第30話「童貞社畜王のハーレムはまだ始まったばかりだ!」
交戦開始から二時間が経過した。
その間、多少相手の火炎ブレスがかすったり爪の反撃でルリアの鎧の一部が破壊されたりしたが、全員無傷だった。
途中、リオナさん率いる騎馬隊による魔法矢の一斉騎射という援護射撃もうまく成功していた。
さまざまな魔法効果のある魔法矢が数百発分魔怪獣に炸裂するさまは壮観だった。
まるで花火が数百発怪獣に炸裂したという感じで、芸術的ですらあった。
そんな状態でも魔怪獣はブレスを吐いて反撃したが、機動力に優れた騎馬部隊は見事にヒットアンドアウェイを成功させていた。
統制のとれた騎馬隊の動きは、さすがはルルの鍛えた騎馬隊だけある。
そして、リリの内政力で作り出した魔法矢の威力も見事だった。
もちろん、リオナさんの用兵も素晴らしかった。
両国の軍事力と技術力と人材があわさったことで伝説級の魔怪獣といえど完全に防戦一方だった。タフな魔怪獣も今ではだいぶ動きに精彩を欠いている。
こちらの魔法攻撃をくらったあとの反撃動作も遅くなり、魔法ブレスの威力も明らかに落ちてきていた。
対するこちらは、だんだんと戦いに慣れていた。
特に俺の戦いは我ながら驚くほどに上達していた。
ただの社畜だった俺が、空を自由に翔け、魔法を自在に操り、仲間とともに怪獣と渡りあう――。
ほんと、夢のような話だ。
……いや、夢ですらこんな壮大な光景は見なかった。
毎日、アパートと会社の往復をして、いつも沼に沈むようにベッドに倒れ伏し、眠っていたのだ。
ほとんど毎日、夢を見る暇もなかった。
俺の人生には常に金を稼いで生活しなければならないという圧倒的な現実があった。
だが、今は違う。現在の俺には童貞を三十年以上守りとおしてきたことで得られたらしい強大な魔法がある。俺に好意を寄せてくれる女の子たちがいる。
こんなに幸せなことはない。
だからこそ、俺はみんなを、国を、民を、これからも守り続ける――!
思いが強くなるにつれて、身体中に魔法がみなぎっていった。
元社畜童貞であり、なんの取り柄もなかった俺からは考えられない力――。
絶対的な魔力を手に集めていく――!
「みんな、離れろ! ここで決める!」
俺の魔力量の膨大さに驚いた香苗たちは、それぞれ応答をして今いる位置から急速後退していった。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
手負いの魔怪獣は俺に向けて大きく口を開いて襲いかかる。交尾が不可能ならば俺を喰らって体内に取り込んでしまおう――という意思を感じた。
思えば、俺が異世界転生してしまったせいで封印が解かれ暴走てしまった魔獣なわけで申し訳ない気持ちもあるのだが――。
「すまん、俺には待っている女の子たちがいるんだ。それに、この国を守らないといけない。だから――」
俺は両手に集めた、これまでで最も極大の魔力を――大きく開いた魔怪獣の口に向かって一気に放った。
それはまるで、レーザー兵器のような一筋の極大の光となって伸びてゆく。
極大の光は、魔怪獣の口から首を貫通。瞬時に頭部のみならず上半身まで蒸発させていった。
下半身はそのまま前のめりに崩れ落ち、大きな地響きを立てる。
あれだけ強大な魔怪獣も――俺のチート級な魔法には叶わないのだ。
童貞のまま死んだおかげで、これほどの力を得ることができた。
こう考えると、元の世界での人生も無駄ではなかったと思う。
「ミチトくんっ! すごい、すごいよっ!」
まずは一番近くにいた香苗がすっ飛んできて、俺に抱きついてきた。いつもの挙動不審さはどこへやら、俺にキスでもしかねない勢いで抱きしめてくる。
「ミチトさま~、やりましたね~♪」
「本当になんという男なのだ。私の剣を遥かに上回る攻撃力を持つとは!」
ミーヤとルリアも俺のところにやってきて称賛する。
「ぜんぶみんなのおかげだ。みんなとこれからもずっと暮らしていきたいと思ったら、自然に魔力がみなぎってきたから」
俺ひとりだったら、絶対に湧かなかった力だろう。
人は、誰かのためにこそ強くなれるのかもしれない。
俺たち四人は空中で喜びあい、続いて地上で待機しているリオナさんのところへ移動した。そこには、リリとルルの姿もあった。転移魔法を使える部下を使ってきたのだろう。
「見事です、ミチトさま」
「ミチトっ! 無事でよかったのじゃっ!」
「さっすが、あたしのお兄ちゃんっ! ますます惚れ直しちゃったわ!」
馬から降りて俺を称えるリオナさん。
そして、左右から俺に抱きついてくるルルとリリ。
その温もりを感じて、こちらの心も温かくなった。
生きていてよかったと、心から思えた。
この先困難はあるかもしれない。だが、俺はこの異世界でみんなと幸福な一生を送りたいと素直に思うことができた。
そのためなら、いくらでもがんばれる。
まぁ、元いた世界みたいに過労死しない程度に、がんばらなきゃとは思うが――。
「そういうわけで、ミチト、わらわと子作りするのじゃ!」
「お兄ちゃんと最初に子作りするのはあたしなんだからね!」
「祝勝祝いに全員と子作りするのはいかがでしょうか?」
「究極のおっぱい魔法を使いましょう~♪」
「わたしも今日の活躍を見て惚れ直したぞ!」
「……み、ミチトくんっ、や、やっぱり最初は、わたしからっ……」
……うん、やっぱり童貞である俺にはハーレムは荷が重いかもしれない。
そんなこんなで元社畜童貞の俺は魔怪獣を撃滅して国を守ることに成功。
これからも激しく迫ってくる女子たちとの関係をどうするか悩みながらも、異世界で楽しくやってゆくのであった――。
(第一部)完
世界に男が俺だけで約束されたハーレムだけど健全な生活を心がけて生きます! 秋月一歩@埼玉大好き埼玉県民作家 @natsukiakiha
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