第78話 情報交換

 俺が経験した飛竜との戦いを映像にして送る。


 「この飛竜が竜将であるかはわかりません。が、この人物が乗り手として突出した技術をもっているのは間違いない。だからコイツを竜将だと仮定して話を進めていきます。えぇっと名前なんでしたっけ、竜将」

 「ワイズだ」


 さすがヨキちゃん。


 「ワイズ。基本的な飛竜の性能は他と大きく変わりません。最高速度も機敏性も並。一番の違いはテクニックですね。既存の技術を極め、比類なき力を手に入れた。その点では弓将によく似てます。これを見てください。

 二度目の襲撃の場面です。僕が他の飛竜に気を取られている隙に背後から強襲。【鷹】にバックアイが装備されているので反応できましたが、なければ危ない展開になっていたでしょう。冷静にこちらを観察して、常に最善手を打ってきます。ワイズの厄介さはそのテクニックと冷静さ、視野の広さと攻撃の意外性、そして他の飛竜との連携です。

 まともに対処できるのは空を飛べる僕とムドベベ様。距離さえ開いていれば一方的に殴れるリズさん、【朝陽】の射程に入ればヨキさん。飛翔能力で有利がとれてるマグちゃん。この辺です。遭遇した場合、優先的に対面するのは僕かマグちゃんになるでしょう。

 そして、この人を倒さなければリズさんが安心して狙撃することが出来ないので、倒す順位としては弓将ルベルとおなじで上位になるかなと考えています。

 戦闘になったら小まめに報告をして、意識外から襲われるという展開を回避しなくてはなりません。僕の送った映像を覚えてください。そして、これとおなじ人を見たらすぐに報告を。

 かなり頭のいい奴らしく、トリッキーなこともしてきます。完全に落とすまでは絶対に気を抜いてはいけません。

 他になにかありますか?」


 ……。


 まぁ竜将ワイズ(仮)と戦闘したのは俺とムドベベ様だけだもんな。


 「最後に僕が戦った精鋭部隊についてお話します。長身の女で、とにかく固くて動ける奴でした。言葉による挑発や駆け引きを仕掛けてきて、かつ戦闘中もリラックスしていたところから、そこそこ戦闘慣れしているという印象を受けました。ヨキさんやマンデイたちと戦ったみたいなことを言ってましたけど……」

 「ユキと呼ばれてた」


 と、マンデイ。


 「そいつも将の一人だ。闘将ユキ・シコウ」


 と、ヨキちゃん。


 「なるほど。今回はデルアの要が全員出撃してくれたわけですね。

 一応ユキには毒を入れました。解毒されなければ命はないはずですが、デルアの敵としてマクレリアが存在している時点で、なんらかの対処はされていると思います。あまり期待は出来ません。この人の部隊はかなり体が固い印象でした。殴った感触からすぐに針が通らないと判断し、一度傷をつけ、毒を注入した感じです。ヨキさんの刀では斬れましたか?」

 「ユキの部下何人かは斬った。が、致命傷にはならなかった」


 固いもんな。あの人たち。


 「マンデイはどうだった?」

 「ユキが叫んだら敵が強くなった」


 付与術の一種だろう。


 「付与の一種かもしれません。どの程度強くなったの?」

 「より固く、速くなった。でも動きが単調になる」


 マンデイが映像を送ってくる。


 ユキ・シコウの部下の表情が獣のようになっている。強化というより狂化という感じ。


 「ちなみにヨキさんは使われましたか? これ」

 「あぁ。確かに動きは単調になるが、身体能力はかなり向上する。とても人のものとは思えない」


 なんで俺には使ってこなかったんだろう。使われるまえに毒を入れたのかな?


