第156話 風魔再び

 大凧はこちらに背を向けている。が、よく見ると凧に何かがぶら下がっている。このまま信勝達が進むと凧の真下を通ることになる。信勝は進軍を止めて、凧を撃ち落とすよう命じた。


「上様。お待ち下さい。変ですぞ、あからさま過ぎます」


 慶次郎が不信がった。凧に気にとられて足を止めて迎撃準備を始めた信勝達の背後、つまり京の街の方から突然数百名にも及ぶ兵が襲いかかってきた。兵は見つからないように一箇所に集まるのではなく、街の中に散開していてこの時を待っていたようだった。そして、信勝達が進軍を止めた瞬間に一気に集合し突っ込んできた。


 兵を指揮するのは武田五郎盛信だった。信勝を討てば甲斐と信濃を貰える、ここで手柄を立てるしか生きる道がなかった。どこで間違えたのか、そう兄上が突然失踪するのが悪いのだ。あの時はまだ織田信長がいた。信長の家臣だった秀吉と手を組んだ。勝頼のいない武田家と信長、どう見たって信長を選ぶ。穴山も同じ考えだった筈だ。そこからこの道を選んだ。今更後戻りはできん、秀吉は関白だ。関白に従い、信勝を討つ、その一点のみだ。


 慶次郎は前方が気になっていたが、戦国飛行隊の4人が向かったので任せることにし、直政に信勝の護衛をまかせ後方から攻めてくる敵を相手することにした。すでに高城が動いており荷駄から取り出した筒のような物から桜花散撃をぶっ放していた。


『ダーン!』


 空中からマキビシがばら撒かれる。後ろの方の敵の足を止める事ができた。が、すでに百名程の敵兵が駆け抜けた後だった。


 敵兵は信勝軍の最後尾に突っ込んできた。不意を突かれた形になり一瞬乱れたが、高城と慶次郎の指揮でなんとか盛り返した。それでも五十名程の犠牲者が出た。


 その頃、比叡山からハンググライダーが飛び立っていたが、それには誰も気付いていない。





 信勝軍前方の凧は3つに増えた。凧から荷物のような物がぶら下がっている。このまま進むのは危険に見えた。


「半蔵様達は何してるの?何であんなの見過ごすのよ!」


 桃が叫んだ。どうやら吹っ切れたようだ。


「桃、あんたあたしらの頭領なんだからね、しっかりしてよ。伊那忍びの見せ場だよ」


「そうよ。茜様の武田忍び、服部様の伊賀忍びに負けてらんないんだからね」


「大御所の最初の護衛は伊那忍びなんだから。これからも武田とともに、うわぁ!」


 凧を上げている敵?目指して走っている4人に苦無が飛んできた。短刀で弾くと小さく爆発した。


「え、これって?」


「風魔?」


 4人は勝頼デザインのアルミでできた軽量鎖帷子の上に今でもいうジャージにスェット、そして先端に鉄が入っている安全靴タイプのスニーカーを履いている。とりあえず怪我はしなかったが、足を止めて周囲を見ると忍び同士が入り乱れて戦っている最中だった。


 伊賀と甲賀、つまり武田と秀吉の忍びがぶつかっているようだった。4人は隙間をくぐって凧の方へ向かっていった。そこに服部半蔵が合流した。


「風魔がいる。気をつけろ」


「やっぱり。さっき苦無に火薬が仕込んでありました。ただ甲賀者のようでした」


「風魔の技術が甲賀に流れている。手強いぞ」


「あの凧は何ですか?」


「わからん。凧にぶら下がっているのは爆薬かもしれん。あれを上様にぶつけるつもりではないか」


「だとすると下手に凧を落とすと危ないという事ですか?」


「糸を切っても凧は風で上様の方へ向かって飛びそうだ。落下する凧は何処へ行くかわからんが方向が不味い。上手く風上を使われた。さっき風魔の小太郎がいた。あやつがいるとなると手強い」


 凧はあのままでも嫌な感じだし、落としても上様の方へ飛んでくって、えっと不味くない、これ。

 てことは、凧を上げている奴を倒して凧を遠ざけるしかないって事?




 半蔵達5人は凧を上げている連中に近づいた。凧を持っている人が3人づつ、他に2人づつが横についている。その前に風魔の小太郎が待ち構えていた。


「小太郎。久しぶりだな。ここで会うとは、いつぞやのお返しができそうだ」


「服部半蔵か。やはり生きておったな。このまま引けば見逃してやってもいいぞ」


「北条を見限って秀吉に付くとは。風魔は先が読めぬと見える」


「秀吉とは昔から色々あってな。これも縁よ。そっちの4人は伊那のものだな。お土産は気に入ったか?拷問しても何も喋らん、まあ喋っても死ぬのは同じだがな」


「お前が父上を!」


「ほう、娘だったか。親娘仲良く地獄へ送ってやろう。かかれ!」


 小太郎の合図で凧を持っている者以外、計7人が向かってきた。それを見た黄与と紫乃は両手にリボルバー雪風を持ち撃ちまくった。一気に4人を倒したが相手も炸裂玉を投げてきて黄与と紫乃は吹っ飛ばされた。勢いよく飛ばされ受け身を取ったが打撲で動けなくなってしまった。紫乃は何とか応援求むの合図の花火もどきを打ち上げた。


 その合図は味方も見たが、当然敵も見た。


 半蔵、桃、紅の3人と風魔の小太郎含む3人。3対3の戦いになっていた。桃と紅は懐に雪風を持っているが敵は雪風を抜く暇を与えてくれない。一進一退の攻防が続いていたが、小太郎が痺れを切らした。


「お前ら、凧を離せ!で、こいつらを倒せ」


 凧を持っていた9人が同時に凧を空へ解き放った。凧は風でクルクル回りながら信勝のいる方向へ飛んで行った。


「まずい!」


 半蔵が叫んだ時、合図を見た伊賀忍びが多数合流した。


「桃殿。そなたらは凧を。ここは伊賀者は引き受ける」


「わかりました。紅、行くよ」


 2人は全速力で走り出した。が、凧の方が早い。と、そこにハンググライダーが現れ凧に衝突した。

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