ハート・トゥ・ブレイド
@Alistes
第0話 いつかの約束
都市を一望できる高台で、二人は並んで夕日を眺めていた。
「本当に行っちゃうの?」
「……うん、もう決めたんだ」
泣きそうに目を潤める女の子に、決意に満ちた表情で男の子は答えた。
眼下に広がるのは夕日に照らされた街並み。
本来であればとても綺麗な光景が見えるはずだったが、いま広がっているのは所々に瓦礫が混じる戦火の痕だった。
「どうして? どうして“外”なんか危ない所に行くの?」
広がる街並みの更に向こう側、都市と地平線の間には巨大で長大な壁が都市を囲うように建っていた。
壁の向こう側、“外”が人類にとってとても過酷な環境である事は、幼い女の子でも知っている事だった。
それは勿論、男の子も同じことだった。
それでも、それを知った上で男の子は都市から旅立とうとしていた。
「僕はね、護りたいんだ」
「まもる?」
「そう」
力強い言葉。
真っすぐな視線が女の子に向かう。
「僕はね、■■ちゃんを護りたいんだ。でも、今の僕じゃあそれは難しいから、爺ちゃんたちに着いていこうと思うんだ」
そう決意する切っ掛けとなった胸の傷を服の上から掴みながら、女の子に諭すように言葉を続ける。
「大丈夫だって! これでお別れじゃないんだから……必ず戻ってくるよ」
「……本当?」
「本当だよ。爺ちゃんは、10年くらいしたら戻ってこられるだろうって言ってたから」
「10年……」
自分が生きてきた年月よりも長い期間に、女の子の表情が暗くなる。
堪えていた雫が零れ始めた。
それを見た男の子は白髪をかきながら苦笑すると、桃色の女の子の頭に手を乗せる。
「10年経てば、僕たちは学園生だね。小学校とかへ一緒に通えないのは寂しいけど、学園で一緒に通える事を楽しみにしてるよ」
「ひっ、くっ……約束、だよ? ……破ったら、嫌いになるからね?」
「■■ちゃんには嫌われたくないなぁ……だから、絶対に守るよ」
「うん……うん! ■■■くんが戻ってきたら、約束を守ってくれたら、わたし━━━━」
それは幼い二人だけの約束。
いつか必ず果たされる約束。
それが例えとても難しいことであっても、想いの力さえあれば奇跡だって起こせるのだから。
この世界では、想いの力、すなわち心の強さが力になる。
原理は分かっていないが、心に反応しそれをエネルギーに変える様々な物質が存在していた。
人々はその力を『
なぜ武器が必要だったのか?
それは、『
かつて地球全土を席巻していた人類が、城壁に囲まれた小さな都市に押し込められる要因となった敵。
人の血肉だけでなく、その心さえも喰らう怪物。
━━━
“外”の世界では心喰獣が闊歩し、人を見つけては得物に群がるハイエナの如く心を喰らい、血肉を啜る。
そんな世界で生きていくために、生き抜くために人類は『
心の強さを力に変えて、心を喰らう怪物と戦う。
それが、今の地球で人類が生き残るただ一つの道だった。
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