 「あの……」


 と、リズ。


 「なんです?」

 「これ、身体強化の魔法だと思います」

 「身体強化?」

 「はい。悪魔のなかに使い手がいます。魔力を属性変化させずにそのまま活用する、治癒術や付与術とおなじ、いわゆる古い魔法の一種です。使うと凄く疲れるので、一度使うとしばらく休まないといけません」

 「体が固いのも身体強化の影響ですか?」

 「実際に戦った経験があるわけではないのでなんとも言えませんが、悪魔の使い手は、獣から引っ掻かれても無傷だったり、高い所から飛び降りてもケロッとしていたりしてました」

 「そうですか。もしかすると体が頑丈になるのかもしれません。ユキが叫んだ、というのは身体強化の第二段階なのかも。リズさん、そういう話は聞いたことがありますか?」

 「悪魔の英雄が使う魔法に似たようなものがあります。一騎当千の強さを得る代わりに、獣のような強さを手に入れ、連続して使用すると前後不覚になり、寝込みます」


 ヨキとマンデイに身体強化の奥の手を使ったせいで俺と対面した時には余力がなかった、という見方をするのが素直かもしれないな。


 「マンデイ。次にユキと戦ったら勝てそう? 身体強化された状態で」

 「勝てる」


 頼もしいな。


 が、マンデイが知る闘将ユキは前日の戦闘で疲弊していたかもしれない。申し訳ないが参考程度にしかならなそう。


 「ヨキさんはどうです?」

 「状況による」

 「と言いますと?」

 「そのままだ。一対一なら相手が疲弊するまで粘り、弱ったところを斬ればいい。が囲まれればその余裕はないだろう」


 まぁそうだな。だからこそ今回ヨキは奥の手まで出したわけだし。


 「マンデイ。ゴマの耐久でユキの攻撃は耐えれそう?」

 「ずっと殴られたらキツい」

 「少しなら大丈夫ってこと?」

 「うん」


 ゴマが壁になって疲弊させるような戦略が一番いいのかもしないかな。


 「ゴマ。もしコイツと戦いなにったら、マンデイやヨキの助けをして欲しい。いいか?」

 『わnuるjofiるve』


 はぁはぁはぁ


 フリフリフリフリ


 いいのか? いいんだろうな。たぶん。なんか知らんが嬉しそうだ。


 「無理はしないように。闘将ユキに有利なのは射程外から攻撃できるリズさんと、空に逃げながら有利を押し続けられる僕、物理無効のヨキさん。ユキがなんらかの怪我をしている場合に限りマグちゃん。

 不利なのは体が大きく攻撃を受けやすいハク。後は状況次第で変化するかな。

 ハクはユキと戦闘になったらフォローに回ってくれ。メインでやるのはゴマとヨキさんのペア。ヨキさんは毒注入用の傷をつけることを第一に考えてください。成功したら報告を。僕は空からちょっかいをかけます。トドメはマグちゃんが。あっ、それと、ユキの言葉は聞かないように。あの人、平気で嘘をつきますから」

 「マンデイもされた」

 「嘘つかれたの?」

 「違う。時間稼ぎをされた」

 「時間稼ぎ?」


 マンデイが映像を送ってくる。


 急に動きを止めるユキ。くつろいでいるように見える。マンデイも様子を見るためだろう、動きを止めた。


 そして、なにやら会話したと思ったら、死の軍団がワラワラと現れた。


 あぁ、そういうことね。


 やっぱり落ち着いてるなぁ、この人。要注意人物だ。


 「わかった。充分気をつけよう。あとは……。なんかありますか?」

 「マンデイがやる」

 「ん? ユキと?」

 「うん」


 なんだ、やる気マンマンだな。腹立ってんのかな?


