第210話 ゼータゴーリー

慶次郎の頭に桃の顔が浮かんだのは偶然か?その頃桃は暴走モードに入っていた。新兵器の装甲車に乗り込み、正門から大阪城内に入っていった。


「今の誰、誰が操縦してるの?」


 お幸が装甲車に気づき叫んだ。


「桃です。なんか様子がおかしいんです」


 その時、紫乃が勝頼の指示を持って戻ってきた。桃は母の死を知って混乱状態にあるようだ。お幸は話を聞いたと、


「わかった。あんた達は大御所の側に行って。私はここに残るから、桃は任せて」




 紅、黄与、紫乃、高城、寅松の五人は電動台車デダイに乗って船へ戻っていった。桃の乗る装甲車は外堀を渡る事が出来ず走り周っていたが敵のトーチカから銃撃され動きを止めた。何事かと駆け寄ってきた蘆名幸村と真田源三郎はお幸から話を聞き、


「兄上。何かきっかけがつかめるやもしれません」


「お主が言うならそうであろう。よく見る事にしよう」


 いつのまにか佐々成政までやってきて、武田特製の盾、通称『壁』越しに成り行きを見ている。


「お幸殿。あの車はなんでござる?」


「蘆名様、あれは装甲車と言うそうです。鉄の車で銃を積んでおります。ただ、大御所の奇抜な発想が入ってまして、まあ見てればわかります」


「ほう、あれが大御所のトンデモ兵器というやつですか。冥土の土産に見学させてもらおう」


 佐々成政は初めて見る鉄の車に興味津々だった。と、その時装甲車が変型を始めた。


「あ、あの馬鹿、やっぱり使っちゃっちゃよ」


 お幸が言葉を噛むくらい呆れて頭を抱えた。実はこの装甲車は伝説龍王Z(ゼータゴーリー)と勝頼が呼んでいる変型する装甲車だ。『やっぱり変型は男の醍醐味だ』とまたまた訳がわからない拘りがあり、設計者は死ぬほど悩んでいた。変型はゼンマイで行われ一度変形すると戦闘中には元には戻れない。要は使い所で秀吉の目の前でギャフンと言わせたくて作ったのだが、


「あーあ、ここで使ったら後で怒られるぞ〜。ていうか、あれ私がやる予定だったよね。いや、待って、あれ今甲装備か」


 流石のお幸も動揺しひとり言が止まらない。そうしているうちに装甲車は変型し、身体と両腕が現れた。頭は付いていない。幸村はそれを見て、


「頭はないのですか?龍の顔があると聞いていましたが」


 幸村も見るのは初めてだった。伝説龍王ゴーリーは使い所を選んでいたので見ていない家臣は多い。お幸は、


『頭なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんとですばい』


『一番偉いのはあんたどすえ』


 と夫婦漫才をやって2人だけでゲラゲラ笑ってた勝頼とお市を思い出し、説明したが皆キョトンとしている。まあお幸にも何が面白いのかわかっていないので説明するのもツライ。


 桃はトーチカに向かって腕を向けた。腕は大砲になっている。トーチカを砲弾が直撃したが全壊まではいかない。外壁が鉄で出来ているようで頑丈に作られている。もう一発当てるとトーチカからの攻撃が止まった。桃は続けてもう一つのトーチカを破壊した。


 幸村はそれを見て、


「あれだけの攻撃をしないと無力化できない。この先にあのトーチカなる物がいくつもあると兵を進める事は難しい」


 源三郎は、


「小山城攻めで使った地下を掘るというのはどうであろうか?」


「兄上。穴を掘っているのが敵から丸見えですぞ。案としてはいいですが」


「一ヶ所からの攻めではこの城は攻略できまい。おそらく大御所は多方向からの攻略を考えておられる。わしらは正面突破になりそうだが穴掘りを数ヶ所見せるだけでも敵戦力を分散できる。やる価値はあると思うぞ」


「さすが兄上。確かにそうですな。しかしこの 壁 という盾は素晴らしい。これに車輪をつけて転がすように進めば機銃の攻撃は防げますぞ。問題は外堀の渡り方ですが」


 兄弟の会話が続く中、桃は攻撃目標を失いどうしていいかわからなくなっていた。跳ね橋は上がってしまっていて向こう側に渡る事ができない。





 秀吉は城から望遠鏡でゼータを見ていた。


「へ、変型しおった。勝頼め、遊んでやがるな。馬鹿にしおって」


 ギャフンとは言わなかった。変型には驚いたがそんな物最初から戦車形態でいいだろうと。秀吉は前世でアニメの知識はそれほどなく拘りよりも現実性重視だった。そしてあの戦車は放っておけと指示した。どうせ堀は超えられまいと。跳ね橋操作装置はすでに壊してある。それよりも急ぐ事があった。こちらから攻撃をする準備だ。




 桃は跳ね橋を下ろす方法を探していた。そして跳ね橋の近くに小屋があり、そこに歯車が見えた。


「これね、これが回って橋が上がったり降りたりするのね」


 ゼータの腕は砲身で操作ができない。桃はゼータから降りて小屋に入ろうとしたところ足元を銃弾が跳ねた。


「えっ!?」


 慌ててゼータに乗り込む桃。危なかった、でも足元は偶然なの?それとも威嚇?桃は少しだけ冷静になった。そこに電動台車デダイに乗ったお幸が現れた。お幸はパワードスーツ剛力召喚チカラモチを纒い、手には大きな盾を持っている。


「桃、何やってんのあんた。戻るよ」


「お幸さん。ここです。ここに跳ね橋を動かす装置が」


「そう、見つけたのね。でも戻るわよ、今単独で動いても効果は薄い。それくらいわかるでしょ、冷静になりなさい。それにゼータは私が乗るの、壊されたら困るのよ。しかもただの甲装備でなんて」


 お幸はマジックアームを使って歯車に触ってみた。簡単には動かない。なんだっけ、格さんがよく言ってたやつ、あった、これだ!お幸は出てきた成果はあったと満足し桃を連れて退散した。





 それを外堀の石垣から眺めている者がいた。沙沙貴彩だ。狙撃銃を持っている。父の命令で仕えていた黒田官兵衛は死んだ。だが、今更戻れない。葛藤する中で桃の命を助けてしまっていた。

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