第2話 自己紹介、そして出会い


 入学式を終え、今日ははじめての登校日。初日はレクリレーション的なことが多いため、授業が本格的に始まるわけではない。おそらく自己紹介と、教科書の配布、委員を適当に決めるくらいだろう。

 特に緊張感もなく通学路を歩く。名前の通り山の上にある学校なだけに、これから毎日この坂を登ることになるかと考えると気が滅入ってしまう。三年にもなればなれるのだろうか。

 教室に入ると早めに投稿した生徒たちで、既にいくつかのグループが出来ていた。新生活を始めることは不安が伴う。その不安の原因は主に環境に馴染めるかというものが大きなウェイトを占める。それを緩和するために必要な行為が味方を作るということだ。そこに所属することで自身が存在してもよいという自身の尊厳を手にするのである。

 「おはよー。席隣だよね。私、霧島水穂。よろしくね」

 「和泉純、よろしく」

 ああ、憂鬱だ。

 私は特に学校で友達づくりに勤しむつもりはない。きっと意味がないから。高校をどれだけ楽しもうが、あとに待つものは虚しさだけだ。大学に行けば今作った友人はどれだけ関係性が残るだろうか。休み時間や授業中しかコミュニケーションを取らないような仲の相手を、どれだけ信じることができるだろうか。それならきっと一人でいるほうが何もなくて楽だ。

 別に過去に嫌なことがあったとか、そういうトラウマはないが、それが私という人間なのだ。

 素っ気のない挨拶。交わることのない視線。向こうもそれだけで望み薄を感じ取り、これ以上の追求はしてこない。私も面倒を避けることが出来、かつ霧島さんも初日の朝という今後の生活を左右する貴重な時間を無駄にすることなくすむ。

 結局反対隣の子との会話に花を咲かせることにした霧島さんをよそに、私は窓の外を眺めホームルーム開始を待った。


 やがてチャイムがなり、高校生活開始の幕が上がった。

 「一年二組の担任をすることになった、松本知恵だ。よろしく頼む。早速だがクラス委員を決めてくれ。」

 それだけ言って教卓に運んだ椅子に座り、机に突っ伏した。

 いきなりの丸投げ、一瞬の沈黙の後クラスがざわつき出す。

 適当な先生を嫌悪を示し、こそこそと厳しい声を上げる人、なにか面白いことになりそうだと期待の表情を見せる人、周りとの距離感を図り警戒心を見せる人、反応はいくつかに別れだ。

 我関せずといった形で知らんぷりを決め込んでいると、後ろの席の子が背中を叩いた。

 「あなたはどう思う?」

 「・・・・・・何が?」

 驚いた。なんと話しかけてきたのは新入生代表を努めた、あの一ノ瀬優愛だった。

 「この状況よ。みんなそれぞれの反応をしているけど、概ね動揺しているといった感じね。でも、あなたはなんとなくそんな感じがしない」

 「別に、どうでもいいだけよ」

 「そう。そういえば、私一ノ瀬優愛」

 「知ってる、和泉純」

 「あら、覚えててくれたの。うれし」

 変なやつだ。成績優秀ならもっとまともなやつだと思っていた。

 「誰もやらないならあなたがやれば、クラス委員」

 「うーん、やってもいいけど・・・。まぁこのままの状況が続けば、直にそうなるんじゃないかしら」

 そうこうしているうちに話は進んでいき、先生に対し敵意を抱いていた人たちから、いきなり言われてもという声が上がり、仮の委員を決めるということで話は収束へと向かっていった。

 そして今だけだからという建前を手に入れたクラスメイトたちは、主席だったからという理由にならない理由で一ノ瀬さんに雑用を押し付けて騒動は終わった。

 「やっと決まったか。じゃあ委員長、自己紹介適当に回してくれ」

 「わかりました。じゃあ名前順でお願いします。」

 どうしようもない先生の指示で、皆が待ち望んだ自己紹介タイムが始まった。

 手探りで名前と、趣味や中学はどこかといったあたりをベースに、個性を発揮するものや無難に済ませるもの、ボケを入れる人もいた。

 そんな私はというと、和泉純です。よろしく。以上である。

 着席して一拍二拍おいてから、申し訳程度の拍手。

 別に何か特筆して話すこともなければ、ましてや出身校など話したとてそれでといったところだ。

 他の人の紹介を適当に聞き流していたら、今日の授業は終了となった。

 あとは購買部に教科書を取りに行き、部活に興味のある人は見学に行くようだが私はパスしてとっとと帰宅した。


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