第34話 長年 ノ 夢
フューリーは早朝から外出。
本当になにやってんだろう。危ないことじゃないよな。まぁあれか、良くないことだったらルゥが止めるだろう。
しかし憂鬱だ。気が進まない。
出来れば造りたくない。でも造らないわけにはいかない。
約束したしなぁ。
「どうしたのぉ、暗い顔してぇ」
「マクレリアさん。ヨキの体のことで悩んでて」
「なにを悩んでるのぉ?」
「レイスの強みは実体がないことですが、体を造ってしまうと、その強みを殺してしまうことになる」
「まぁそうだねぇ」
「一応ヨキに確認して、体を造る方向で考えてはいるんですけど、問題があるんです」
「なぁに?」
「ヨキが僕と別れても生きていけるように、限りなく生物に近い感じで造ろうと考えているのですが、もしヨキが願望を叶えたら、体はどうなると思いますか? 意思がなくなってしまったら」
「過去に例がないからなんとも言えないねぇ。考えられるのは、知性のないレイスがその体を使うようになるか、ただの抜け殻になるか、だねぇ」
「ですよね。どちらも深刻な問題を抱えています。といって鎧とか人体模型とかの体を造ってしまうと普通の生活が送れなくない」
「人体模型?」
「あぁ、まえの世界ではレイスは人体の模型だったんです」
「そうなの?」
「他にも色々なパターンがありましたけどね」
「へぇ」
「まぁヨキの体を造るのは決定事項ですし、他に案もないので生物に近いものでやるしかないですがね」
「そっか」
「はぁ気分が乗らないなぁ」
「なるようになるよ」
「ですね。相談に乗ってくれてありがとうございます」
「相談に乗ったつもりはないんだけどねぇ」
そう言ってマクレリアはマグちゃんのお食事に行ってしまった。なんかマグちゃん、巨大化してる? あんなデカかったか? まぁ毎日バクバク飯食ってるし、そりゃそうか。
なんかマクレリアが可哀想に見えてくる。重そうだ。そろそろ俺の助けがいるかもしれない。
ゴマは今日も砂場にオシッコをしていた。偉いぞ。
砂で固まった尿を捨てに行ったんだけど、またあの妙な感覚が……。なにかが引っかかる。なにが引っかかっているのかがわからない。気持ち悪い感じだ。
気を取り直して創造のお時間。
今日はまず、新しいカプセルを造ろうかな。
ミルク用の桶を広げ一部を改良、大きいサイズのカプセルに。これはヨキの肉体の培養専用なので、新鮮な空気の出入りは阻害せず、魔力のみを遮断するネットをフタにした。苦戦するかと思ったが案外簡単に造れた。魔力関連のものを創造しまくってるからイメージしやすいのもあるかもしれない。
培養に使うシャーレと、保護液で満たした透明の容器も創造しておく。
どうしよう、マッドサイエンティスト感が止まらない。
下準備はこれくらいにして、さっそく実験開始。
手始めにヨキの魔力の質、存在の質を覚える。
そして、ヨキの力によってのみ反応するように条件をつけた物質を創造してみた。とりあえずピンポン玉をイメージ。
「ヨキさん、これを動かしてみて」
「わかった」
ヨキが玉に触れると、フワフワと宙に浮く。
あっ、幽霊っぽい。すごく幽霊っぽいぞ!
