第213話 助さんの形見
<甚三郎視点>
もう少しだ。盾よ、もう少し持ち堪えてくれ。祈りながら必死に歯車を回し続ける。しかし、願い虚しく盾はボロボロになり機体や甚三郎も被弾し始めた。ここまでか、と思うと急に時間の経過が遅くなったように感じた。脳裏に幼き頃、伊賀の里で一緒に修行した沙沙貴綱紀との想い出が浮かんだ。
甚三郎は徳川家康の、綱紀は織田信長の忍びとして重用された。織田と徳川は同盟関係にあったためたまに情報交換もした。ところが綱紀は突然織田を裏切った。同じ佐々木源氏で血統が直系に近い小寺(黒田)官兵衛についたのだ。綱紀は死後もそれを隠し、娘の彩にその役目を引き継いだ。彩は綱紀の死後、スパイとして武田軍に入り込み、勝頼のトンデモ兵器の設計図や技術者の何人かを秀吉に渡した。それが無ければ大御所の大阪城攻略はもっと簡単なものであったであろうに。
綱紀はいつも彩を気にかけていた。そして甚三郎に会う度に俺にもし何かあったら彩を頼むとしつこく言われていた。甚三郎は自らの死を悟り呟いた。『彩、お前は今どこに……』。そして跳ね橋が降りきった時、意識は途絶えた。
桃は石垣に突き刺さった腕をゼンマイで巻き戻した。
「なんで?あのトーチカを壊さないと皆がやられてしまう」
前回暴走した桃は仕方なく命令にしたがった。お幸に詰め寄ると勝頼の指示らしい。
「桃。私は伝説龍王Z《ゼータゴーリー》の丁装備を使う。桃は
「えっ、戦闘に参加できないのですか?」
「大御所の指示よ。いい、ゴニョゴニョゴニョゴニョ。わかった?」
「納得はいかないけど。わかりました。お幸さん、死なないで下さいね」
「死ぬ訳ないでしょ。私は永遠の18歳よ」
ん?前は20歳じゃなかったっけ?どうでもいいやと気持ちと装備を切り替えて信忠のところへ向かう事にした。
ゼータ戊装備、それは穴掘り戦車である。先端に海軍の船や潜水艦に付いていたドリルミサイルのような物があり、回転し穴を掘る事ができる。その昔、秘密基地に繋がる地下道を作るときに培ったノウハウを全部詰め込んだものだ。以前は人力で掘ったが時間がかかりすぎる。勝頼が大阪城攻略に使うかも?と思い作らせたとっておきの1つだ。
欠点として装甲車の防御力を上げている装甲の厚い部分を外さないと戊装備に換装できない為、改造に時間がかかるのと敵の攻撃には脆くなる。まあ地下道で攻撃はないからいいかっと勝頼は考えていたがどうなるか?
「みんな、お願いします。戊装備です。お幸さんが丁装備なので外した装甲は向こうに」
ここには勝頼秘密工場の技術部、製造部、工作部の面々が揃っている。勝頼が助さんに全部丸ごともってこいと言っていたのがこれだ。ゼータの装備変更は総出でやらないと大変なのだ。
お幸と桃がゼータの装備変更をしている中、里見軍は跳ね橋を渡り切り、後続が安全に橋を渡れるよう盾を展開していた。その後から伊達軍、蘆名軍が橋を渡って行く。三成はそのまま橋を渡らせてなるものかと機銃攻撃を緩めない。その為防御に追われ進軍は遅いが牛歩効果でジリジリと前進が進んで行く。
「いかん、このままでは敵の思い通りだ。何かないのか?お前達はここで攻撃を続けよ、決して手を緩めるなよ」
三成はトーチカや石垣の銃床を周り兵に声を掛けてから武器を探しに曲輪を周った。砲筒を持つ兵には橋の上の兵を集中して狙うよう指示した。弾を武田の真似をしたマキビシ弾に変えさせて。マキビシを踏めば進軍は遅れるはずだ。まだ、右近の長距離砲は完成していない、ここで時間を稼がねば勝機はない。
確かまだあったはずだ。三成は後方の曲輪に下がり帳簿を見始めた。几帳面な三成は武器の帳簿をつけていたのだ。これだ!と叫び、兵に生き残りの甲賀と風魔を集めるように命じた。
橋の上で手榴弾が爆発しマキビシがばら撒かれる。勝手知ったる武田の戦法なので盾を上に向けて直撃は防ぐ事は出来たが撒かれたマキビシはどうしようもない。足でマキビシを掘りに落とすが次から次へと降ってくる。伊達軍は橋を渡りきったが蘆名軍は橋の上で渋滞状態だ。後方の幸村は、
「大御所の戦法でくるとは。やられてみると厄介な戦法だ。うーむ、手榴弾を撃ってきてるのはあの曲輪だけのようだな。道及殿、あの曲輪を落としたいのですが」
「承った。幸村様は視野が広い。元を断たねばきりがありません。この山上道及にお任せを」
道及は一度下がり源三郎信幸から大砲を借りてきた。敵の手榴弾が届くならこっちからも届くのである。武田の大砲が何発か撃ち出され曲輪に当たった。マキビシ攻撃が止まった。
「今だ、橋を渡り陣を組め!」
蘆名幸村の掛け声とともに兵が橋を渡り道及、それに幸村自身も橋をわたった。その後を源三郎信幸率いる信濃勢が続く。源三郎は信平軍だが肝心の信平はお幸の換装を手伝っている。助さんの影響で興味津々のようだ。
「これで完成っと。信平様、ありがとうございました」
「いや、まだではないか?確か助さんがこれをこうして、ほら、ここに付けると」
「えっ、何これ?聞いてないよ!」
「
「ちょっと待って。これ全部付くの?重くない?」
「父上が助さんに全部持って来いと申しておったからもしやと思うてな。ここに来て良かった。お幸殿、助さんの形見だ。よろしく頼む」
お幸は頭を下げる信平を見て涙ぐんだ。信平がここにいるのも助さんへのはなむけなのかもしれない。助さんの想いが込められてるのか、使い方わかるかなと思ったが簡単そうだ。
「わかりました。信平様は自軍へお戻り下さい。このお幸、必ず助さんの凄さを敵に思い知らせてやります」
お幸は重厚装備伝説龍王Z《フルアーマーゼータゴーリー》に乗り込んだ。
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