第201話 井伊直政指揮を取るの巻

 空から飛んで来たもの、それは鳥ではなく小型のラジコンハンググライダーだった。数は10機、何か箱のような物をぶら下げている。小さなモーターとプロペラが付いていて航続距離は短いが本体が木製なので重量は軽い。銃撃による防御は全く考えていない近接戦闘用のこれこそ本当の飛び道具である。


 操作するのは信豊とその旗本達だ。前回ギャドンを含む鳥達を操作した面々だ。彼らは信豊の指揮の元、勝頼空軍のメンバーとして密かに特訓をしてきた。


「今回のは簡単だ、細川軍の上まで行けば後は落とすだけだ」


 信豊はそう呟き、望遠鏡『見えるんです』を持ち木に登っている物見の合図を待っていた。物見は合図の手旗を振った。


「今だ、落とせ!」


 信豊の合図と操作盤のスイッチを下げた。それと同時にハンググライダーにぶら下がっていた箱が落下…………するはずがここに来て動作不良を起こした。物見が旗を振っている。えっ、落ちてないって、なんで!


 焦って何回もスイッチを上げ下げする旗本達。それを見ていた井伊直政は機転を効かし、そのまま敵陣に落下させるよう提案した。


「直政、名案だ。よし各々敵陣に墜落させよ!」


 信豊の指示にあわせ落下していく小型のハンググライダー達。細川軍の面々は空から急に落下してきた小型のハンググライダーに向かって槍を刺し、刀で斬り裂いた。何人かは箱も一緒に切ってしまった。その時箱が大爆発を起こした。


 箱の中身は火薬だった。最初の作戦はこうだ。ハンググライダーから落下する箱を狙撃用鉄砲で敵のすぐ上で撃ち爆発させ敵を殲滅するはずだった。箱を落とし狙撃する訓練は嫌になる程行なっていたのだった。ところが箱が落下しなくなりハンググライダー毎落とす事になったのでハンググライダーが邪魔をしてうまく狙撃が出来なかった。流石にそこまでの訓練はしていない。後は敵中の爆弾をどう使うかは直政にかかっている。


 4つの箱が敵によって爆発し敵に衝撃を与えた。敵陣には地面にまだ6個の爆弾が放置されたままだ。細川軍は爆弾の周りから慌てて逃げ出した。そこを織田軍の鉄砲兵によって撃たれていった。


 信豊は、


「直政。ここからはお前が指揮を取れ。信忠殿を殺すなよ。わしも勝っちゃん程ではないが、お松殿の泣き顔は見たくない」


「承知仕った」


 井伊直政は信豊軍から鉄砲隊とマシンガン雨嵐乱連アメアラレ隊を織田軍の前衛に合流させた。そして、爆弾を狙おうとしたが敵兵がいない。こりゃ困ったと思っていたらそこに加藤清正軍が前進してきた。これこそ飛んで火にいる何とかだ。加藤軍は爆弾作戦に気付いていないようだ。先程の爆発音を大砲の攻撃と勘違いでもしているのか前衛が盾を持ちながら前進してきた。


「上手い事行き過ぎだが細川が加藤清正に報告するまでの間が勝負だな。もう少し前に来い、いいぞ、もうちょい、ちょい。よし、今だ。敵の盾は気にするな。とにかく箱を撃て。一発当たるまで撃ち続けろ!」


 直政の命令で一斉に射撃が始まった。弾のほとんどは敵の盾に弾かれたが、敵も弾幕の多さに盾を構えるのが精一杯で進軍が止まっていた。と、急に自陣内で大爆発が起き兵が吹っ飛んだ。加藤軍は何が起きたか分からず慌てふためき、盾を持つ兵の防御が疎かになった。そこにマシンガン雨嵐乱連アメアラレが再び襲いかかり兵の命を奪っていった。


 また大爆発が起き、その後も爆発は続いた。爆発と機銃による攻撃で千名以上が死傷したが、加藤陣から陣太鼓が鳴り響いた後、兵は綺麗に引いていき陣を立て直していた。


「見事な采配。加藤清正という武将は手強いな」


 直政は兵に指示を出した後、後方の信忠に会いに行った。しばらくはまたお見合いになると読んだのである。そして佐竹、里見に軍監として伝令を飛ばした。こいつら見張っとかないと何しでかすかわからん。


 清正の陣には細川忠興が来ていた。箱を使った爆弾攻撃の説明と今後の戦い方について相談したかったのだ。


「清正殿。官兵衛殿亡き後、この戦の大将は清正殿でござる。この先どうされるおつもりかお伺いしたい」


「大将などどうでもよい。どうでもよいが、全ては毛利が信勝を討つか討たないかで決まる。それまでは目の前の敵と戦うだけだ。その爆弾はまだ残っているのか」


「落下した爆弾は全て爆発したとの事でござる。武田陣に残弾があるかはわかり申さぬ」


「もう無いな。あればとっくに使って信勝の支援に向かっているだろう。敵も我らを殲滅して信勝の元へ向かうほどの力は持ってないという事だ。佐竹と里見は?」


「最初の頃は明らかに手を抜いた攻撃でしたが途中から厳しくなりました。おそらくこちらが分が悪いと見たようです」


「あてにはしとらんが、調略など好かん。戦って勝つのが戦ぞ。だが向こうについたとなると厳しいな。このまま毛利からの吉報を待つとしよう」


 そう言って加藤軍は待機の体制を取った。





 さて、肝心の信勝はどうなったのか?信勝軍二万五千に本田忠勝の軍三千が加わり総勢二万八千。これに対し向かってくる毛利宇喜多連合軍は四万五千。信勝は蜂矢の陣を引き防御体制を整えてはいるが、敵の大砲や鉄砲、矢の攻撃を受け蜂矢の1列目は既になく2列目が踏ん張っている。このままの状態が続くと数の暴力で本陣まで粉砕されてしまう。信勝が配置した蜂矢の陣は五千人の陣が縦に四列。これが崩れると本陣まですぐだ。3列目が崩れた段階で逃げる事になっていた。信勝は逃げる気はさらさら無かったが、忠勝の指示が旗本に飛んでいた。3列目には大砲が並べられ毛利陣へ向かって砲弾を打ち続けているが、足留め効果はあるものの大量に兵が倒せるわけでは無い。


 伊賀者と曽根配下の調達部隊が海上の怒露駿技愛ドロスギアから物資を運び続けており、砲弾や弾薬はまだまだ十分だ。信勝は3列目の大砲を4列目に下げさせ、3列目にはマシンガン雨嵐乱連アメアラレを並べた。銃弾は10万発ある。玉井がタイから輸入した鉛のおかげだ。


 2列目の兵はよく踏ん張っていたが崩れ始めた。信勝は合図の陣太鼓を鳴らし、2列目の残兵を4列目の後ろへ下げさせた。兵を休ませるためもあるが、次の作戦のためだ。

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