第182話 鳥の代わりは?

 佐々成政は敵が予想通り信平軍を攻撃してきたので、ほれ来たと毛利の側面に得意の突撃をかまそうとしたところ、目の前に敵が現れた。福島正則と細川忠興の連合軍だ。


 福島正則。賤ヶ岳七本槍の一人で秀吉の子飼いの一人だ。幼い頃から秀吉、ねねに可愛がられ戦功もあげ、今では因幡一国を治める大名になっている。細川忠興は丹波一国の大名に出世した。


 佐々成政はこの戦が死に場所と決めている。秀吉の首を取る、ただその一念のみで戦に参戦したのだ。こんな小童どもなど敵ではないわ、と突っ込もうとした。そこに北側から進んでくる軍があった。蘆名幸村の兵であった。幸村からの伝令が届いた。


「蘆名も参戦致します。背後に黒田官兵衛の軍二万が控えている様子、お気をつけ下され」


 幸村か。真田の息子だな。どれだけやるのか楽しみだ。






 反対側では伊達小次郎が一万の兵を連れて信平軍に加勢に向かおうとしたところ、敵が向かってきた。加藤清正と宇喜多秀家の連合軍だ。その数二万五千、それを見ていた真田軍から昌幸が兵五千、信豊軍から原が北条含む関東勢一万を連れて合流しようとしていた。


 昌幸は勝頼から加藤清正が後世に残る名武将と聞かされていて戦ってみたいと思っていた。それが実現した。ところが,,,,,


 意気込む佐々成政、真田昌幸だったが、敵の目的はあくまでも信平軍であり、福島正則、加藤清正の役目は足止めであった。つまり押しては引き、引けば押せとうまく戦闘を交わされ双方小さな犠牲で時間ばかりが過ぎていった。


 そして肝心の信平軍だが毛利軍の猛攻を凌いでいた。お互いに鉄砲を撃ち合い、弓矢を飛ばし均衡状態が続いている。むやみに近づくと銃弾の餌食になるのでお互いに近づけなかった。信平はこの状態を不味いと感じ、勝頼から届けられた秘密兵器の準備を始めた。その時、轟音とともに毛利軍に豊臣軍の秘密兵器こと援軍が到着した。


 国友村の右近。武田のトンデモ兵器に対抗心を燃やす秀吉子飼いの技術屋だ。その右近がこの数年かけて開発した新兵器、装甲車 秀麟丸だ。鉄の車輪が8個、8輪車でボディーは木枠の外に鉄板が貼られている。駆動は電池で一人乗りだ。武器は機銃で前後左右に一丁ずつ付いている。ただ乗り心地は最悪だ、何せ日本にはゴムがない。タイヤではなく鉄の車輪なので振動は凄まじい。


 音がうるさいのは威嚇効果を狙っている。暴走族の『パラパラパラパラ〜!』のような物で秀吉のアイデアだ。ついつい目がいく、ヤバいと逃げ回る、音には色々な効果があるのだ。どうやら前世で苦い思い出があるらしい。


 秀麟丸は全部で10台、そのうち4台は対伝説龍王伍号機ゴーリーファイブに向かい、この戦場には6台の秀麟丸が投入された。武田陣の馬防柵に機銃を乱射しながら突っ込んでいった。


 馬防柵をなぎ倒しながら秀麟丸は信平軍の鉄砲隊を蹂躙していく。逃げ回る兵を追いかけ回す秀麟丸の後を絶好の機会と毛利兵が前進して鉄砲を撃ちまくった。そして徒士の兵が怒涛のように信平軍に流れ込んできた。


「不味い、急がねば。陸軍精鋭隊、前へ」


 真田昌幸は信平軍の方から聞こえてくる銃の乱射音を聞き、温存していた兵器を投入しようとしたが、その隙を見逃す加藤清正ではなかった。清正は真田昌幸という男を警戒していた。本多正信、黒田官兵衛から清正の役目は真田昌幸に仕事をさせない事だと何度も何度もしーーーーつこく言われており、昌幸軍の動きを見つつ仕掛けていたのだ。それを見た原が横から強引に突破しようとしたが、宇喜多秀家がそれを抑えた。元々強い武将が稀代の指揮官に指示され、流石の真田昌幸も五分に渡り合うのが精一杯だったのだ。その後も小競り合いが続き、信平軍方面からの銃声はなり続いた。


 昌幸は歯ぎしりしつつ、呟いた。


「源三郎、頼む、持ち堪えてくれ」







 信平本陣。信平の横には砥石城主矢沢頼康、昌幸の従兄弟が控えている。


「頼康、準備は」


「ハッ。整いましてございます」


「父上はここには鳥をよこさなかった。その代わり余にあれを託した。この展開を予想していたとしか思えん」


「………」


「源三郎に伝令を。もう少し持ち応えよとな」



 前線では源三郎の檄が飛んでいた。


「長槍隊、あの車輪に槍を突っ込むのだ。足を、足を止めろ!鉄砲隊、怯むな。隊形を立て直し徒士の兵を撃て。弓矢隊、とにかく撃ちまくれ。進軍を遅らせよ」


 秋山信友はその指揮ぶりを横で見ていた。やるのう、真田の息子は。これならば安心してお屋形様の元へ行けるな。信廉様、馬場殿、この虎、直ぐにそちらへ。


「岩村城の者達よ。今こそ日頃の鍛錬の成果を見せる時ぞ。山城の者ならではの攻撃、見せてくれようぞ!」


「おお!」


 秋山の号令とともに先の尖った丸太を持った兵達が一目散に秀麟丸に突っ込んでいった。竹襖を持った弾除けの兵を前面にし、なりふり構わず突進した。丸太が車輪にはまり秀麟丸の動きが止まった。秀麟丸の操縦士は急に止まった勢いで車内で頭を打って気絶した。


 続けて同じ攻撃が全ての秀麟丸に行われ、装甲車 秀麟丸は動かなくなった。秋山隊は多くの犠牲を出しながら敵の新兵器を封じた。


「源三郎ー!秋山がここを引き受ける。陣を立て直せ!」


 秋山は叫びながらなだれ込んでくる毛利兵に大声を出しながら槍を振り回し突っ込んだ。秋山兵も負けじと大声を上げつつ、主に続いた。死を恐れずに暴れまわる秋山軍に、毛利軍は優勢だった事を忘れ引き気味になってしまった。


 声、たかが大声だが音は戦場を支配する。岩村城は山城だ、周りを気にせず大声が出せる。秋山は普段から兵に大声を出す訓練をしていた。信玄直伝の戦法だ。


 そこに、沢山の大きさ30cm位のミニカー?が信平本陣から走ってきた。

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