第15話 夜 二 逃ゲル
無からの創造でなければ食品関係も能力の適応内であると判明したのはデカい。
濁にごった川の水や、汚水を浄化して飲めるのだ。すごく便利。
マンデイに魔力を譲渡して水を出してもらうのと創造する力で清浄化するの、どっちが低コストなのかわかんないけどね。
カエルの肉だが、食べて毒があったらマンデイに治癒してもらうことに。
そこまで行き着くにはこんなやりとりがあったのだが。
(これは食べれるのか)
(わからない)
(毒とかないのかな)
(ためしてみたらいい)
(でも危ないだろ)
(マンデイがなおす)
(とはいってもだな)
(たべてみたらいい)
(マンデイなんか怒ってる?)
(それをみたくない)
マンデイはカエルが苦手みたいだ。グロいのが苦手なだけか? 可哀想だからお花畑の風景を送っておいた。マンデイとのコミュニケーションも慣れたもんだ。
いくらマンデイが治療してくれるとしても、内臓やゴツゴツした皮を食べる度胸はなかったから、太ももの肉とか、それに似た組織やらを食べてみた。
そこまで不味くはない。いやむしろ美味いまである。干し肉よりずっといい。だが塩分が欲しいな。
食後、マンデイに診てもらったけど、この生物に毒の類はなかったようで、治療の必要もなかった。
万が一、追っ手が来ていた場合のことも考えれば悠長なことはやってられないのだが、食べ物の問題はそのまま死に直結するため、おろそかに出来ない。一日この場に留まってカエルを狩り、水分を抜いておくことにした。きちんと処理しておけば三日くらいはもつだろう。
結局、捕獲できたのは巨大なカエル二匹とサギのような鳥が一羽。
鳥は完全に嬉しい誤算だった。
カエルの狩りで発生した電気に驚いて飛びたったところを風の魔法で巻き込んだら、捕獲できた。どう捌さばいていいものかわからなかったが手探りでカットしていき、なんとか食べれそうな肉をとるのに成功。ボンジリとか砂ズリが食べれるかと期待していたが、どの部位がそれにあたるのかがまったくわからない。
マンデイの光魔法で光源は確保しているものの、エネルギーの節約を考えるとそう時間もかけてられない。ハツとレバーだけはなんとか区別できたから、創造する力で加工、食べてみた。
美味しい。ハツとレバーだ。でもやっぱり塩が欲しいな。焼肉のタレ、もしくはオリーブオイルか。白米も欲しいが、ないものはしょうがない。
最後に真空パックのようなものを創造。風魔法で空気を抜いて、保存と持ち運びに便利な形状にした。そのうち保冷バッグも造ってみたい。
移動をしなかった分、様々なことに魔力を使った。
狩り、肉の加工、保存用の真空パック。それでも少し余ったのでバックパックを創造することにした。もちろん無から創造するほどの余裕はなかったから、カエルの皮を加工して造る。
そもそも革製品ってどうって造るんだ? まずは汚れをとるよな?
とりあえず油と血を取り除く。
次は………。伸ばす?
カエルの皮にはゴツゴツしたイボのようなものがある。これは潰した方がいいんだよな。このまま使うなんて無理だもん。
で、ナイフの峰の部分を擦りつけるようなして潰してみたんだけど、力を入れた瞬間に黄色い油のようなものが噴き出してきた。あまりの気持ち悪さに思わず声が出る。声だけならよかったが、マンデイと接続していた導線に情報を流してしまった。
(ファウスト)
(ごめん。わざとじゃないんだよ)
(つぎしたら)
(わかってる。もう二度としない。約束する)
(うん)
この油、臭いがないのがせめてもの救いだな。だが毒を含んでいる可能性は捨てきれない。慎重にいくか。
さて、皮は平らになったのだが、ここからどう加工したらバッグになるんだ?
思えば前世は便利だった。わからないことは調べればよかったんだから。ちゃちゃちゃっと携帯を操作すれば大抵の情報は数分で手に入った。
創造する力でタブレットを造れたりするのかな。いや、もし可能だったとしてもインターネットがない。まぁでも写真の機能とかはあれば便利だよな。余裕があればトライしてみてもいいかもしれない。
革製品はたぶん薬品やら熱やらを加えて頑丈にしてるんだろう。薬品名やら詳しい工程がわかればコストは格段に下がるのだが、今日はこれくらいにしとこう。また明日だ。
目を覚ますとすぐにバッグの作成にとりかかった。制作工程がわからない以上、前世とおなじやり方は出来ない。すると俺には創造する力しか残っていないわけだ。
無から造りだすのではないので魔力消費はそこまで負担にはならないだろう。やるか。
頭を悩ませていたのがバカだった。
わざわざナイフでイボを潰す必要もなかったんだ。最初から魔力が回復するのをまってから創造する力で加工すればよかった。
バックパックの創造ついでに防具も造ってみるか。
(なぁマンデイ。防具が造れそうなんだ。着てみないか?)
(カエルでつくるんでしょ)
(そうだな)
(きない)
(でも、もし野生の……)
(きない)
(絶対に?)
