遊べたのは楽しくて嬉しくて時間が経つのも忘れていた。


20時近くになった頃、私と阿部君は徳川君の家を出た。

遅く家に帰っても母への言い訳はたっぷりあった。

もちろん、徳川君の家に行ったことだけは秘密にした。

阿部君もプリントを忘れていたので、

徳川君の家には仕方なしに行っただけの事なのだ。



その夏、私は父の仕事の都合で広島に転校した。

プリントを忘れたあの夜以来、徳川君とは会っていない。




■誰でも出来るタイムスリップの方法■


1)50歳を過ぎて、幼い頃に住んでた街に戻ってみる。

(帰っていない年数が長いほど効果的)

2)酒を飲み酔っぱらう。

3)街をうろついてみる。

すると色んな記憶が蘇ってきてタイムスリップが可能になります。


たまに現実逃避をしてみたくなるお父様達。

一度、実践してみてください。

とても簡単なタイムスリップのやり方です。

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誰でも簡単にタイムスリップが出来る方法 長野友弘 @nakamuradesu

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