「どんな感じですか? 魔力の消費量は」
「問題ない」
「難しくないですか?」
「あぁ」
第一段階は終了。次は体を造るステップだな。
「今日からヨキさんの体を造ります。ですがそのためには、僕が体の構造をしっかり理解しておく必要があります。間違った物を造ってしまったら大変ですから」
「あぁ」
「少し時間がかかるかもしれません」
「かまわん」
今日から勉強の日々だ。
ちゃんと出来るだろうか。不安しかない。
まぁ今日は他にすることがあるし、そっちを先に片づけてしまおう。
実は密かに温めていたアイデアがあったのだ。
ヨキが物体を動かせるかどうかの実験に先立って、俺は検証をした。
それは俺の魔力にのみ反応し、かつ動くことに特化した物質を造るというものである。俺の魔力にのみ反応するという制約だが、わりと簡単に成功。これが成功した時点でヨキの体は造れると確信を得た。
ヨキの魔力のコストダウンを狙うなら軽量化は必須だ。重いと操作しにくいし、コストも上がる。どれだけ軽く出来るかが鍵になるはず。
それ以外に魔力を節約する手段がなにかないだろうか。俺は考えた。
そもそも、動く、とはなんだ。
俺が出した答えはこうだ。動くとは移動することである。
A地点からB地点への移動、これは間違いなく動いている。じゃあ指を動かす場合はどうだろう。実はこれも移動なのだ。伸びた状態から曲げた状態への移動。曲げた状態から伸びた状態への移動。
ではそれを踏まえた上で、コストを下げるためになにをすべきかを考えた。
移動を制限するものはなんだろう。それは摩擦であり、抵抗である。
では、摩擦、抵抗とはなんだろう。それは力、エネルギーである。
じゃあ移動の邪魔をする力を利用すればいいのではないか。
で、極小のヒダを造るという結論に着地した。
(過剰な力は受け流す)(外的な力による変化を魔力に変換)(変換した魔力の再利用)の特徴を付与した無数のヒダを布に貼り付ける。で、フリフリと振ってみた。
エネルギーを生み出すという点にのみ着目すると別にたいしたことはなかったのだが、動きやすいという点ではなかなか効果的であるような気がした。普通に布を振る時よりも楽なのだ。
この発見をなにに利用するのかというと、そう、みんな大好きパワードスーツだ。
内臓関連の働きについてはさっぱりな俺だが、筋肉や腱の配置についてはそこそこ理解している。マンデイを造った時に基礎を学び、調整で理解を深めた。問題は使用者のコスト面だけだったのだが、それもヒダの利用で軽減できる。
これでマンデイの動きが改善するだろう。ハクを造るのに踏み切れたのも、実はこの着想があったからだったりする。
そしてパワードスーツにはもう一つ進んだ運用方法があるのだが、まずは基本となるスーツを造らなくてはいけない。
それでマンデイ用のをちまちま造っていたんだけど、その最中にフューリーが遊びに来た。やっぱり疲れてるみたいだ。やつれているように見える。マジなにしてんだろ。
(なにを造っておるのだ)
尻尾をブンブン振りながら尋ねてくる。疲れていてもイライラしない。楽しいことを楽しめる。うん、イケメンだ。
「パワードスーツです。マンデイの動きを補助する装具のような物ですね」
(ほう)
「使えそうだったら僕用とかゴマやハク用のも造ろうと思ってます」
(我も使えるか)
「フューリーさんは体が大きいから造るのに時間がかかるかもしれませんが不可能ではないと思います。ですが、いまの技術力でフューリーさんが満足するような品物が出来るとは思えませんね。
なにせ不干渉地帯の壁を飛び越えるんだ。とても補助出来るとは思えない。
俺がそう言ったものだから、フューリーの尻尾がシュンと下がった。可愛い。
そんな話をしていると、ゴマが寄ってきてフューリーにじゃれつく。フューリーは前足で相手をする。コテンとゴマが転がる。立ち上がってもう一度フューリーの足に飛びかかる。コロン。
コテン。コロン。コテン。コロン。
よし、改宗しよう。
今日から俺は犬派だ。
(ところで知の、これを使わせてくれんか)
と、フューリーは鼻先でカプセルを指す。
「別に構いませんけど、魔力を回復するんですか?」
(そうだ)
「ならサイズアップしなきゃですね。このままじゃ無理そうだから」
パワードスーツは後日しよう。急ぎの案件じゃないしな。
(明暗の代表者が戦闘をしているらしいのだ)
「侵略者ですか?」
(いや、侵略者に感化された者たちじゃのう。戦況は芳しくない。助太刀せねばならん)
「どうしてわかるんですか?」
(亀仙が感知しておる)
「離れてても分かるんですか?」
(亀仙は先の時代の代表者だ。感知、特殊魔法は、神の恩恵じゃのう)
「えっ! まえにも代表者が送り込まれてるんですか?」
(知らなかったのか?)