(きない)
どうやら俺はマンデイに、消えることのないトラウマを植えつけてしまったようである。
防具に関しては、そこそこ有用であるように思えた。ナイフで切りつけてみても浅く傷がつく程度だし、重さを軽減する特徴を付与しているので動きやすい。もっとも子供の体では正確なテストは出来ないのだが。そのうち自己修復機能なんてのをつけてみてもいいかもな。
いま俺は高性能インナーのうえにカエルアーマーを装備しているわけだが、この組み合わせ、そこそこの性能になっているのではないだろうかと思っている。
もともとインナー自体に衝撃耐性があった。今回のカエルアーマーには斬撃耐性と、衝撃耐性を付与している。大抵の物理攻撃なら防げるだろう。
はい。
調子に乗りました。魔力がカツカツです。
少し進んだところで棺桶式寝床を創造。マンデイに魔力供給をして、休むことにした。
ところで、いまの俺の生活ってなんかバンパイアみたいだな。暗いうちに移動して、昼は土のなかで眠る。まったく勇者感がない。
他の代表者はなにしてんだろ。やっぱ一子相伝の拳法を修行したり、伝説の武器の探索してたりするんだろうか。絶対にカエルアーマーなんて着てないだろうな。
なんか悲しくなってきたから考えるの止めよう。
それよりなにより問題が。マンデイが俺を避けているようなのだ。歩いている時も以前よりも距離がある。十中八九カエルアーマーのせいだろうけど、反抗期の娘をもった父親の気分だ。
悲しい、そして寂しい。
(なぁマンデイ)
(なに)
(俺のアーマーが嫌なんだろ)
(いやだ)
(そのうちもっと性能がいいやつを手に入れたら捨てるよ。それまで我慢してくれ)
(がまんする)
そうは言ってくれたものの、マンデイと俺の間には一定の距離が存在し続けた。
待ってろよ。いつか非グロかつ性能の高い防具を造ってやる! 金属とか固い植物で造ったやつがいいな。マンデイにもなんらかの装備はして欲しいし、近いうちに造ろう。
にしても創造する力産の黒い装備一式は夜の移動に適してる。完全に周囲と同化するのだ。マンデイのボディなんてすべて真っ黒だから少し離れたら完全に見失う。
ていうかいま気付いたけど、マンデイって裸だよな? 羞恥心とかないのだろうか。まぁ夜の移動は便利だけどな。
(なぁマンデイ)
(なに?)
(洋服とか欲しくない?)
(さむくない)
(そうか)
(でも、ファウストのつくったようふく、きてみたい。むかし、アスナもようふくをきせてくれた)
あの人、俺が眠っている間にそんなこともしてたのか。スゲー楽しんでんな。
(森について生活が安定したら造ってやるからな。俺が造ると全部黒くなっちゃうけど)
(くろはすき。ファウストのいろだから)
(頑張って造る)
(でもカエルはきらい)
(俺も最近嫌いになってきたよ)
そんな感じでカエル肉と鳥の肉を食べながら歩いていたのだが目的地は遠い。
ていうか壁、どんだけ高いんだ。遠近感覚が狂ってしょうがない。
途中でイナゴ的なものをみつけて捕獲。脚を毟ったあと、創造する力で加工してみたのだが、魔力が流れない。なぜだろう。
まだ体がピクピク動いていたから、しっかりと締めてから再度、力を使ってみるとうまくいった。
これで創造する力の新しいルールが確定した。
この力、生物には適応されない。加工するには完全に殺してしまう必要がある。
それもそうだよな。いままで思いつかなかったけど、戦闘中に相手のことを加工したら最強だもんな。いやーコレ、戦闘中に思いつかなくてよかったなぁ、まったく。
そして次の日、ようやく俺たちは壁までたどり着いた。
近くでみた壁は一枚の白い岩のように見えた。ツルツルとしていた表面には苔ひとつ生えていない。誰かが掃除してるのか、あるいはこういう素材なのか。
創造する力で壁を少し削ってみると、金属並みに加工コストがかかる。なんか特殊な物質なんだろうな。
(やっと到着だ。マンデイ)
(うん)
マンデイに水を出してもらって喉を潤すと、壁に寄りかかった。美しい夜だった。まえの世界にはなかった青い月が辺りを照らしている。
ふと空をみると、山の遥か上空に一点の白い光が見えた。小さく上下する光の両脇に、羽ばたくように影が上下している。
(マンデイ)
(なに)
(頭の光った鳥はいると思うか?)
(わからない。きいたことがない)
(人間は飛竜以外の飛翔する生物に乗るのか?)
(おおきなとりにのる。ぺがさすにものる)
(そうか。それはこの国では一般的なのか?)
(ちがう。おおきなとりにのるのは、けもののせかいの、こどもたち。ぺがさすにのるのは、ひかりとやみのせかいの、こどもたち)
(なんかそんな気がしたんだ。いや、してたんだ)
(なにを?)
(考えないようにしてた)
(?)
(たぶんアスナが殺された。テーゼも、マリナスもだ)
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