第6話「癒しの抱擁と直接的すぎるメイド」
※ ※ ※
「それではまた晩餐会で会うのじゃ」
「わたしは今日のぶんの鍛練をしてくる! 毎日千回は素振りをせんと気が済まんのでな!」
「わたくしはもう少しミチトさまとお話しいたします~」
リリとルリアが部屋を出ていき、ミーヤと俺が残された。
……というか、こんなおっぱいのでかい人とふたりきりとか難易度高い。
とりあえずおっぱいは見ないように気をつけよう。
「緊張しないでも大丈夫ですよ~。あ、おっぱい見ます~?」
なんでやねん。
関西人じゃないのに、つい突っこんでしまいそうだった。
いや、そんな簡単におっぱいは見るものじゃないだろう。
ふだん見えないからこそ、おっぱいは尊いのではないだろうか。
「……いや、遠慮しておきます」
「うふふ~、慎み深いんですね~? 英雄と呼ばれる方はみんな色を好むものかと思っておりました~」
「いや、俺、英雄じゃないですし、本当のただのなんの変哲もない男ですよ? 俺のようなただの男が召喚されちゃって申し訳ないくらいです」
「うふふ~、そういう謙虚なところ、すごくわたくし好みです~♪」
そう言ってミーヤはこちらへ近づいてきて――俺の頭を両手で抱え込むように抱き締めてきた。
「んぷぷっ!?」
当然、顔面が巨大なふたつのおっぱいに挟まれるが――ミーヤはさらに強く抱きしめてきた。
「……ミチトさまを召喚したとき~、死の直前のミチトさまの心を感じさせていただきました~。毎日、心と体に鞭を打ってがんばってきたあなたの苦しみを悲しいぐらいに感じました~」
……そうか。俺の心はミーヤにお見通しだったのか。
「向こうの世界では~、ミチトさまはたいへんな苦労をなさりましたが~、こちらの世界ではそんな理不尽な労働はありません~。わたくしたちみんなミチトさまの味方ですから~、どうかまずは心と体を休めてください~♪」
そう言ってミィヤはますます俺を強く抱きしめて、おっぱいで顔を挟んでくれる。
「んぷぷぷっ」
顔中がおっぱいの感触が広がり呼吸が苦しくなるが、俺はこれまでの人生で味わったことのない安息を覚えていた。
「……いつでもこの胸をお貸しますから~、どうぞ心と体を癒してくださいね~♪」
なんという母性。そして、おっぱい。
いかん、これでは本当に腑抜けになってしまいそうだ。
現実世界ではひたすら金のため、生活のためにがんばってきただけに――こんなふうに甘やかされると弱い。
「……うふふ~、おっぱいを押しつけたこと~、姫様には内緒ですよ~? でも~、おっぱいがほしくなったら~、いつでも呼んでくださいね~?」
ミーヤは俺を抱き締めていた両手を緩めて離れると、にっこりと微笑んだ。
そこで、トントンとノックがされる。続いて、ドアの向こうから声がかけられた。
「失礼いたします。メイドのリオナでございます。ミチト様、お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい! どうぞ!」
俺は慌てて返事をした。
「それでは、失礼いたします」
ドアを開いてからリオナさんは一礼、しずしずと室内に入ってくる。
「メイドたちへの指図を終えて戻ってまいりました。あらためて、よろしくお願い申し上げます。ミチトさまがお望みになることをなんなりとご命令ください」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
やはりいかにもできる女性といった感じで気圧される。
こうやって淀みなく敬語を使われるとキャリアウーマンっぽい。
労働の記憶がよみがえって、ちょっと気圧される。
どうしたものかと思っていると、再びリオナさんは訊ねてきた。
「なにかご命令はございませんか? なんなりとおっしゃってください」
……とは言っても、いきなりお願いするようなことはない。
「なんでもかまいません。ミチト様が望むなら我が身をもって女体についてお教えいたしますが」
「…………はっ?」
いま、真面目な顔して変なこと言わなかったか?
思わずリオナさんの表情をうかがうが涼しい表情のままだ。
ちなみにミーヤは俺の傍らでニコニコしている。
そんな中、再びリオナさんは口を開いた。一切淀むことなく、続ける。
「皇国にとって一刻も早いお世継ぎの誕生が望ましいのです。ミチト様とリリ様のお子が産まれれば皇位も安泰です」
言っていることは無茶苦茶なようで、かなり政治的な内容も含んでいた。
お世継ぎ問題というのは、いつの時代のどの国にとっても重要なことなんだろうが……。ただの社畜で一般人であった俺からすると、ピンとこない。
まぁ、リリはまだ若い上に見た目は完全に子どもだから侮る者も、その地位にとって変わろうとする者が出てもおかしくないのかもしれないが。
「うふふ~♪ 女体についてならば~、わたくしがいつでもお教えいたしますよ~?」
傍らのミーヤもニコニコしながら、リオナさんに同調する。って、いやいやいやいや! なんだこの展開は! 俺が童貞だからってからかっているのか!
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺はそんなこと望んでない。というか、婦女子がそういうことを軽々と口にするのはいけないですよ!」
顔を真っ赤にしながら言うと、リオナさんはすぐに頭を下げた。
「申し訳ございませんでした。つい、さしでがましい口を聞きました。どうかお許しくださいませ」
「あ、ああ……い、いや、その、謝ることでもないというか、その、ちょっとびっくりしただけだから……」
真面目で優秀なメイドかと思ったらかなりぶっ飛んでいた。
……まぁ、すべては国を思ってのことなのかもしれないが。
ちょっと気まずい雰囲気が流れかけるが、ここは話を逸らそう。
ああ、そうだ。お願いすることがあった。
「そうだ、読み書きを教えてくれないか? しゃべるほうは翻訳魔法でなんとかなるみたいだけど、文字は読めたり書けたりしないと不便だと思うから」
「かしこまりました。それでは、ミチト様にこの世界の文字を夜な夜なお教えさせていただきます。ご希望があれば歴史や文化なども」
やはりこの世界で生きていくのなら、基礎的な知識はあったほうがいいだろう。
歴史はけっこう好きだし。
「それじゃ、お願いします……。忙しそうなのにすみません」
「いえ。仕事を任せられる部下もたくさんおりますし大丈夫です。わたくしはミチト様直属となりますので、ご自由に使ってください」
女体のなんたるかを教わるよりはよほど健全だろう……。
まぁ、こんな美人のふたりにいろいろと教われるなんて最高かもしれないが……。
でも、俺は三十三年童貞を貫いて死んだだけあって、そこのところは奥手というか、へたれというか……。ともあれ、この異世界の人はみんな美人すぎて困る。
「それでは、ミチトさん~、わたしもちょっと仕事を片づけてきますので、そろそろお暇いたします~♪ わたくしにルリアさんにリオナさん、なにより姫様がついていますから~、ミチトさまは安心して日々をすごされてくださいね~♪ あ、おっぱいがほしくなったら、いつでも呼んでくださいね~♪」
「あ、ああ……」
おっぱいをポヨンポヨン揺らしながら、ミーヤは部屋から出ていった。
その後は、リオナさんにこの異世界での基本的な知識や地理、常識等を教えてもらったり紅茶を飲んだりして過ごしたのであった。
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