 「マンデイが戦ったユキは万全な状態じゃなかったかもしれないんだ。本当はもっと強かった可能性がある」

 「負けない」

 「戦いたいの?」

 「うん」

 「危なくなったら退くって約束できる?」

 「うん」

 「ゴマのこともちゃんと面倒みないとダメだよ?」

 「わかってる」


 本当は物理方面に強いヨキに当たって欲しいんだけど。


 「本当に戦いたい?」

 「うん」


 しょうがない。


 「わかった。でも無理そうだったらヨキさんにチェンジね。ヨキさんは物理主体の相手に滅法強いから。ヨキさんは囲まれないようにだけ気をつけてください。最悪体を捨てて逃げていいので」

 「あぁ」


 後は……。


 「舞将か。結構痛めつけたみたいですが、まだ戦えそうですか?」

 「傷が癒えればな」

 「直接戦ったのは潜入班ですから僕たちはよく知りません。能力や印象などを教えてくれませんか?」


 送られてきたのは若い男の映像。金髪碧眼、整った顔立ち。物語の主人公チックな見た目をしてる。


 「俺が斬り合っている隙にマグノリアが毒を打った。弱くはない。だが直情的だ。経験が浅い」

 「数をかければ倒せる感じですか?」

 「あぁ、問題ないだろう。しかしあの男は闘将の弟子だと話していた。あるいは……」

 「身体強化を使ってくる」

 「かもしれん」

 「それじゃあ対策は闘将とおなじですね。ゴマとヨキさん、マンデイが疲弊させつつ倒す感じかな。体がカチカチになるまえ、もしくは出血したらマグちゃんが毒を入れる。油断しているうちにリズさんが狙撃するのも有効でしょう。他に気になる点はありますか?」

 「裏稼業をする人間特有の香りがした」

 「裏稼業ですか……」

 「そもそもリッツはデルアの裏の仕事を担っていたオキタという男と繋がりがあった。そして、交渉をしに来た。あの手の人間は腐るほど見てきた。笑いながら相手を斬りつけ、奪う人間だ」

 「手段を選ばないタイプの人間だ、と考えていいと」

 「あぁ」

 「念頭に入れておきます。ハマド様の方針は以前と変わらず。傷をつけて生物兵器の注入。デ・マウの弱体化はボディリングで対処します。あっ、ルドさん、ヴェストさん、オストさんにも後でお配りしますね。装着しているだけでデ・マウの弱体化を防げます。まだ実際に使ったわけではないので、近いうちに実証実験をしてみます」

 「魔道具か?」


 と、ルド。


 「近い物です。僕が造りました。魔力に反応して破裂する爆弾を王城に投下し、デ・マウが弱体化を使ってくるかを試してみたんです。

 デ・マウはルゥほどではありませんが、広い範囲の感知が出来るそうなので、落下してくる爆弾が魔力で動いていると気づいてくれるのではないかと考ました。もしかしたら弱体化をしてくるかなと。デ・マウの能力を信頼したんですね。

 結果は有効。リング無しの爆弾は不発でしたが、リング有りは普通に爆発しました。使ったのが爆弾なんで、精神に影響を与える魔術を吸収しているかは不明。実際に試してみないとなんとも言えません」


 腕を組んで唸るルド。


 どうした。


 「想像以上だ……」

 「なにがです?」

 「千年前に代表者と名乗る者達が現れ、この世界に平安をもたらした。彼らはたった一人で戦況をくつがえし、常軌を逸した力であらゆる生物を支配したと言われている。実際にこの目で見るまではある程度の脚色があるものだと考えていた。だが……」

 「僕自身は大したことないですよ。実際に個で強いのはここにいるフューリーさんとか水や魂の代表者です」

 「なにを言う。一から生物を造り出し、服で空を飛び、自作の魔道具で世界トップクラスの魔術師に対抗しているのだ」

 「そうやって言葉にされると凄そうに聞こえるのが不思議です。ボディリングの実験は後日。デ・マウ攻略は策を思いつくまで待機とします。あ、ちなみにいま現在、なにかアイデアがある人はいますか?」


 沈黙。


 「ですよねぇ。正直ここまでしたのに攻めて来られないのは予想外でした。ジッと待たれてると本当にやり辛い。デ・マウを攻めさせる策を思いついたら教えてください。僕も考えてみるから。今日の会議はこの辺で終わりましょう。皆さんお疲れ様でした」


 最近は色々と忙しかったし、妙案が思い付くまでは創造系のお仕事とか策を練ったりしながらゆっくり過ごすか。

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