「えぇ、まったく」
作業しながらフューリーの話を聞いた。
この世界、過去にも代表者が再構成されたことがあったそうだ。つまり俺たちは二度目の派遣ということになる。
一度目は、この世界を安定させるための派遣。当時、勝手気ままに振る舞っていた生物を統治するための措置だった。代表者は王の資質をもった者。恩恵も統治に向いたものが多かったらしい。
(獣の世界)の代表者は亀仙。変態的な感知能力と予知、特殊魔法を授けられた。(知の世界)の代表者はアシュリー・ガルム・フェルト。蠱惑の踊りと、相手の精神を操る魔法を操っていたらしい。他の世界の代表者もそれぞれ能力を与えられ、それぞれの世界由来の生物を纏め上げ、国なりコミュニティを築いた。
(先の時代の代表者で生き残っているのは、我ら獣の亀仙。魂のグレイト・スピリット。水の水龍カトマト。明暗の聖者ワトじゃのう。グレイト・スピリットは今代の代表者と融合しておるから、生き残っておると言ってよいのかはわからんがのう)
「融合……」
(一つの存在になったのだ)
「なんか想像できませんね。先代と今代、どっちの意思が残ったんですか?」
(レイスはすべてであり、一つでもあると言われているのう。先代であり、今代でもある。我らの尺度で考えてはならぬ)
「わけわかりませんね」
(うむ)
「ちなみに今代の代表者ってどんな感じなんですか? 僕、フューリーさん以外誰も知らないんです」
(うむ。まずは……)
水の代表者はとにかく巨大な生物らしい。フューリー曰く代表者のなかで最強。先代の水の代表者の水龍、カトマトですら勝てないほど強いらしい。
(スケールが違いすぎるのう)
だって。
ぶつかっただけで山が崩れるらしいです。もうそいつだけでいいのでは?
ただ性格が幼く、直情的なのが玉に
虫の世界の代表者は蛾だそうだ。虫の因子をもつ生物を自在に操る鱗粉を使い、現在、いくつかの虫の種族で構成された軍隊を保有しているらしい。
なお嗜虐的で、好戦的、性格は最悪とのこと。マグちゃん操られないようにしなきゃな。気をつけよ。
魂の代表者はグレイト・スピリットと融合した、ルーラー・オブ・レイスはフューリーもまだ会ってないそうで、性格や能力は不明。
明暗の代表者は天使だそうだ。これも性格や能力、立場は不明。だが種族的に支援型の性質だろう、とのことだ。いまは他の種族と戦争中。
「なんていう種族と戦争してるんですか?」
(悪魔じゃのう。あやつらは相容れん。そのうえ悪魔側が侵略者に感化されて好戦的になっておる)
「悪魔と天使が仲悪いイメージはありますね。にしても代表者は厄介そうなのばっかりですね。短気な最強生物に、性悪な虫将軍。苦労しそうだ。他の代表者の性格が良かったらいいんですけど」
(力をもつというのは、そういうことであろうのう。心を歪ませる)
「歪まないように努力します。フューリーさんもいまのままでいてくださいね。さぁ完成しました。なかに入ってください」
フューリーにじゃれつくゴマを抱え上げて促す。だがフューリーは動こうとしない。
「ん? 入らないんですか?」
(のう、知の)
「なんです?」
(おぬしは考えんか。侵略者を
「考えたこともなかったですね。というか、どうでもいいです」
(どうでもいい?)
「先のことなんてわからないし考えるだけ時間の無駄っていうか、なるようにしかならないっていうか」
(我らは先々この世界に強い影響を与えるであろう。そのような姿勢ではいつか綻びが生じるぞ)
「かもしれませんね。その時はまた考えますよ。先の話すぎていまはまだ考えられません」
(
「ん?」
(我の能力だ)
「言っていいんですか? いままで訊いても教えてくれなかったのに」
(おぬしは敵にはならん。そんな気がする)
「まぁいまのところフューリーさんの敵になる予定はないですね。なんかここ数日でフューリーさんのことすごく好きになっちゃったし。ていうか敵になったら瞬殺されそうだし」
(そうか)
「あっ、ここを出て行くまえにお願いしたいことがあるんですけど……。魔力の補給が終わってからでいいんで」
(なんだ)
「すごく言いにくいんですけど……」
(言うてみろ)
「背中に乗せてもらっていいですか?」
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